第29話 アーニャの村へ
翌日、朝食の時に、エルフ達はいったん村へ戻ると伝えられた。
村を経由して、リエラに移動することになったのだ。
セリカさん、ツキカリさん、ヌガさんをリエラに転移させることになった。
セリカさんとヌガさんの首輪を外すにはケイシャ商会へ行く必要があったためである。ツキカリさんは容体が落ち着いたのでウルスラさんのもとへ。
「ツキカリっ!」
僕がツキカリさんを下して立たせると、ウルスラさんがツキカリさんに抱きついた。
まだ、本調子ではないツキカリさんがふらつく。
「まあ、ごめんなさい。」
ウルスラさんが慌てて離れようとしたが、それをツキカリさんが引き留める。
「心配をかけてすまなかった。」
「パパおかえり~」
さらにスシャリが抱きついた。
「パパおかえりなさい。」
抱きつくのをためらっているクシャルをツキカリが抱き寄せた。
ツキカリさんと目が合ったので手を上げて、その場をそっと立ち去った。
他の人たちはケイシャ商会へ転移させた。
ケイシャ商会で、ケイシャさん、ギルドマスターの2人と少し話してエルフ達のもとへ転移した。
待っていてもらったスピカとアーニャはエルフの子供たちとのんびり遊んでいた。
その日は他にすることもなくのんびりして過ごした。
翌日の朝、僕たちはアーニャの村へ向けて出発した。
「では、行ってきます。」
ここに帰ってくるわけではないので、行ってきますは変かもしれないが、他に挨拶が思いつかなかった。
まずはエルフの村まで転移してから移動するので、スピカを抱いたアーニャをお姫様抱っこしている。挨拶の言葉よりもこの姿の方が変かもしれない。
エルフの街に転移してから、挨拶してから抱っこすればよかったと気が付いた。
皆の生暖かい視線が目に焼き付いている。次からは気を付けよう。
アーニャの村までは5、6日掛かる。何とかレベル10まで上げたいところだが、現在はレベル7である。微妙なところだ。少し魔物を探して戦わなければならないかもしれない。
エルフの村のように何か起きているかもしれないので、アーニャの村にも急ぎたい。どちらを優先するか少し悩む。
レベル上げは悩むまでもなかった。
2日目からブラック種と遭遇するようになったのだ。
アーニャの村へ近づくに連れてレッド種からさらに弱い魔物へと変化していったが、4日目にレッドミノタウロスと戦った後にレベル10になった。
そして、5日目の夕方にアーニャの村へ着いた。
村には獣人が300人ほどいた。
この人数はアーニャがいた頃と変わっていないそうだ。
ただ、猫人族の村だったはずなのに、今は、犬人族や虎人族などいろいろな獣人がいる。
そして、その人たちはすべて、老人か小さな子供だった。
アーニャの家にアーニャの家族はいなかった。何故か虎人族の老人と子供たちが住んでいた。
老人に事情は村長に聞いてほしいと言われて村長の家へ向かった。
猫人族の村長はいるらしい。
獣人の村で僕がどんな待遇を受けるか少し心配だったが、注目はされているが敵意を持たれている様子も恐れられている様子もない。
子供たちはスピカに興味津々だし、お年寄りは僕の髪の色を気にしているようだ。
誰かが僕らを見て村長へ伝えに行ったらしく、村長の家の前には猫人族の老人が1人待っていた。村長ではないらしい。中に入るよう促された。
村長の屋敷は結構大きくて立派だった。結構広い。
おそらく各獣人族の代表であろう。猫人の老人以外にも獣人が何人か座っていた。
ここが猫人族の村だからだろうか、猫人の老人が中央の一番前にいる。
「ようこそ、猫人の村へ。アーニャも元気そうで何よりじゃニャ。」
「村長、これはどういうことですニャ?」
「そうじゃニャ。まず、何があったか説明するとしようニャ。」
アーニャの質問に村長が説明を始めた。
どうやら半年くらい前に大掛かりな奴隷狩りがあったらしい。
この村を含むいくつかの村から、戦力になりそうな獣人がごっそりと攫われたのだ。この辺りは比較的魔物が弱く、余りレベルの高い獣人がいないのでそれなりに戦力を整えると簡単に村が制圧できるのだ。
攫った後、奴隷にしてからレベルを上げるのだ。
この村は獣人の村の中でも僻地にあり、逃げるための道は一本しかない。そのため、村に監視を付けなくても閉じ込めることができるので、この村に老人や子供を集めたのだ。
まさか、強い魔物が出る森を横切って村に現れる者がいるとは考えなかったため、僕たちは村に来ることができたのだ。
アーニャの両親と妹のマーニャは戦闘要員として攫われたのだ。祖父母は結構離れた村に住んでいるらしい。
10歳の時に自分が攫われているせいか、アーニャはそれほどショックを受けてはいない様子だ。攫われるなんて結構大ごとなのだが。
何にせよ、これだけ多くの人が攫われているという事は、やはり南部の貴族は何かしら企んでいるのだろう。内乱でも起こすのだろうか?
南部と隣国の間には強い魔物が生息する森や高い山脈があるので、隣国に戦争を仕掛けることは考えづらい。
一度、リエラへ戻ってギルドマスターと相談することにした。
村長には詳しいことは説明しないでおいた。部屋の中に結構な獣人がいたからである。さすがに、秘密を打ち明けるには多すぎな気がしたのだ。
その代わり、転移できることと、アイテムボックスが使えることを伝えて、力になれることはないか尋ねた。
この村は食料を奪われなかったので、それほど困ってはいないそうだ。元気な老人が多いので労働力にも困っていないらしい。
肉類が不足しているらしいので、ため込んだ魔物の肉をある程度置いて行くことにした。
人助けなのでスピカも文句は言わなかった。
転移でリエラの屋敷へ戻り、もう夜なのでギルドマスターとは翌日合う事になった。
ただこの日の夜は長かった。
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