第36話 剣を試す、盾を試す


 アーニャがレベル10になったので、冒険者パーティーを組んでレベル上げを再開である。


「僕もレベル10になって神殿の武器や防具を装備できるようになったから試してみていいかな? ダメージを与えられるか試してみたいんだ。」


「いいのではないですか。無駄だとは思いますが。」


 スピカは相変わらずである。


「分かりましたニャ。ご主人様の武器、見てみたいですニャ。」


 アーニャは優しい。そして、通常の状態に戻ってくれたようだ。


 最初に遭遇したのはレッドビッグベアである。

 勇者の剣を装備した。魔物の防御力に関係なく大ダメージを与える剣である。

 勇者と名前があるくらいなので、アブソリュート・ゼロを無視して魔物にダメージを与えることができるかもしれない。


 じりじりとレッドビッグベアににじり寄る。

 技物の剣だと分かるのか、僕を警戒している。


 僕が切りかかった瞬間に、いつの間にかレッドビッグベアの後ろへ回り込んでいたアーニャがレッドビッグベアの背中を袈裟懸けに切った。

 痛がるレッドビッグベアに僕の剣が振り下ろされる。

 何か固いものにあたったような感触がして僕の剣が止まった。感触はとても堅かったがはじかれることはなくピタリと止まった。

 着られると思って身構えていたレッドビッグベアは慌てて飛びのき、僕を無視してアーニャへ正対しようとした。しかし完全にアーニャと向き合う前にアーニャの二撃目がレッドビッグベアの首を切り飛ばした。


 レッドビッグベアは派手な音を立てて倒れ、光に包まれて消えた。

 昨日は冒険者パーティーを組んでいなかったからドロップ品を拾わなければならなかったが、今日は僕のアイテムボックスにドロップする。レアドロップも落ちるから今日からの稼ぎはかなり多くなりそうである。


 そして、やはりダメだった。そもそも武器を装備すると攻撃自体ができない。


「やはりダメか。」


「どうします、他も試しますか?」


「そうだね。もう一つだけ試してみるよ。即死効果のある剣があるから。」


 剣はこっちが本命である。英雄の剣は装備してみたかったというのもある。鑑定には書いていなかったが、もしかしたら身体能力が上がる効果があるかもしれないと思ったのだ。無かったけど。


 即死効果のある死神の剣を装備する。別に鎌の形をしているわけではない。あと、神殿には死神の鎌的なものも無かった。まあ、神殿にはふさわしくない。この剣はいいのかな?


 レッドミノタウロスと遭遇して剣を試したが結果は同じだった。攻撃が当たらないのでは度の剣でも同じだろう。他を試すのは時間の無駄だと思うので諦めることにした。


 僕が攻撃を受けた時と同じことが、僕が攻撃したときにおこるのであれば、魔法は当たるはずなのでレベル20で魔法を覚える事を期待しよう。

 同じことが起こるのであれば当たってもダメージが与えられないわけだが。


「そういえば、森で出会う魔物は魔法を使わないの?」


 今のところオークキングが魔法を使っただけで他の魔物は魔法を使っていない。


「森の魔物は魔法を使わないですニャ。魔法を使うのはダンジョンの魔物ですニャ。」


 アーニャがそう言うと、スピカが付け足した。


「キング種は魔法を使いますよ。」


「オークキング以外も?」


「はい。ビッグベアーキングやミノタウロスキングは魔法を使うものはほとんどいませんがごく稀に魔法を使うものもいます。」


「そうか。魔法を使う魔物で試したいことがあったんだけど、キング種だとちょっと危険だね。」


「では、私とアサヒで試せばいいのでは。」


「留守番していますニャ。行ってきてくださいニャ。」


「ありがとう。お昼に試すよ。」


 昼食を食べた後の休憩の間にスピカと神殿の近くに行くことにした。

 何度か留守番をお願いしたからだろうか、アーニャが進んで留守番をすると言ってくれた。


「それで、昼まではこれまで通りの戦い方に戻るのですか?」


 スピカがちょうどいいタイミングで質問してくれたので、次に試したいことを言った。


「次は盾を装備して戦ってみるよ。戦い方は今まで通り僕が魔物の注意を引いて、そのすきにアーニャが攻撃をするかたちで。」


「分かりましたニャ。」


 戦い方はだいぶ洗練されてきていた。

 見た目は良くないが、僕が攻撃されているスキにアーニャが魔物の足を攻撃して、倒れた魔物をスピカが押さえつけて最後にアーニャが止めを刺すのだ。

 基本、僕は吹っ飛ばされる。

 飛ばされないような効果がある盾があるかもしれないので試す価値は十分にある。


 ちなみに、最初にスピカが魔法で眠らせると、スピカの戦闘の貢献度が大きいせいで僕とアーニャが得られる経験値が少なくなるそうである。

 戦闘中に回復魔法を使っても回復させた分がダメージを与えたのと同様に評価されるのだ。


 まずは、ダメージを反射する盾だ。

 魔物にダメージは与えられないと思うが、反射する分はこちらの衝撃が減るかもしれない。まあ、僕の予想が正しければ別の効果があるような気がする。


「最初はダメージ反射の盾を試してみるよ。」


「そのままのネーミングですね。魔物にダメージは与えられないと思いますよ?」


「分かっているよ。僕の衝撃が減って、吹っ飛ばされなくなるかもしれないでしょ?」


「なるほどですニャ。」


 アーニャは感心してくれたが、スピカはそうでもないようだ。


「アーニャ、アサヒが吹っ飛ばされても動揺してはいけませんよ? アサヒは吹っ飛ぶものとして戦ってください。」


「分かりましたニャ。」


 スピカの発言は気にしない。さすがに慣れた。慣れたことがちょっと悲しい。


 レッドオークと遭遇した。索敵で魔物の種類まで分かるようになったが、今は種類は確認せずに魔物を探している。近くに居る魔物と順番に戦っているのだ。


「いくよ。」


「はいですニャ。」


 盾を構えてレッドオークへと突っ込んでゆく。

 ぶんなぐられたら今まで通り吹っ飛んだ。

 ただ、盾がない時とは違って、レッドオークが痛がっている。

 隙だらけの所をアーニャが攻撃して、足を切断した。

 スピカがレッドオークを踏みつけ動きを封じ、アーニャが止めを刺した。


「もしかして、ダメージを与えたニャ?」


 少し興奮気味にアーニャが聞いてきた。


「多分違うよ。ダメージは与えていないけど痛みは与えたんだと思うよ。僕が魔物に殴られたとき痛みは感じるからもしかしたらと思ったんだけど、痛みは反射するみたいだね。」


「なるほど。そういう狙いでしたか。痛ければスキができますからね。」


「ご主人様、私のためニャ・・・・・・ニャポッ


 アーニャが感激している。いや、今までだって同じことをしていたよ?


 この後もいくつかの盾を試してみたが、残念ながら僕が吹き飛ばないような盾は無さそうだった。スピカによると僕のレベルが上がらないと駄目なようだ。

 結局、最初に試した盾が一番よさそうだ。

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