第20話 あーん。
宿屋の食堂では奥まった所にある個室のようなテーブルに通された。
あまり人目を気にせずに話せる。
ギルドマスターとシリルさんは結構なペースで酒を飲んでいる。イリスさんもそれに付き合ってそれなりのペースだ。
僕とアーニャもこちらの世界では成人は15歳なので酒が飲めるのだが、僕が酒を飲まなかったので、アーニャも遠慮してか飲んでいない。
ちなみにお酒はワインで、テーブルの上にはピッチャーで白ワイン、赤ワインが置いてある。
料理に合わせて勝手に手酌で注いで飲んでいる。
食事も進み、会話も盛り上がった。こちらの世界の話を中心に、日本の話も少しだけ、あと、転移してきたクラスメートたちについても人となりを説明しておいた。
こちらの世界に迷惑をかけるような者はいないだろうし、リーダー各の数人がおかしなことはさせないだろうという事。
どうやらリリエラ様から王家に連絡が行くらしく、僕が伝えるまでもないようだ。
話題も落ち着いたところで、僕たちの旅について話した。
「旅に出てからも、時々転移で戻ってこよと思うのですが、直接街の中に転移したらまずいですか? 例えば、小さな家を借りてそこに転移してくるとか?」
「そうだな、どこか手ごろな場所を用意しよう。イリス、頼んでよいか?」
「分かりました。」
「家賃はいくらくらい掛かりますか?」
僕がそう尋ねると、ギルドマスターは手をひらひらさせて言った。
「家賃などいらん。そのうち必要なレアドロップを頼むことになると思うからな。むしろ、こっちが金を支払うことになるだろう。」
「そうですか。よろしくお願いします。時々、ギルドに顔を出します。」
ギルドマスターとしゃべっていると、スピカがてしてしと僕の膝を叩いた。
「アサヒ、お肉が無くなりました。注文してください。」
店員さんに追加の注文をした。
「ワインも追加を頼む。」
便乗して、シリルさんがワインの追加を注文した。いつの間にかなくなっていたようだ。結構飲んでいるようだが、大丈夫なのだろうか?
「アサヒ、街に戻ったときは私にも声を掛けてくれよ。今度は私が夕食をおごってやるぞ。肉のうまい店をな。うふふふ。」
ありがたいのだが、笑い声が少し不安だ。酔っているせいか妙に色っぽい。やはり飲み過ぎではないだろうか?
あと、肉が好きなのは僕ではなくスピカなのだけど、わかっているのかな?
「シリルさん、飲み過ぎていませんか? 食べ物ももっと食べましょう。野菜とか。」
「何を言っているの? 冒険者なら肉を食べろ、肉を。ほら、あーん。」
シリルさんが肉を串で刺して僕に向けた。仕方がないので、素直に食べる。
「ご主人、私もあーん。にゃ。」
アーニャまで肉を串に刺して僕に食べさせようとしてきた。あれ?
「アーニャ?」
「すみません。ぶどうジュースを赤ワインとすり替えました。」
まじめな顔をしてイリスさんがそう言った。
「いかん。イリスまで酔っ払っているな。」
ギルドマスターが少し赤くなった顔で言った。ギルドマスターが一番見た目が酔っ払っているのだが、実は一番まともなようだ。
イリスさんなんか、見た目は全く普段と一緒だし、しゃべり方もしっかりしているのだが・・・
なぜ、アーニャのジュースを酒に変えた?
「ご主人、あーん。にゃ。」
またかと思ったら、今度は口を開けて待っている。
仕方がないので、肉を串に刺して食べさせた。
「幸せニャ~」
すっかり酔っ払っている。一口しか飲んでいないのに・・・
「私もあーん。」
今度はシリルさんが口を開けて待っている。
シリルさんに肉を食べさせたらイリスさんまで。
「あーん。」
イリスさんにも食べさせた。
今度は、ギルドマスターがすねた。
「なぜ、アサヒばかりが・・・」
「マスター、すねないでください。はい、あーん。」
イリスさんが、すねたギルドマスターに肉を食べさせた。
膝をてしてし叩かれた。隣を見ると、スピカが口を開けていた。
スピカ、お前もか。ワイン飲んでないよね?
「イリスさんとシリルさん、ちゃんと帰れますかね? 送っていった方がいいですか?」
ギルドマスターにそう尋ねたら、イリスさんから答えが返ってきた。
「宿の部屋を取っているので大丈夫です。明日は休みですし。シリルさんと一緒にとことん飲み明かしますよ。」
「うふふふふふ。」
シリルさんは笑っている。本当に大丈夫なのか、これ?
昨夜は部屋に帰ってからも大変だった。
アーニャが僕のベッドで一緒に寝ようとしたのだ。彼女を寝かしつけてようやく眠ることができた。
翌朝、アーニャは昨夜のことを覚えていないようだった。僕からは何も言わないでおこう。
食堂へ降りて朝食を食べていると、イリスさんとシリルさんが現れた。
「おはようございます。」
イリスさんの挨拶へ挨拶を返す。
「おはよう。すまない。昨日は飲み過ぎたようだ。よく覚えていないのだが、迷惑を掛けなかったかい?」
シリルさんがあいさつと共に聞いてきた。
「問題ありませんでしたよ。可愛かったです。」
「そう。」
シリルさんは赤くなっている。
「ご主人。私も昨日のことをよく覚えていないですニャ。ご主人に粗相をしてないですニャ?」
「大丈夫だよ。アーニャ。昨日少しワインを飲んでしまったんだ。可愛かったから問題ないよ。」
アーニャも赤くなって照れている。
まあ、ちょっとした意趣返しである。「あーん。」なんて、恥ずかしいことをさせられたのだ。これくらいいいだろう。
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明日は閑話5,6と登場人物などを公開します
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