第13話 街まで


 スピカが戻ってきた。6人分の冒険者カードをくわえていた。

 アーニャの冒険者カードも見つけてくれたのだ。

 5人の冒険者は武器や防具などの金属類しか残っていなかったとのことだ。

 冒険者カードはこういう時に残るようになっているらしい。

 スピカからカードを受け取り、アイテムボックスの中に収納する。

 アーニャのカードはアーニャに渡そうとしたが、僕に持っていてほしいと言われた。確かに僕が収納した方がいいのか。アーニャのカードの所有権が気になったけど何事にも例外はあるようだ。


「スピカ、アーニャの事なんだけど、奴隷から解放したらパーティーを組んでレベル上げを頼むけど、もし断られてもアーニャの村まで一緒に旅をしようと思うのだけど。どう?」


「私はかまいませんよ。アサヒについて行くだけです。」


「見返りを求めるのはどうかと思うけど、僕たちは命の恩人なわけだし。村までの旅の間にレベルを10まで上げるのを手伝ってもらってもばちは当たらないよね。」


「いいのではないですか? まあ、魔物を倒したのは私ですが。」


「ごもっとも。」


 夕方になるまで少し時間がある。何をしようか考えてリリエラ様へ手紙を書いておこうと思い立つ。リリアーナ王国にたどり着くのはだいぶ先になりそうだ。伝えておいた方が良いだろう。


 アーニャのこと。冒険者になろうと思うこと。

 アーニャの村へ行くからリリアーナ王国に着くのはしばらく先になること。

 あと、僕の持っている金貨とこの世界の食糧事情、特に調味料と穀物について教えてほしいと頼んでおいた。神様にこんなことを頼んでいいのだろうか?

 もちろんクラスの皆の様子も聞きましたよ。




 夕方に肉を焼いて食べた。

 アーニャは自分が焼くと言ったが、焼くだけなので僕が焼いた。

 料理ができるか聞いたが、それほど得意ではないと言っていた。

 もしかすると僕の方が料理ができるかもしれない。

 ただし、食材と調味料次第ではある。

 こちらの世界では僕の料理の知識が使えないかもしれない。


 翌朝、朝食にリンゴとパンを食べていよいよ出発である。


 ここで、問題が。

 

「神獣様に乗るなんて恐れ多いですニャ。」


「アーニャ、スピカに乗せてもらわないと移動速度が5分の1くらいになってしまうんだ。」


「そうですよ。私がいいと言っているのですから、気にしてはいけません。」


「ううぅ、わかりましたニャ。」


 さらに問題が。


 二人がそれぞれスピカに捕まるとおさまりが悪いと言うか、乗りづらかった。

 アーニャが僕に掴まることになる。


 ・・・胸が当たる。

 無心だ、無の境地を会得するのだ僕。


 何とか出発した。


 何度か魔物に出くわしたがスピカが倒してドロップしたものを回収して進んだ。

 レッドオーク、レッドミノタウロス、レッドビッグカウ。

 この辺りは「レッド~」が多いようだ。


 昼頃に川の合流地点に着いた。

 スピカと僕の2人?の時は夕方まで休みなく進んだが、アーニャもいるので昼に休憩することにした。


「そう言えば、アーニャは何歳? あと、レベルを聞いてもいいかな? 僕は17歳で、レベルは1だよ。」


「私は16歳ですニャ。レベルも16ですニャ。・・・アサヒ様はレベル1ですニャ?」


 さすがにレベル1には驚いたようだ。


「そうなんだ。実はスキルのせいで、攻撃されてもダメージを受けない代わりに、敵にダメージを与えることができないんだ。魔物を倒せないんだよ、僕。」


「そうなのですニャ。なら、私が役に立てますニャ。」


 アーニャは嬉しそうである。確かに、今のところアーニャの出番が全くない。

 しばらく先のこととはいえ、経験値分配のスキルで役立つことができると分かり安心したのだろう。僕に協力してくれそうで何よりである。


「君を奴隷にしていた貴族と同じことをすることになるから、少し抵抗があるけど、せめてレベル10を超えるまでレベル上げを手伝ってもらいたいんだ。」


「任せてほしいですニャ。ずっとお仕えしますニャ。」


「いや、使えてほしいのではなく、対等な仲間として・・・」


「ずっとお仕えしますニャ。」


 僕の言葉をさえぎって、満面の笑みでアーニャが繰り返した。

 意識改革が必要だね。気長に頑張ろう。

 まあ、気に入られたようではある。スピカのおかげかな?

 一緒に旅をしていれば少しづつ変わっていくだろう。


「話は変わるけど、こっちの世界は食事は一日何回食べる?」


「冒険者の人たちは3回食べていましたニャ。でも私の村は貧しかったので朝夕の2回でしたニャ。」


「そう。アーニャは今お腹空いてる? リンゴとパン食べる? たくさんあるよ?」


 アーニャは少し悩んでいたが、結局、


「リンゴを1つくださいニャ。」


 我慢できなかったようだ。リンゴ美味しいからね。パンもだけど。




 一息ついて出発した。

 スピカは結構なスピードで走るので、アーニャは僕の体に腕を回し、がっちりと捕まる。スピカの走るに合わせて胸がむにむに当たる。慣れろ、慣れるんだ僕。

 時々肋骨が痛かった。もしかしたらアブソリュート・ゼロが仕事をしているのかもしれない。そんなに強く捕まらなくても振り落とされたりしないと思うのだが。


 夕方になり宿泊する場所を決めた。

 テントどうしよう?

 昨日は一緒のテントで眠ってしまったけど良かったのだろうか?


「アーニャ、テントどうしよう? 一緒のテントで寝るのが嫌ならもう一つ出すけど?」


「アサヒ、昨日同じテントで眠ってますよ? 今更ですね。」


「一人はいやですニャ。怖いですニャ。一緒のテントにしてくださいニャ、お願いしますニャ。」


 そもそも森の中だから一人は無理だった。それもそうか。


「了解。」


 夕食を食べて眠りにつく。

 朝起きて、朝食後にリリエラ様から手紙が届いていることに気が付く。


 向こうはとりあえず順調のようだ。

 僕の行動についてはスピカと相談しながら好きなようにしてほしいとあった。

 ついでに聞いた食糧事情だが調味料や香辛料は日本と同じなのだそうだ。米もあるらしい。

 どうやら、転生者たちによって開発されていて、この世界の食文化はかなり日本的だそうだ。ありがたい。




 その後は魔物にはよく遭遇したが、人には会わず、順調に進んでいった。

 7日目の夕方、予定していた街のすぐそばまで到着した。

 そういえば、アーニャに出会ってからの道のりではリンゴとパンの木は見なかった。森の奥の方にしかない木だったのだろう。


 明日はようやく街へ入る。

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