第4章 行方不明者の捜索

第42話 取る物も取り敢えず


 スピカに乗って森の中を疾走中。

 今更急いでもあまり意味はないと思うが気がいてしまう。


 リリエラ様からの手紙を読んだ後、スピカとアーニャにおおざっぱに事情を説明した。

 さらに、アーニャの家族に急いでリリアーナ王国へ行かなければならなくなったことだけ告げて、急いでリエラに転移する準備をしてもらった。

 その日のうちにリエラの屋敷へ転移して、ウルスラさんにもスピカとアーニャにしたのと同じ説明をしてライカールの街の近くへ転移した。


 イリスさんがいれば無理を言ってリリアーナ王国との国境近くへ転移魔法で連れて行ってもらえたかもしれないが、すぐに連絡が取れる状況ではなかった。まだ、事後処理で忙しいようだ。


 それで、ライカールの辺りから森を抜けて国境を越えるのがリリアーナ王国の王都への最短距離になるので、初めてライカールの街へ入る時に直前に野営したあたりに転移したのだ。


 もちろん、アーニャも一緒である。


 走り始めたのが昼近で食事を取らずに夕方まで走った割には、結構な距離を進めたと思う。

 紹介もそこそこに、アーニャの家族をリエラにある屋敷へ置いてきたので転移で屋敷へ戻ることにした。明日はまた転移して移動した場所まで戻るのだ。

 既に距離的には街道の国境付近に転移するよりも、今日到達したあたりからの方がリリアーナ王国の王都へは近くなっている。

 国境付近には砦はあるが、関所はないので森を抜けて国境を越えても問題ないそうである。人のチェックは街の出入りで行うのだ。


 屋敷でウルスラ家とアーニャ家、さらにギルドマスター2人とイリスさんと一緒に夕食を食べた。

 差別のある南部で生活していて、しかも奴隷狩りに攫われたカロンさん達を連れてきて、僕たちは出かけてしまった。

 心配だったのだが、思ったよりもウルスラさんツキカリさん夫婦とカロンさんサリーニャさん夫婦は打ち解けていた。

 マーニャとクシャル、スシャリの3人があっという間に仲良くなったそうである。

 おかげで、カロンさんとサリーニャさんも緊張が解けるのが早かったようだ。


 子供たちが眠った後に、一緒に転移したのが学校のクラスメイトであること、そして、クラスメイトが1人行方不明らしいことを説明した。

 どうやらギルドマスターのキカさんとエドガーさんには、今日、それらしい人を見なかったか確認が来たらしい。

 今のところそれらしい目撃情報はないらしい。彼女は黒髪で、こちらでは黒髪はかなり珍しいので目立つはずなのだ。僕のように髪の色が変わっている可能性もゼロではない訳だが。


 明日からは、ウルスラさんと夜に連絡を取ることにして、屋敷には戻らないことにした。部屋は余っているので、イリスさんとキカさんも屋敷で寝泊まりすることになった。エドガーさんは何かと都合がいいので、冒険者ギルドの自分の部屋である。


 就寝のため部屋へ、アーニャとスピカに彼女の事を説明する。


「アーニャ。僕たちが探している牧さんの事なのだけど。」


「はいですニャ。」


 僕の様子から何かを察したらしく、アーニャが居住まいをただした。


「実は、もこうの世界にいた時に気になっていた人なんだ。」


「そうなのですニャ・・・」


 行方不明なのが男性か女性かは言っていなかったはずなのに、僕の様子から何か感じ取っていたのだろうか?

 アーニャはそれほど驚いた様子がなかった。どちらかと言うと僕の事を気遣う様な表情をしている。


「正直に言うと、僕は牧さんとアーニャの2人に同じような感情を持っていたんだ。なんて言うか、友達なのだけど、このまま一緒にいるといずれ好きになりそうな感じかな?」


「ニャッ!?」


 自分も同じように思われていたとは思わなかったらしく、アーニャはとても驚いた。目を丸くして僕を見ている。


「まあ、今はそれどころではない訳だけど、そういう訳でアーニャとは結婚できないって言っていたんだ。こっちでアーニャと結婚しておいて、向こうに戻ってから牧さんとお付き合いするというのはちょっと抵抗があったんだ。」


「分かりましたニャ。でも私は称号道理に頑張るのですニャ。花嫁修業は続けるですニャ。ただ、今はその方を探すですニャ。ご主人様が好きな人に会ってきたいですニャ。きっとご主人様と同じように強いから無事なのですニャ。」


「ありがとう。アーニャ。」


「その方は本当に転移して、今、この世界にいるのでしょうか?」


 今までずっと黙って聞いていたスピカが口を開いた。


「僕が転移してきているから、彼女も転移していると思うけど?」


「アサヒの説明では、その方はアサヒほど他の方々と離れた場所にはいなかったのですよね? こちらの世界へもそれほど離れた場所に転移するとは思えないのですが?」


「確かにね。でも、実際に居ない訳だし。」


「そうですね。ただ、何故でしょう? その方がこの世界にいない気がするのです。何らかの方法ですでに戻ったのではないでしょうか?」


 何だろう? 神獣の勘? 予知?

 だからと言って探さない訳にもいかない。


「もう戻っているにしても痕跡とかを探さないとね。はっきりしたことは分からないのだから探さないと。」


「もちろんです。おかしなことを言いました。すみません。」


 スピカが謝るなんて珍しいこともあるものである。


「まあ、なんにせよ、明日からも急いでリリアーナ王国の王都を目指そう。」


「そうですね。」


「はいですニャ。」

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