第35話 レベル20のアーニャ


「スピカ、アーニャ、ちょっと話があるんだけど。」


 朝食前に2人にスキルの話をすることにした。

 昨夜はもう眠る時間だったのでスキルを覚えたことを言わなかったのだ。


「どうしました?」


 スピカが聞き返した。アーニャはこちらを見ている。


「なんか、新しい称号を覚えたんだ。レベルアップしてないのに称号を覚える事もあるんだね。」


「聞いたことがないですニャ。」


「私も知りません。そんなこともあるのですね。転移者だからでしょうか? レベルに関係なく覚えるのは加護くらいだと思うのですが、加護は称号でもスキルでもありませんからね・・・」


 2人とも知らないようだ。確かにかなり特殊な称号である。


「これなんだけど。」


 冒険者カードに新しく覚えた称号を表示して2人に見せた。




************


スピカの友

 称号スキル

   経験値享受(U):スピカの分の経験値を受け取ることができる


 義務

   ときどきブラッシングをすること


************




 正直なところ、秘密にしておきたい称号である。

 レベル10になって武器や防具を装備できるようになったので、レベル上げの重要度は少し下がっている。

 ありがたい称号スキルではあるが、これ、スピカの経験値を奪ってない?

 友の経験値を奪うスキルってどうかと思うのだが・・・


 そして、問題はアーニャだ。


「・・・・・・・・・それは無いですニャ。」


「アーニャ?」


 アーニャは恨めしそうな顔で僕を見ている。

 僕が望んでスキルや称号を得ているわけではないのだが、ことごとくアーニャの経験値分配のスキルが無駄になるスキルがついて来る。

 何かを試されているのだろうか?


「アーニャ、問題ありません。私は今まで通り基本的には戦闘に参加しませんよ。足で抑える程度です。アーニャにはレベルアップしてほしいですからね。」


「スピカ様、ありがとうございますニャ。」


 アーニャは案外すぐに冷静になった。だいぶ慣れてきたのかもしれない。なんだかこんなことばかり起こっている。


「どこでアーニャのレベル上げをしようか? レッド種と戦うのがちょうどいいかな? ブラック種はまだ早いよね?」


「そうですね。エルフの村のそばがいいのではないですか?」


 転移で簡単に行けるところが良いだろう。少しずつ行動範囲を広げる感じがいいだろう。


「アーニャもそれでいい?」


「はいですニャ。」




 朝食後に転移でエルフの村近くの森へ転移した。

 できるだけ転移ができる範囲の中で端の方へ転移した。


 レベル10になって、持っている武器や防具が装備できるようになってから最初の魔物との戦闘である。

 魔法を反射する盾や、魔物の防御力に関係なく大ダメージを与える英雄の剣など試してみたい武器や防具はいろいろあるけれど、今回はアーニャのレベル上げなので今までの装備で戦闘に臨むことにした。

 そして、レベルを上げるために、アーニャは冒険者パーティーから抜けている。

 これで、経験値分配のスキルが発動しないわけである。

 アーニャは嫌がったが、早くレベルアップするためだからと説得した。


 5体の魔物を倒したところでアーニャのレベルが上がった。

 これでレベル20である。

 せっかくなので昼まで魔物と戦う事にして、あと5体の魔物と戦闘して屋敷へ戻った。




「アーニャ、なにか覚えたか確認しよう。」


 そう言って、僕はアーニャの冒険者カードをアイテムボックスから出してアーニャに渡した。

 まずは自分で確認したいだろう。


「・・・・・」


 冒険者カードを確認したアーニャが黙り込んでしまった。

 なんだか顔が真っ赤になっている。


「アーニャ?」


「ご、ご主人様・・・」


 アーニャは真っ赤なまま目を伏せて僕を見ないようにしながら冒険者カードを差し出してきた。

 受け取って表示されているステータスを見た。




************


アーニャ(猫人)


レベル :20


HP   :189

MP   :63

物理攻撃:91

魔法攻撃:32

物理防御:78

魔法防御:47

すばやさ:108

運   :23


称号  :青の花嫁候補(new)


スキル :経験値付与(R)


魔法  :生活魔法

    :水魔法(new)


犯罪  :なし


その他 :ウンディーネの加護(new)


************




 見なかったことにはできないだろうか?

 不穏な称号が見えたのは気のせいだと思いたい。


「ウンディーネの加護は多分会ったときだね。」


「そ、そうだと思いますニャ。しばらく冒険者カードを見てませんでしたニャ。」


「魔法を覚えたね。水魔法だからこれもウンディーネに関係しているのかな?」


「う、ウンディーネの加護のおかげだと思いますニャ。」


「称号の青の花嫁候補はアサヒと結婚しろという事ですよね。」


 何とかスルーできないかと頑張ったのだが、スピカが許してくれなかった。


「候補だから結婚しなきゃいけないわけではないと思うけど?」


「詳しく見てみましょう。」


「わ、分かりましたニャ。」




************


青の花嫁候補

 称号スキル

   なし。青の花嫁になったときに強力なスキルが得られる。


************




 なんじゃこりゃ?


 アーニャが真っ赤な顔のままじっと僕を見つめている。

 なんだか嫌な予感がするのだけど。


「アーニャ?」


「頑張りますニャ。」


「落ち着いて。」


「頑張りますニャ。」


「無理はしないでね?」


 アーニャは真っ赤な顔で神妙にうなずいた。


「頑張りますニャ。」


 同じことしか言っていない。

 結婚には両親の了解が必要だからすぐにどうこうという事はないだろう。

 しばらくしたら落ち着くかもしれないから様子を見ることにした。

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