第38話 アーニャの宣言


 飲み会まで3日。

 レベル上げをしながらも、エルフの村やアーニャの村へ立ち寄ったりしていたので、僕もアーニャもレベルは上がらなかった。

 アーニャの村はまだ特に変化がなかった。レベル上げで肉が大量にあるので腐らない程度を寄付した。

 クシャルとスシャリ、アーニャと一緒にお菓子作りもした。

 いきなりビッグカウキングのミルクで作った生クリームを使うのは不安なので、レッドビッグカウの生クリームを買って練習してみたのだ。

 スポンジケーキは自信が無かったので、比較的簡単に作れそうなチョコレートケーキを作った。

 魔道具レンジが有り、オーブンレンジと使い方が一緒なのでお菓子作りも楽にできる。レシピ本もあるし、そもそも僕はお菓子作りが結構好きでよく作っていたのだ。




 飲み会、と言うかお酒付きの夕食会と言うべきか。

 スタートは夕食メインなのでウルスラさん一家の隣で、クシャルとスシャリの2人と話をしながら食事をした。

 ツキカリさんの隣には豚人族のヌガさんが座っていたので、そもそもツキカリさん達と何をするために森に入ったのかを聞いてみた。助けた時はバタバタしていたので聞き損ねたのだ。


「おらはキノコ採りの名人だ。トリュフを採るはずだったんだ。」


 豚人族だけにトリュフだった。よく聞いたらたまたまの事で、キノコ採りが得意なのはエルフに多いそうだ。

 ちなみにツキカリさんはB級冒険者で結構強いらしい。

 今は、ツキカリさんヌガさんとクシャル、スシャリの4人で子供2人のレベル上げをしているらしい。


 夕食が終わったら飲み会の方に合流だ。アーニャとスピカはウルスラさん一家と一緒にデザートを食べながらくつろいでいる。

 僕もお酒は飲まないのでウルスラさん一家の方が良いのだけど、今の状況を聞いておきたいのでギルドマスター達に合流である。


「南部の状況はどうですか?」


 ギルドマスターの2人ではなくイリスさんが答えてくれた。


「順調ですよ。」


 イリスさんの説明によると、連れてきた南部の貴族たちは全員奴隷のまま監視付きでそれぞれ元の場所へ戻すそうだ。

 そして、彼らにこちらの要求を強制的に守ってもらうのだ。

 一部の奴隷を除く、獣人、エルフ、ドワーフの奴隷の開放。

 人族も含めた奴隷の扱いに関する法律を北部と同じものにする。

 貴族の子息や軍の上層部に国王軍の演習を見学させること。

 貴族の子息を北部の学校に通わせること。などである。


「まあ、国王軍の演習を見学すれば反乱を起こそうという気もなくなるだろうよ。」


 ライカールのギルドマスターのキカさんがそう言って笑った。


「戦力差が明らかですからね。」


 イリスさんが補足してくれた。軍の演習を見せるのは反乱が無駄だと分からせるためか。


「そもそも無謀な反乱だったのじゃからな。」


 今度はリエラのギルドマスターのエドガーさんだ。


「奴隷の開放はかなり進んでいるから、ひと月以内に元居た場所へ戻れるはずだ。」


 キカさんはそう言うと酒の入ったジョッキを掲げてから、一気に飲み干した。


「さあ、飲みましょう。アサヒはお酒を飲まないのですか?」


「そうですね。僕の居たところでは20歳までお酒は飲めないのでやめておきます。」


「あら、こちらでは15歳から飲めるのだからいいではないですか。」


「そうだぞ、アサヒ。郷に入りては郷に従えだ。」


 イリスさん、さらに今まで黙っていたシリルさんも僕に酒を飲ませようとしてきた。


「美味しいですよ?」


 ケイシャさんまで勧めてきた。


「お代わりお願い。」


 妹のセリカさんは我が道をゆくで、僕を気にせず店員さんにお代わりを頼んでいる。僕以外は全員酒豪のようである。前回のようなことにならなければ良いのだが、心配だ。


 飲み会は今のところ穏便に進んでいると言って良いだろう。

 そろそろ子どもは眠る時間という事でウルスラさん一家とヌガさんが帰ることになった。ツキカリさんとヌガさんを飲み会に誘ったのだが断られてしまった。ギルドマスター2人の参加する飲み会だから落ち着いて飲めないのかもしれない。ヌガさんは屋敷に泊まってゆくそうだから、子供2人が寝た後に3人で飲むのかもしれない。


 アーニャとスピカは帰らずに僕らの方へやって来た。

 アーニャの顔が赤い。まさか、お酒を飲んだのだろうか?


「アーニャ? 顔が赤いけどお酒飲んだ?」


「飲んでないですニャ。これから恥ずかしい質問をするだけですニャ!」


 アーニャは何を言っているんだ?

 やはり飲んでいる?


「さあ、恥ずかしがっていないで聞くのです。」


 スピカがアーニャを促した。スピカの差し金か?


 全員が飲むのをやめてアーニャに注目している。


「あ、あ、あ、青の花嫁候補という称号を知っている方はいますかニャのですニャ!」


「・・・」


 数秒の沈黙。


「まあ!? アーニャちゃんそんな称号が出たの? おめでとう!」


 イリスさんが、「青の花嫁候補」がアーニャに出た称号だと察して祝福した。いや、祝福しないでほしいのだけど。


 イリスさんを皮切りに皆がアーニャを祝福した。アーニャは真っ赤な顔で椅子に座りうつむいて照れている。


「ほら、他の人には出ていなかったでしょう。」


 スピカがアーニャに言った。どうやら、アーニャが自分以外にも僕の花嫁候補がいるのではないかと心配したようだ。

 僕は誰とも結婚するつもりがないと言ったはずなのだが、少なくともアーニャを差し置いて他の人と結婚することはないとか言った方が良いのだろうか? 困ったな。


「はははっ、前回の飲み会で挑発したのは正解だったな。」


 シリルさんが豪快に笑いながら言った。


「あれは、わざとですか? アーニャを積極的にするために?」


 僕が尋ねるとイリスさんが答えた。


「そうですよ。酔って何か起こってくれればと思いまして。もちろん、ここにいる女性は全員アサヒさんのプロポーズなら喜んでお受けしますよ。」


 イリスさんがそう言うと、シリルさん、ケイシャさん、ほとんど話したことがないセリカさんまでコクコクと頷いている。


「私だけですニャ。花嫁候補は私だけなのですニャ。いつか私がご主人様と結婚するのですニャ~!」


 アーニャはそう叫ぶと、立ち上がって走り去った。店から出て行ってしまった。


「アサヒ、私がついて行くから大丈夫です。続きをどうぞ。」


 そう言ってスピカも走り去っていった。


「・・・もてる男は辛いのう。」


 エドガーさんがコクリとお酒を飲んでから呟いた。


「やめてください。」


 スピカも続きをどうぞって、続きってなんだよ?


「神獣様も、あのように言われたことですし、続きを始めましょう。」


「イリスさん続きって何ですか?」


「アーニャちゃんとの結婚だけでなく、私達との結婚についても考えておいてくださいという事です。」


「からかわないでください、イリスさん。」


「いや、冗談ではなく本気で考えてほしいな。」


 シリルさんが案外まじめな口調でそう言った。


「そうよね~。アサヒさんとの子供産みたいわね~。」


 ニコニコしながら笑顔で僕達の会話を聞いていたセリカさんが突然会話に加わってきた。


 そして、キカさんが言った。


「まあ、そう言う事だ。アサヒはいつか向こうの世界へ戻るからな。子供を残して行ってほしいのだよ。転移者の子供にも強力なスキルが出ると思われるのだ。ここにいる女性全員と結婚してほしいくらいなのだが。特にイリスとの子供ならどんな子が生まれるのか楽しみなのだがな。」


 種馬か! ハーレムもごめんである。断固拒否する。


「勘弁してください。」


「まあ、好きなように生きるのじゃな。」


 エドガーさんが締めてくれたので、後は普通の飲み会に戻った。

 女性陣も話題を戻すことなく、最近の街の話題などで盛り上がっている。

 なんだかんだいい人たちである。

 おそらく、僕の血の引いた子供を残したいというのは王家などからも言われていることなのだろう。僕は結構守られているのかもしれない。

 この国の王家も僕に好意的なようだから無理強いはしないのだろう。


 調子に乗って一口お酒を飲んだら、とんでもなく強い酒だったらしく、あっという間に眠ってしまった。

 皆の爆笑を子守歌に、意識が遠のいていった。



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間違って明日の分を公開してしまいました。

明日はお休みです。

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