第45話 ベッド


 翌朝、食堂で朝食をとり、部屋でしばらく休んでいると部屋に幸宏が迎えに来た。


「えっ!? 一緒の部屋で寝たの? でかいベッドだな。ベッドがひとつって・・・」


 幸宏が僕たちの部屋を見て驚いている。


「ちょっと行き違いがあってね。ただ、アーニャが不安がるから同じ部屋で寝泊まりしているんだ。普段はベッドは別だよ?」


「なるほどね。」


 幸宏がちゃんと理解してくれたかは少しばかり不安ではあるが、今は王に謁見するのが先だ。話し込んでいる暇はない。


 途中で先生と中川さん、服部さんが待っていた。先生と幸宏が僕に同行するようだ。中川さんと服部さんがアーニャの相手をしてくれるらしい。




 王都の謁見は案外すぐに終わった。一応顔を見ておこうという事かもしれない。僕がいたラステル王国の内乱について何か聞かれると思ったけど、そんなことは無かった。まさか、王様に謝罪されるとは思わなかった。

 王様が軽々しく頭を下げていいのだろうか?

 こちらの世界の常識がないからよくわからない。後で先生にでも聞こう。


 謁見が終わったら、そのままの流れで会議室へと移動した。

 王様はこのまま別の政務をこなすらしい。

 王女と宰相が会議に参加するそうだ。あとは、先生、幸宏、中川さん、リリエラ様、スピカ、そしてアーニャだ。アーニャ大丈夫かな?


 まずは宰相から、他国から得られた情報の報告である。

 とは言っても、牧さんらしき人物の目撃情報は無いという報告だけである。


 続いて、幸宏の説明である。

 禁書庫にあった文献で、ユニークスキルを持った人を索敵する魔道具の作成法を見つけたそうだ。今、その魔道具の作成に必要な材料を集めている最中なのだ。

 あとは、ダンジョンの30階にいるボスモンスターが落とすレアアイテムがあれば魔道具が作れるらしい。


「そうなると、僕がパーティーメンバーに加わればいいわけだね? そのレアアイテムが武器や防具ってことは無いですよね?」


「はい、アースドラゴンが落とす丸い宝石です。オレンジ色をしているそうです。」


 王女様が説明してくれた。ドラゴン〇ール?


「ただ、旭はダンジョンに入ったことがないから1階から始めないとダメだ。パーティーメンバーの中で一番潜った階層が浅い人の階までしか転移できないんだ。」


 今度は幸宏が説明してくれた。


「では、私とアサヒの2人でダンジョンに潜るのが良いですね。」


 スピカが言った通り、僕とスピカの2人ならすぐにクリアできそうである。


「アサヒさんの転移のスキルでダンジョンの好きな階へ転移はできないのですか?」


 リリエラ様が質問してきた。意外なところからの質問だ。てっきりリリエラ様はスキルについてすべて把握していると思っていたのだが、違ったようだ。


「残念ながらダメでした。建物の中や洞窟の中なら好きなところに転移できるのですが、ダンジョンの中は無理でした。」


 残りの時間は、僕へのダンジョンのレクチャーが中心になった。

 各階のスタート地点からボスモンスターの場所まではだいたい20kmくらいで、普通はたどり着くのに2、3日掛かるそうだ。

 今回は僕たちがダンジョンに入るまでは、ダンジョンが閉鎖されているそうだ。

 僕とスピカが入ってからは他の冒険者もダンジョンへ入ってよいことになった。

 スピカに走り抜けてもらう予定なので、僕らに追いつく冒険者などいないだろう。

 魔物の強さは、最後に戦うアースドラゴンでブラック種に少し届かない程度だそうだ。ドラゴンと言ってもそれほど強くないらしい。同じアースドラゴンでも、もっと深い階だと強いそうである。


「午後に出発すれば、明日の朝までには帰ってこれるかな?」


 僕がそう言ったら、先生にたしなめられてしまった。


「ダンジョンの中も地上と同じタイミングで夜になります。ちゃんと休んでください。無理は禁物です。何があるのか分からないのですから。慎重にお願いします。」


「分かりました。」


 いくつか確認事項を話し合って会議は終わった。


 一緒にダンジョンに潜らないことになったアーニャが気落ちしていた。だが、今回は急ぐに越したことは無いので仕方がないのだ。




 部屋に戻る。何故か王女と宰相以外の全員が付いてきた。リリエラ様も部屋が隣なので一緒である。皆の部屋は違う場所だったはずだが・・・


 さらに、部屋の前には賢一、美波、服部さんの3人が待っていた。

 僕たちの部屋で話をするつもりかな、などとのんきに考えながら歩いていたが、まずいではないか。ものすごくまずくないか?


 美波がものすごい笑顔で待ち構えている。もう、ものすごいとしか形容の仕様がない笑顔である。怖い。笑っているのにものすごく怖い。


「旭、この部屋はどういう事かな? どういうことなのかな?」


 美波が僕に詰め寄ってきた。


「いや、ちょっと待って、話せばわかる。話せばわかるから。」


 僕はのけぞりながら答えた。必死である。僕は無実だ。


「どうしたの?」


 先生が訝しげに首をかしげながら僕たちの部屋を覗き、傾いた首のまま固まった。


「赤井君? これはどういう事かしら?」


 後ろ姿しか見えないが、先生は部屋のベッドの方を向いたまま美波と同じセリフを言った。


「でかいな。」


 賢一がボソッと呟いた。


「とりあえず皆さん部屋の中へ入ってはいかがですか?」


 自分の部屋に入らずに、僕たちの様子を見守っていたリリエラ様が僕達を促した。

 全員が部屋へ入った。リリエラ様まで入ってきている。

 リリエラ様に付き従っていたメイドさんが慌てて人数分の椅子を揃えてくれた。


「さあ、どういうことか聞かせてください。」


 皆が座ったとたん、先生が口火を切った。


「アーニャとの出会い方は皆知っているでしょ? 一人で寝るのを怖がったから同じ部屋で寝ていたんだ。宿代も浮くしね。もちろんベッドは別々だよ。」


 僕が一気にそこまで言うと、美波が笑顔で僕に尋ねた。その笑顔はとても怖いからやめてほしいのだが・・・


「じゃあ、どうしてこの部屋のベッドはひとつなのかな?」


 怖い、怖すぎる。先生も、中川さんも怖い顔で僕をにらんでいる。ものすごい誤解が生じているに違いない。無表情の服部さんまで怖く見えてきた。


「最初は別々の部屋が用意されていたんだ。それで、王宮なんて初めてだから、アーニャが不安がったので、皆に会いに行く直前に一緒の部屋にしてもらうように頼んだんだ。そしたら、戻ってきたらこんな部屋だったんだよ! もう遅かったからそのまま眠ったの! ベッド大きいし・・・」


「分かりました。アーニャさんにおかしなことはしていないのですね?」


 先生が僕に念を押した。案外信頼されていない事にショックを受ける。


「当たり前じゃないですか!」


「旭は女子には優しい。」


 おおっ! さすが賢一、幼馴染なじみはありがたい。


「そうね、疑ってごめんなさい。」


 先生が謝罪してくれた。信じてくれたようで何よりである。

 美波からも中川さんからも殺気が消えた。よかった。


「今日は、赤井が帰らない。私は1人だから、アーニャは私の部屋に来て。赤井も戻ったら男子の部屋で寝ればいい。」


 服部さんがアーニャの面倒を見てくれるようだ。なんとなく美波に面倒を見てもらうよりもいいような気がする。


「アーニャさんもいいかしら?」


 先生がアーニャに聞いた。ずっと興味深げに皆を見ながらおとなしくしていたアーニャだったのだが、


「分かりましたニャ。ご主人様が戻ったら一緒の部屋が良いですニャ。ご主人様の手を握って寝むったらとてもよく眠れたのですニャ。」


 アーニャ・・・



____________________

既に読んだ人もいますが、後書き付け足します。

何日か休もうと思います。

五十肩のせいで左腕痛が酷いのでタイプがつらいです。

本日痛み止めの注射および薬を貰う予定です。

痛みが引いたら少し書き溜めて、少し余裕ができてから再開します。

申し訳ございません。(泣)

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宝の持ち腐れ感半端ない まこ @mathmakoto

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