第2章 ライカールの街
第12話 方針を決めなおす
アーニャの話を聞いたので、次は僕の事を話した。
日本という国から召喚されて来たこと。
30人ほど召喚されたが僕だけ森の中に召喚されたこと。
風邪で寝ていた時に召喚されたので服を着ていなかったこと。
日本へ戻ることが目標ではあるが、急いではいない事など。
「それで、これからどうするかなんだけど。どうしたい。」
「ニャ?」
アーニャが不思議そうに僕を見る。
「奴隷から解放してから村に帰る、でいいのかな?」
「どうするかはご主人様が決めるニャ。」
「アーニャ、僕の事はアサヒと呼んで。不当に奴隷にされたのだから自分の事を奴隷だと思わないで。」
「・・・」
アーニャは黙り込んでしまった。困っている。
「アサヒ、それは難しいと思いますよ。10歳の時から奴隷だったのです、奴隷の考え方が染みついていますよ。」
「うーん、困ったな。まあ、方針は僕が決めるしかないか。」
「そうですね。」
「お願いしますニャ。」
この世界の事を知らない僕が行動を決定するのはどうかと思うのだが、
2人に聞きながら決めてゆくしかないだろう。
「まず、着る物の確保、そして冒険者の登録とアーニャの奴隷解放かな? それから先はまたあとで考えればいいかな。」
「それで、どこを目指します。」
「その前に、着る物を入手するまで、アーニャには神殿で待っていてもらう事はできないかな?」
「可能ではありますが、どうでしょう? アーニャが了承するとは思えません。」
「どういうこと?」
「神殿はリリエラ様の住み家だった神殿ですよ? ちなみに小屋があるのはウンディーネの住み家のすぐそばですし。」
アーニャがが首をぶんぶんと横に振っている。
「無理ですニャ。一人は嫌ですニャ。恐れ多いですニャ。連れて行ってくださいニャ。役に立ちますニャ。」
涙目になっている。これは無理そうだ。
「そうなると、街の近くまで行ってテントで待っていてもらう?」
「それがいいと思いますよ。」
アーニャもこくこくうなずいている。
「そうすると、アーニャがマントを着て、僕はパンツか………。」
「申し訳ないですニャ。」
「仕方がないよ。気にしないで。」
アーニャが私は裸でいいなんて言い出すと困るので、急いで話を進める。
「僕が街へ入っても特に問題ないかな? 髪の毛が青い人っていないんだよね。」
「大丈夫だと思いますが。私はずっと神殿にいたので、リリエラ様から聞いたことしか知らないのです。アーニャはどう思いますか?」
「大丈夫だと思いますニャ。 青はウンディーネ様の色ですニャ。」
ウンディーネ様? 一般の人々には精霊も崇められているのかな?
「ウンディーネは人々に好かれているの? 他の精霊は?」
「精霊はみんな崇められていますニャ。水の精霊魔法は回復魔法があるのでウンディーネ様は特に人気がありますニャ。」
「なるほど。あっ、あとお金。この金貨どのくらいの価値がある。」
アーニャに持っている金貨を見せる。
「私はあまり金貨を見たことがないですニャ。・・・私の知っている金貨と違うですニャ。」
「そう、じゃあこれは?」
今度はリンゴとパンを見せる。
「リンゴ? パン? このリンゴは見たことがないですニャ。それに、パンが木になるなんて聞いたことが無いですニャ。」
「うーん、余り目立ちたくないから何か他の物でお金を作るしかないか。後は、魔石かな?」
目立つ行動をして目を付けられてしまったら困る。
ただでさえ髪の毛の色で目立つのだ。
一応、髪はフードで隠そうかな。
「魔石は冒険者ギルドでしか買い取らないニャ。冒険者にならないとだめですニャ。」
「そうか、獣人への差別がある街で冒険者に登録するのはなぁ。」
差別のある地域で冒険者登録をしてしまうと、
差別のない街でアーニャを奴隷から解放するときに困るような気がするんだよね。
「ここは慎重に獣人への差別がない街まで人に会わずに進む方がいいかな?」
「慎重なのは良いことだと思います。それに獣人を差別する街には近づきたくないです。」
スピカは賛成のようだ。
「そんな街があるのですニャ? 知らなかったですニャ。」
アーニャは獣人を差別しない街があることを知らなかったようだ。
すべての人間が獣人をさげすんでいると思っていたらしい。
僕のような態度をとる人間は初めてなのかもしれない。
早く打ち解けられるといいのだが。
信頼を勝ち取れるよう頑張ろう。
地図でどの街を目指すかを決める。
「ここを目指そうと思うのだけど。」
地図上にある都市を指さす。
「なるほど、できるだけ川沿いを進むのですね。」
スピカは僕の考えを理解したようだ。
アーニャは真っ青になっていた。
「森を横切るのニャ? 死ぬニャ。死んでしまうニャ。」
「アーニャ、大丈夫です。私は神獣ですよ。魔物は私が屠ります。肉食べ放題ですよ。」
スピカ、最後の一言は余計だ。威厳がなくなるよ?
でも、とりあえずアーニャは落ち着いたようだ。
「アーニャ、食欲はある。食べられそうならテーブルのリンゴとパン食べて。」
「いいのですニャ?」
「もちろん。君には元気になってもらわないと。」
「ありがとうですニャ。」
アーニャは少しためらってはいたがリンゴとパンを食べてくれた。
目を白黒させている。たぶん、余りにもおいしくて驚いているのだろう。
わかるよ。
「アーニャは夕方まで休んでいて。スピカ、一応、アーニャと一緒にいた冒険者たちを探そうと思うのだけど。証拠の品を持ち帰った方がいいかもしれないし。」
「それなら私だけで十分です。血の匂いで探せると思います。」
「そう? じゃあお願いするよ。スピカ、僕はテントの外にいるから。あとこれを着てね。僕が着たやつで悪いけど。」
そう言って、僕はコートを脱いだ。
「ニャッ。」
アーニャは悲鳴をあげて両手で顔を覆った。
「アーニャ、僕のこの姿には慣れてもらわないと。」
「申し訳ないニャ。」
アーニャは指の隙間から僕を見て、また、指を閉じてしまった。
この旅、大丈夫だろうか?
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