第39話 家族と再会
朝、屋敷の自分のベッドで目が覚めた。
キカさんが運んでくれたらしい。
「ご主人様、朝ごはんができましたニャ。」
僕よりも先に起きていたアーニャが朝食を作ってくれていた。
「ありがとう。いただきます。」
ありがたく朝食を食べ始めた。なんと、ゴハンに味噌汁、おかずにハムエッグである。ハムがやたら分厚くてステーキのようである。
美味しい。
「昨日は、ウルスラさんのお酒を間違えて飲んでしまいましたニャ。」
「そう。」
昨日の事は覚えていないのではないかと期待したのだが、
「でも、ちゃんと覚えているのですニャ。結婚できるように花嫁修業を頑張るのですニャ。」
覚えたいた。
「アーニャ・・・」
「結婚できなくてもいいのですニャ。結婚できるように頑張るのですニャ。」
「分かったよ。僕が言うのも変だけど、頑張って。」
花嫁修業自体は無駄にならないだろうから構わないだろう。
「はいですニャ。」
アーニャは少し吹っ切れたようだ。「青の花嫁候補」の称号と折り合いがついたのだろう。結果はどうあれ称号通りに努力するという事なのだろう。
「アーニャ、僕との結婚を目指すならご主人様という呼び方はどうかと思うのだけど? アサヒと呼べるようにならないとね。」
我ながら、「僕との結婚を目指すなら」なんて言い方はどうかと思ったけれど、これはできれば何とかならないかと思っていた事なので、この際だから言っておいた。
「・・・頑張りますニャ。」
「あと、」
「まだあるのですニャ?」
「まだあるよ。これは重要なことだよ。」
「はいですニャ。」
アーニャが居住まいをただす。耳の先までピンとしている。
「落ち着いたら、奴隷からは解放するよ。もう、南部の差別を気にしなくてもいいはずだからね。アーニャが僕の奴隷ではない状態で家族に会おうよ。」
「分かりましたですニャ。・・・アサヒ様。」
すぐぬ呼び方を変えるとは思っていなかったので、驚いてアーニャを見ると、すっと下を向いて目をそらされた。
「無理ですニャ。ご主人様が良いですニャ。」
「うーん・・・アサヒが難しいならあだ名とか? アサニャンでもいいよ?」
「あ、アサニャン・・・」
「いいではないですか。可愛いです。アサニャン。」
あれ? スピカが気に入った?
スピカにアサニャンと呼ばれるのはなんだか嫌だな。
アーニャなら構わないのに、何故かな?
「とりあえず、アサヒさん、が目標かな?」
「ううっ、分かりましたニャ。」
十日後、アーニャの村へ転移して家族の帰りを待つことにした。索敵で、村に猫人族がそろそろ到着することが分かったからだ。
奴隷は速やかに解放された。急いで帰る者とゆっくり帰る者、街へ留まる者、他の街へ移動を始める者など様々だったが、僕の予想では、アーニャの家族は急いで村江帰ってくるはずだった。
なぜなら、アーニャはもともと南部の貴族の奴隷だったので、今回の事で奴隷から解放されるはずだったからだ。
アーニャの家族はそう考えて、急いで村に帰るはずである。
十日間はレベル上げよりも、料理をしたり、クシャルとスシャリのレベル上げに付き合ったりして過ごしたので、僕もアーニャもレベルは1上がっただけである。
僕がレベル17、アーニャがレベル21である。
村の入口で到着を待つ。
索敵によると、30人程の集団で帰ってきている。今回は全員が猫人族である。
数日遅れてもう一つの集団がこの村へやって来ると思われるが、そちらの集団は猫人族以外の獣人もいる。
集団が見えてきた。
アーニャが背伸びをして目を凝らして家族を探している。
「あ、いましたニャ! いましたですニャ!
アーニャが叫びながらブンブンと手を振っている。
アーニャの家族もアーニャに気が付いたようだ。
母親と手をつないでいたアーニャの妹が、母親の手を振りほどいて駆け出した。
「
アーニャの5歳下と言っていたから、11歳のはずである。
ちょっとアーニャと似ている。髪の色はアーニャと同じ青みがかったグレーだが、アーニャに比べると少しグレーに近い。すらりとしているが、背は低めで7歳のクシャルと同じくらいだ。
マーニャはなかなかの跳躍力を見せて、結構な距離からアーニャに飛びついた。
受け止めたアーニャはそのままくるくると回りだした。
少し遅れて両親が追いついた。他の集団も一緒である。
いつの間にか、誰かが知らせに行ったらしく、村長をはじめ大勢の人が出迎えに来た。中には猫人族以外の獣人もいる。
「今日は宴じゃ! 広場で宴を開くぞ!」
村長が叫ぶと、その場の全員がウオーッと声をあげ喜んだ。
皆が喜び抱き合ったりしている中、アーニャが家族と一緒に僕の所へやって来た。
せっかくの家族の再会だったので、僕は少し離れていたのだ。
「ご主人様、私の家族ですニャ。」
「父のカロンですニャ。」
「母のサリーニャですニャ。」
「マーニャ!」
アーニャの両親が挨拶すると、マーニャは手を挙げて自分の名前を叫んだ。
「アサヒです。お嬢さんと冒険者パーティーを組んで一緒に冒険しています。」
「ご主人様は命の恩人なのニャ。」
「アーニャ、もうご主人様じゃないよ?」
既にアーニャの奴隷契約は解除したのだ。
昨日までアーニャが僕の奴隷だったことを含め、ご両親に説明しなければならない。出来る事なら「青の花嫁候補」の称号は知られたくないけど、そういうわけにはいかないのだろう。
アーニャのご両親は結婚に賛成するのだろうか? するのだろうな・・・
アーニャの家に着いたら、前に住んでいた虎人族の老人と子供たちが家の前に立っていた。
「わしらは宴の準備を手伝ってきますじゃ。家は出ていきますじゃ。掃除はしてありますじゃ。」
虎人族の老人はそう言って立ち去ろうとしたが、アーニャが慌てて止めた。
「待つですニャ。迎えが来るまで一緒に暮らしますのニャ。すぐに迎えが来るはずですニャ。父ニャン、良いですよニャ?」
「もちろんニャ。困ったときはお互い様ですニャ。」
「ありがとうごさいますじゃ。助かりますのじゃ。」
お礼を言い、お互いに自己紹介をした後、宴の手伝いへと向かった虎人族の老人と子供たちを見送り、家の中へ入った。
僕とアーニャのこれまでの事を説明していたら宴の時間になった。
続きは宴の席ですることになった。
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