第25話 エルフの村へ(1)


 南がきな臭いので、まともな冒険者たちは街の北側で活動しているため街道を南へ進むのは僕たちだけだった。

 人目が無いので、街から離れたらスピカに乗って移動した。昼過ぎには川の支流までたどり着いた。

 街道は川の本流に沿って南下しているが、僕たちは支流にそれて南西に進む。

 しばらくは、草原を流れる支流沿いに進むのでとても見通しが良い。

 夜までには森へ着きそうである。今日は森の手前で一泊することになりそうだ。


 魔物とは戦っていない。弱い魔物は無視して進んできた。

 テントを張り、久しぶりに肉を焼く。スピカが傍から離れない。

 アーニャは僕を手伝ってくれている。

 レシピ本を見ながら作るのが面倒なので僕にも作れる野菜炒めを作ってもらっている。調味料も日本と同じ名前のものがほとんどだったので料理が楽である。

 もちろん名前だけ同じで全然違う可能性もあるから鑑定で調べてある。

 聞いたことのない調味料はまだ詳しく鑑定していないが、もしかしたら僕が知らないだけで地球にも同じものがあるのかもしれない。


「明日から魔物と戦いながら進むけど、僕も参加してみようと思うんだ。」


 夕食を食べながらスピカとアーニャに提案する。スピカは僕のスキルを理解しているせいか反応が薄かった。僕を見もしないで肉を食べ続けている。スキルを理解しているからだと信じよう。


「どうゆう事ですニャ?」


 アーニャにもスキルの事は説明したが実際に目にしていないせいか心配そうである。目にしていないのはスピカも同じか・・・


「僕は魔物からダメージを受けないからね。まず僕が魔物の気を引いて、スキができたところをアーニャに倒してもらう作戦だよ。」


 アーニャはスピードを活かした戦い方をするから、僕が魔物の気を引くことができればかなり戦いやすくなると思うのだ。


「大丈夫ですニャ?」


「問題ないよ。殴られても、剣で切りつけられても、魔法を食らっても大丈夫だったから。」


「・・・わかりましたニャ。」


「危なくなったら私もいます。アーニャは安心して戦ってください。アサヒの事は放っておいて大丈夫ですよ。」




 森に入ってすぐにレッドビッグベアに遭遇した。事前に聞いてはいたが、この森は強い魔物が生息している。

 エルフは木の上を移動するらしい。この森は空を飛ぶ魔物や、樹上で生活する魔物はいないのだ。


 どうせ意味が無いので武器は持たず、棒を持って対峙する。


「僕が攻撃するから、アーニャはレッドビッグベアが僕に攻撃するスキをついて。」


「分かりましたニャ。」


 レッドビッグベアの側面に回り込もうと距離を取ったまま走ると、レッドビッグベアは首を回して僕を目で追った。

 途中で足を止め、一気に殴りかかる。

 レッドビッグベアは腕を横凪に払い僕を吹き飛ばした。


「ぐはっ!」


 ダメージは無くても痛いのでうめき声をあげて飛んで行く。


「ご主人!」


 アーニャは吹き飛んだ僕に驚いて、レッドビッグベアには攻撃せずに僕のもとへ走ってきてしまった。

 スピカがアーニャの後を追ったレッドビッグベアを倒した。


 転がった先で何事もなく立ち上がる僕を見て、アーニャがほっと息を吐いた。


「すみませんニャ。」


 アーニャは耳までしおれていた。


「大丈夫。僕は殴られると吹っ飛ぶけれど気にしないで。剣は途中で止まるし、魔法は食らうけどダメージは受けないから大丈夫。後、魔物が齧ろうっとするとビリっとするみたいで齧れないから。」


「分かりましたニャ。次は頑張りますニャ。」


「うん。スピカが言ったように、僕の事は放っておいて大丈夫だから。」


「はいですニャ。」


 僕の地図と索敵スキルで魔物の位置を確認してから移動した。

 次に出会ったのもレッドビッグベアだった。


 さっきと同様に回り込んで殴りかかる。そして、吹き飛ばされる。

 今度はレッドビッグベアが僕に気を取られているスキに死角へ入り、僕が吹き飛ぶのと同時に切りかかった。

 剣がいいせいか、一撃で左腕が切り落とされた。アーニャ、実はものすごく強いのではないか?

 痛がるレッドビッグベアを大きなままでいたスピカが足で押さえつけ、アーニャが止めを刺した。




「もしかして僕いなくても大丈夫かな?」


「そんなことないですニャ。スキがないと切り込めないですニャ。」


「そうですね。いきなり押さえつけることもできますが、結構ダメージを与えてしまうと思います。経験値を稼ぐにはいい戦法だと思いますよ。」


 普段から遠慮のないスピカのお墨付きだ。これでいいのだろう。


 同じことを繰り返し魔物と戦いながら進む。この辺りはレッド種の魔物の生息域らしい。遭遇する魔物はすべてレッド種だった。レッドオオトカゲという魔物と初めて遭遇した。ワニのような魔物だが陸上に生息している。鑑定によると淡白で美味しいらしい。レアドロップは皮だった。ワニ革?

 スピカの影響だろうか?

 魔物を見ると、肉の味を鑑定するようになってしまった。


 僕のレベルは1上がり、レベル6になった。


 川のそば、木が生えていない開けた場所を今日のキャンプ地とした。


 今日の夕食はレッドオオトカゲの肉にした。レッドオークとレッドミノタウロスも焼くことにした。味付けは塩コショウバージョンとステーキのたれバージョン。

 かなりな量を焼いたがアーニャも結構食べるし、最近は僕も食が太くなってきた。それだけカロリーを消費しているのだろう。

 アイテムボックスから、パンと野菜スープも出した。スピカはほとんど食べない。

 肉だけで大丈夫なのだろうか? キツネは雑食? キツネじゃないのか・・・


 夜はスピカのブラッシングをしてからリリエラ様からの手紙を確認した。アーニャの髪をブラッシングするか聞こうと思ったがやめておいた。

 よく考えたら、スピカ用のブラシでアーニャの髪をブラッシングする訳にはいかないだろう。


 リリエラ様から手紙の返信が来ていた。

 僕らの行動はこれまで通り、好きなように行動してよいと。いろいろなものの名前は転生者の影響で日本的になっているそうだ。調味料などは、そもそも転生者が開発していた。

 

 リリエラ様の手紙によると、クラスメイト達はリリアーナ王国の戦争にある程度協力するようだ。あちらでは人間至上主義の撲滅に協力するようだから、僕もラステル王国で人間至上主義の撲滅に協力すべきだろう。スピカもいることだし。


 手紙を読み終わったので、地図を出して索敵してみる。

 近くに魔物はいない。僕らが狩ったので当然である。もちろん人もいない。

 ただ、ケイシャ商会で見た時はエルフの村があると言われた場所に人がいたのに、今は同じ場所に人がいない。

 もっと森の奥に一つ、南の方に一つ、人の塊がある。人の場合は僕が敵だと認識するか、その人が僕に敵意を持っているかでないと敵とは見なされない。

 敵は赤、見方は青、中立は緑、魔物は黄色で表示される。

 今のところ、森の中の人はすべて緑である。


 この索敵で、相手の名前くらい分かればいいのだけど・・・

 まあ、贅沢というものだ。


 多分森の奥へ移動したのがエルフたちだろう。

 逃げているにしても、集団で移動しているから緊急事態ではないだろう。


 明日に備えて眠ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る