第14話 ライカール到着


 今更ではあるが、僕たちは今、ラステル王国という国にいる。そして、僕がこれから向かうのはライカールというラステル王国第2の街である。大きな街だ。


 アーニャと二人で朝食を食べる。スピカは夕食の肉しか食べない。


 ライカールへはまず僕一人で街へ入り、冒険者登録をして服を買ってからこのテントに戻ることにした。全員で行くという事は僕はパンツ一丁で街に入ることになるからね。嫌です。


「僕はテントの外で待っているから、アーニャが脱いだコートをスピカが持ってきてくれる?」


「分かりましたニャ。」

「分かりました。」


 二人が同時に答えた。アーニャが脱いですぐに僕が着るのもどうかと思うが、背に腹は代えられない。一着しか着る物が無いのだから。

 もう少しの辛抱だ。


「じゃあ、行ってくるよ。」


「気を付けて。」


と、スピカ。


「いってらっしゃいませニャ。」


と、アーニャ。




 ライカールの街まで来た。高い壁がぐるりと街を囲っている。門には結構人が並んでいるが、列がたくさんありそれほど待たされることもなく入れそうである。

 まあ、問題が起こらなければではあるが。


 並んでいる人に聞いて列に並ぶ。貴族用の列と商人用の列は別になっているようだ。一般の人の列に並ぶ。すぐに僕の番が来た。

 フードをかぶったままなのはまずいかもしれないと思い少しだけ上げる。


 門番のおじさんが僕の髪を見て驚いている。


「君、ちょっと詰め所に来てもらえるかい?」


 あれ? 僕、捕まる? まあ、最悪テントに転移できるから逃げられるのだけど。

 おじさんはのんびりとしていて雰囲気も穏やかなので大丈夫そうではある。


「お、来たのか。案外待たずにすんだな。髪、隠してくれ。」


 詰所の中には精悍な女性が待っていた。左手に杖を持ち、腰には剣を差している。

 女性に精悍というのはいかがなものかとも思うが、なんだか強そうなのだ。

 冒険者のように見えるが、どうなのだろう?

 この世界の事はまだよくわからないから案外これが一般の人の格好である可能性もある。


「疑問はあるだろうが、まずは冒険者ギルドへ行こう。話はそれからだ。」


「分かりました。」


 素直についてゆくことにした。まあ、逆らうのは実力的に無理だと思うけど。


 冒険者ギルドへ行く道すがら、自己紹介をされた。


「私はシリルという。これでもA級冒険者だ。よろしく。」


「アサヒです。これから冒険者になる予定です。よろしくお願いします。」


 シリルさんは僕を見て微笑んだ。美人に微笑まれて少しどぎまきする。肩甲骨の辺りまで伸びた金髪、目元がきりりとして鋭い印象を受ける。

 しかし、微笑むと印象ががらりと変わるのだ。どぎまきするのは致し方無い。


「あれが冒険者ギルドだ。」


 冒険者ギルドはすぐ近くだった。3階建ての立派な建物だ。

 中に入ると何人かがこちらを向いたが、シリルさんを見て興味を失い自分の用事に戻った。

 僕はずっとフードをかぶったままである。フードを外していたらさすがに注目を集めてしまうのだろう。


 シリルさんについて行き、奥の個室へ入る。


 ソファーに座っていた2人の人が立ち上がり挨拶した。

 一人はスキンヘッドで体格の良い男、もう一人は多分エルフ。耳が少し尖っていて髪が少し青みがかった緑色だ。ほっそりとしているが胸は普通だった。全体的な印象はキリっとした美人だが目じりが少しだけ垂れているので柔らかい印象だ。

 目つきが鋭く怖そうなスキンヘッドの男とは対照的である。


「ギルドマスターのキカだ。」


「私は受付のイリスです。よろしく。」


「初めまして。アサヒです。こちらこそよろしくお願いします。」


 状況が呑み込めなかったがとりあえず挨拶を返した。友好的なようなので一安心である。これから説明してもらえるのだろう。


「とりあえず座ってくれ。シリルも同席してくれ。」


 ギルドマスターの言葉で全員がソファーに座った。ふかふかだ。


「最初に説明すると、リリエラ様がリリアーナの王を通してこちらの王に君のことをよろしく頼むと伝えたらしい。それで、王宮から冒険者ギルドの本部に連絡が入り、君が来るであろうこの街のギルドに連絡が来たという訳だ。」


 なるほど、納得である。そういえば手紙の返事を確認してからは、リリエラ様からの手紙を確認していない。リリエラ様の方から手紙が届くとは考えていなかった。後で、僕に手紙が届いていないか確認しておこう。


「わざわざ門に人を待機させて待っていてくれたのですか?」


「そうだ、昨日からな。だいたいの到着日は予想できたし、街に入る時に何かトラブルに巻き込まれないとも限らないからね。」


「ありがとうございます。」


「我々は何を協力すればいい?」


 ギルドマスターにそう聞かれて困ってしまった。どこまで知っているのだろう?

 そして、どこまで話していいのだろう?

 僕はこの世界の事があまりにも分からないので、自分の事は隠さない方がいいだろうと判断した。スピカも下手に隠し事をするのはやめた方がいいとの意見だった。


「ええと、僕が転移者だという事は聞いているのでしょうか?」


 とりあえずこれくらいは伝わっているだろうと思って聞いてみたら、3人が驚いてしまった。


「いや、聞いていない。青い髪の若い男が来るから協力するように言われているだけだ。」


 ギルドマスターが説明してくれた。


「そうですか。では、リリアーナで召喚が行われたことはご存じですか?」


「ああ、それは聞いている。」


 僕は自分のことを説明した。自分だけ離れたところに召喚されてしまったこと。最終的には日本へ戻りたいこと。さらに、スピカとアーニャのことも少し話す。

 そして、冒険者登録をしたいこと、アーニャとパーティーを組みたいこと。さらに、アーニャの村へ行く予定であることも伝える。称号やスキルについては説明していない。


「僕が転移者であることや、スピカが神獣であることは隠した方がいいですか?」


「そうだな。利用しようと近づく者がいるかもしれぬ。隠した方がよさそうだな。神獣様は霊獣という事にしておけばよいだろう。後は、…アーニャとやらは今後のことを考えると、おぬしの奴隷として登録したほうが良いかもしれないな。」


 ギルドマスターの答えに少し驚く。


「アーニャを奴隷に?」


「うむ。おぬしの奴隷になっていれば、何かあってはぐれてもおぬしが無事な限り他の者の奴隷にされることが無いからな。戦闘奴隷ならば問題あるまい。」


「なるほど。相談してみます。」


「では、まずは冒険者登録をするか。イリス、頼む。」


 ギルドマスターが受付嬢のイリスさんに頼んだ。イリスさんは受付嬢というより秘書のような雰囲気である。


「では、このプレートに両手をのせてください。」


 手をのせると、プレートが淡く光り薄い側面から冒険者カードが出てきた。


「冒険者カードには名前、種族、レベルしか情報が出ません。カードは魔道具です。冒険者カードで自分のステータスを確認できます。後で確認してみてください。」


 イリスさんが説明してくれた。ステータスの確認をすると目の前にステータス画面が現れるらしい。基本的にこの画面は他人には見えないそうだ。


 イリスさんがプレートの画面を見つめている。プレートにも冒険者カードと同じ情報が出ているらしい。まあ、称号やスキルは表示されないのだから問題は………。

 あった。


「あの・・・レベル1ですか?

 ・・・・・・・・・・・・・・・「人間?」えっ???」


 忘れていた。僕半分人間じゃなくなっていたっけ。


 ギルドマスターとシリルさんがじーっと僕を見ている。


「・・・説明します。」


 アブソリュート・ゼロのスキルと、召喚されたときにウンディーネに助けられたことを説明した。


「というわけで、僕の血に水の精霊が流れているらしいので、そのせいで髪の毛も青くなったんです。」


 最初は驚いて聞いていたギルドマスターは、最終的にはなにか思いついたらしく、うんうんと頷いていた。


「という事はウンディーネ様の加護を授かっているな? 髪が青いのはウンディーネ様の加護を授かったからだということは広めてもいいかもしれんな。」


「はい、ウンディーネ様は特に皆に好かれている精霊ですから。」


 ギルドマスターの言葉にイリスさんが相槌をうった。


「とりあえず、神獣様と猫人の少女を連れて来たらどうだ。後の話はそれからだな。」


「あ、その前に服を買わないと。召喚されたとき風邪で寝ていたので、この下パンツだけなんです。」

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