第37話 結婚の考察


「ご主人様、手伝いますニャ。」


 昼食を作り始めたらアーニャが近づいてきてそう言った。

 アーニャの後ろにはスピカも付いてきている。


「戦闘で疲れているでしょ? 休んでいていいよ。」


「でも、ご主人様も戦っていますニャ。同じですニャ。」


「僕はアーニャみたいに動き回ってないから。」


 僕は勇者の剣を持って歩いて魔物に近づいて行くだけである。

 魔物は、勇者の剣を持っていると、目が釘付けで僕を警戒してくれる。

 もう、戦うふりをする必要もない。ただ歩いて近づくだけである。剣を構えてもいないのだ。

 ちょっと痛いけど、疲れようがない。


「花嫁修業ですニャ。お料理を教えてほしいですニャ。」


 アーニャがもじもじしながらそう言った。

 自分が結婚しようとしている相手に料理を教わるのか? いかがなものだろう?

 まあ、僕好みの味付けにはなる。むしろ良い方法なのか?


「結婚する相手にお料理を習うのですか? まあ、アサヒの料理は美味しいと思いますが。」


 既に照れて赤くなっていたアーニャの頭のてっぺんからぽふっと湯気が噴出したように見えたけど、気のせいだろう。


「花嫁修業はともかく。料理を覚えるのは良いことだね。」


 アーニャに説明しながら昼食を作った。

 トリ肉たっぷりのアンチョビガーリックの野菜炒めと、カレースパイスで味付けしたレッドオーク肉のステーキ、そしてついにコメの登場である。白米のゴハンである。後は僕が好きなのでサラダ。今回はサラダの中にサムエリンゴを入れてみた。


「これは美味しいですニャ。初めて食べましたニャ。」


 アーニャがゴハンに感激している。しかも、ゴハンだけを単品で食べてである。

 ふむ。大変素質がある。

 確かにこちらの世界のコメは以上に美味しい。なんだこれ?


「アーニャ、ゴハンは野菜炒めやステーキと一緒に食べるとおいしいよ?」


「どれ、私も試してみましょう。・・・こ、これは!」


 アーニャより先にスピカが反応した。食い意地が張っている神獣様である。

 天を仰いで感動に打ち震えている。神獣が神に感謝している? 神様、リリエラ様だよね? 僕に感謝すべきでは?


「アサヒ、お代わりです。」


 そうなるよね。


「どうぞ。アーニャもお代わりどうぞ。」


 食べ終わりかけていたアーニャにも勧めた。


「ありがとうございますニャ。ご主人様もどうぞですニャ。」


「ありがとう。」


 久しぶりに誰かにお代わりをよそってもらった。いいなこれ。

 どちらかと言うと姉にお代わりをよそう事の方が多かったし、姉がよそってくれるときは動作が雑でありがたみがなかった。美人だが男前な姉なのだ。

 こちらの世界で結婚するのはどうかと思うのだけど、心が揺れ動く。

 アーニャは素直で可愛い。




 昼食後、屋敷に転移してアーニャには待機してもらって神殿の辺りに転移した。

 近くにオークキングがいることは確認済みである。


 最初の1体目で杖を持ったオークキングに遭遇できた。

 魔法を反射するローブを装備してオークキングに近づく。


・・・・・・・・・・


「やっぱりダメか。」


「では、倒しますね。」


 当然のようにスピカがオークキングを一撃で倒した。


「せっかくだから、一通りの肉を集めましょう。」


 スピカの発言が肉屋での会話のようである。お願いだから魔物と言ってほしい。

 索敵で調べ、ミノタウロス、ビッグベアー、ビッグディアー、ビッグカウのキング種を倒した。

 そういえばビッグカウのレアドロップはミルクだったことを思い出した。前に戦ったときにドロップしなかったからわかってはいたが、ビッグカウキングのミルクはめったに手に入らないものだったのだ。今度は大切に使おう。




 屋敷に帰って、冒険者カードを確認して驚いた。

 レベルが6も上がっていた。

 キング種は1体倒すとレベルが1上がるのか。


「レベルが6も上がっているよ。」


「そうですか。確かに、キング種の経験値がすべてアサヒの物になるのでそのくらいは上がるのでしょうね。」


「ご主人様、レベル16ですニャ? すぐに追い越されそうですニャ。」


 アーニャも驚いている。ショックは受けていないようなので、僕にレベルを追い越されるのは構わないようだ。

 確かに、この先何を覚えても魔物にダメージを与えられる気がしない。

 スピカがいるからダメージを与える役はすでにいる訳だが、神獣であるスピカに頼るのはあまり良くない事なのだろうから、アーニャは必要な人材である。

 何よりも、出会ってからそれほど立ったわけではないが、大切な仲間である。


 アーニャにあんな称号が出たのだから、今後、アーニャと親密になってゆくのかもしれない。

 こちらの世界でアーニャを看取るまで生きてから日本へ帰っても、歳を取らずに転移の直後に戻るのだから、結婚すること自体は問題ないのだ。こちらの世界には五百年弱までならば好きなだけいることができる。

 ただ、僕、ちょっと好きになりかけていた娘がいるんだよね。

 日本に戻って何事もなかったようにその娘と恋人になることはできない。

 多分僕には無理だ。

 しかも、同じクラスの娘だからこちらの世界に来ているのだ。

 僕が彼女を好きなことはまだ誰も知らないと思うので、リリエラ様にも彼女個人の事は聞いていない。皆が大丈夫か聞いただけである。薄情だろうか?

 彼女の気持ちも分からないので仕方がないだろう。

 それなりに仲良くなったと思うのだが・・・

 僕は安全だという事は伝わっているはずだ。

 このままだと彼女よりアーニャの事が好きになってしまうかもしれない。

 アーニャの家族の無事を確認したらリリアーナ王国へ行って彼女にあった方が良いかもしれない。

 ・・・・・・


「ご主人様? 黙り込んでどうしましたニャ?」


 いつの間にか考え事に没頭してしまった。


「ああ、ごめん。ちょっと考え事をね。」


「何か悩み事ですか? 相談に乗りますよ?」


 スピカに相談をすると身も蓋も無いことを言われそうである。


「いや、いいんだ。」


「そうですか。今日はこれからどうしますか? やはりレベル上げを続けますか?」


 実は、ビッグカウキングのミルクを手に入れた時にやりたいことを思いついた。

 アーニャが料理の勉強をしたいと言ったこともある。


「それなんだけど、ちょっとやりたいことがあるんだ。ケイシャ商会に行きたいのだけど、いいかな?」


「いいですよ。」


「分かりましたニャ。ご一緒しますニャ。」


 僕一人で出かけようと思ったのだが2人ともついて来るつもりのようだ。


「スピカ、今日狩ったキング種の肉の半分をウルスラさんにあげていいかな? 僕達も食べるわけだし。」


「構いませんよ。また狩ればいいのです。」


「あと、ビッグカウキングのミルクの半分を加工したいのだけどいいよね。」


「もちろん構いませんよ。そもそもミルクはレアドロップですからアサヒの物ではないですか。」


「倒したのはスピカだからね。」


「まあそうですね。」


「ビッグカウキングのミルクで生クリームを作って、お菓子作りに使おうと思うんだ。それで、ケイシャ商会へ行こうと思うんだ。」


「なるほど。それは楽しみですね。」


「楽しみですニャ。」


 ケイシャ商会に生クリーム作りを依頼して、後は屋敷でのんびりと過ごした。

 夕方にギルドマスター2人とイリスさんが訪ねてきたので夕食を一緒に食べた。


 近々休みが取れるのでまた飲み会を開くことになった。

 メンバーはウルスラさん一家とヌガさん、ギルドマスター2人とイリスさん、A級冒険者のシリルさん、ケイシャさんと妹のセリカさん。

 スピカも1人と数えると総勢14名である。

 リエラの冒険者ギルドマスターのエドガーさんおススメの店を貸し切っての宴会である。ちょっと楽しみだ。



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ただいま自転車操業中です。

毎日更新が途切れるかもしれません。

誤字、脱字、誤変換等が多いかもしれません。

もうしわけないです。

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