第30話 レベル10
転移すると、ウルスラさんとツキカリさんが待っていた。クシャルとスシャリはもう眠っていた。
改めて、お礼を言われてから寝室へ。
何故か僕、アーニャ、スピカが1つの部屋で眠ることになっていた。
屋敷の中だから1人1部屋でいいと思うのだが・・・
ベッドの上に座りしばらくくつろぐ。
さて、レベル10になったことを言わなければ。
喜ぶべきことなのに、気が重い。
「スピカ、アーニャ、実はレベルが10になったよ。」
「本当ですか? 何かスキルを覚えましたか?」
「・・・うん。一応覚えたよ。」
僕は冒険者カードを出してステータスを表示した。
スピカは僕のベッドに飛び乗って、冒険者カードをのぞき込んだ。
アーニャは遠慮して自分のベッドに座っている。
「これは微妙ですね。あまり意味が無い?」
「どうしたのですニャ?」
「アーニャも見てください。」
スピカがそう言うと、アーニャは僕を見た。
僕が頷くとアーニャはベッドを降りて僕の隣に来て座り、冒険者カードををのぞき込んだ。
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アサヒライカール出発時のステータス
アサヒ・アオイ(人間?)
レベル :10
HP :200
MP :200
物理攻撃:64
魔法攻撃:64
物理防御:64
魔法防御:64
すばやさ:73
運 :100(MAX)
称号 :召喚者(言語理解(R)、ステータスアップ(R))
:収集癖(アイテムボックス(R)、アイテム鑑定(R)、
レアドロップ(U)、所有(U))
:フォーリナ神殿の主(神との文通(U))
:魔道具ワールドマップ(ワールドマップ(U)、ブックマーク(U)
ダンジョン探知(R)、転移(U)、索敵)(NEW)
スキル :アブソリュート・ゼロ(U)
:異世界結婚 (NEW)
魔法 :生活魔法
犯罪 :なし
その他 :リリエラの加護
:ウンディーネの溺愛
:サラマンダーの加護
:シルフの加護
:ノームの加護
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まず、称号の「魔道具ワールドマップ」のレベルが上がったようだ。
「ワールドマップ」が脳内で見れるようになった。見れるというか認識できるというのだろうか? 地図を出さなくても「転移」や「索敵」ができる。
「転移」がパーティーメンバーで転移できるようになった。
「索敵」が魔物の種類や人の簡単なステータス(人種とレベル)まで分かるようになった。
もともと僕の能力で一番有用だったけれど、さらに便利になった。
問題は「異世界結婚」である。
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異世界結婚(U):結婚すると経験値が均等に分配される。重婚不可。
結婚判定は相手に依存する。
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これはできればアーニャに見せたくなかったのだが・・・
黙っている訳にもいかないだろう。
もしかしたら「転移」や「索敵」のようにレベルアップするスキルかもしれない。
「異世界結婚・・・私はお払い箱ニャ・・・」
アーニャがショックを受けている。「経験値分配」のスキルを持っている意味が無くなると心配しているようだ。
でも、僕には結婚相手がいないと思うのだが?
「アーニャ、心配ないよ? だいたい、僕が誰と結婚すると言うの? 相手がいないよ?」
自分には結婚相手がいないなんてセリフ、言いたくなかったけど仕方がない。そもそも、この世界に来たばかりじゃないか。最終的には日本へ帰るのだし。
くそう、何だこのスキルは?
「何を言っているのですか? アーニャと結婚すればいいではないですか。スキルは神の思し召しですよ。神があなたとアーニャの結婚を望んでおられるのです。」
「ニャっ!?」
「何を言っているの?」
スピカがおかしなことを言っている。神の思し召し?
じゃあ、「アブソリュート・ゼロ」は? 神は僕に何者に対してもダメージを与えるなと思し召しか? 虫さえ殺してはいけないと。
いけない。あまりの事に思考が逸れてしまった。
アーニャは固まってしまった。
「アーニャ、大丈夫?」
アーニャがギギギギと首をまわし冒険者カードから目を上げて僕を見る。出来の悪いロボットのようだ。
真っ赤だ。脳天から湯気が出ている。本当に大丈夫だろうか?
「大丈夫だよ。無理に結婚を迫ったりしないから。安心して、アーニャ。」
さらに、
「奴隷にした上で結婚を迫るなんて最低だよ。僕はそんなことは絶対しないと誓うよ。日本へ帰るのだし、誰とも結婚しないよ。」
アーニャを安心させるため言葉を尽くす。もちろん本心だ。
「・・・重婚不可。そうですニャ。結婚すれば役立たずになることはないですニャ。でも、私なんかがご主人と・・・恐れ多いですニャ・・・やっぱり無理ですニャ。やっぱり私は役立たずですニャ。お払い箱、お払い箱ですニャ。」
「何を言っているのです。結婚は神様のご意思ですよ。」
「だから結婚はしないって言っているでしょ!」
「私はいらない子ですニャ。」
「結婚するべきです。」
だめだ、誰一人として話がかみ合っていない。
「スピカ、アーニャ、落ち着いて。ちゃんと話し合おう。」
「分かりました。」
「お払い箱・・・」
スピカは冷静になったがアーニャが帰ってこない。
アーニャの頭を両手でガシッと押さえて目を合わせた。
「アーニャ、落ち着いて。」
アーニャの顔はまだ赤かった。目に涙をためて僕を見つめている。
ツーっと涙が一滴落ちたかと思ったら、ぎゅっと抱きついてきた。
あまりに急だったので、僕は全く対応ができなかった。僕に掴まれたままのアーニャの頭が一瞬のけぞり、僕の両手から外れてものすごい勢いで前に振られた。
頭突きというか、顔面突きである。唇に何かが当たった感覚。おそらくアーニャのくちびるである。ノーカウントだこれはファーストキスではない。
そういえば、出会ったときも口移しで回復薬を飲ませたのだった。
2度あることは3度ある?
気を付けよう。
「見捨てないでくださいニャ。捨てないでくださいニャ。お払い箱は嫌ですニャ。」
アーニャは力の限り僕を抱きしめている。
「アーニャ、大丈夫。捨てないから。お払い箱じゃないから離して。ダメージは受けなくても痛いよ。」
「ほんとですニャ?」
アーニャ、後半聞いてなかったの?
話してくれないのだけど。
「ほんと、ほんとだから、せめて力を抜いてください。」
もはや懇願である。お願いします。
アーニャはやっと僕に抱きついていることに気が付いた。
慌てて離れる。
「すみませんニャ。取り乱しましたニャ」
やっと、落ち着いて話ができる。
「スピカ、スキルが神様の思し召しってどういうこと?」
気になったので聞いてみる。
「転移者のスキルは、普通神様と相談して決めるそうです。あなたははぐれてしまったのでできませんが、リリエラ様と手紙のやり取りをしています。きっと、リリエラ様の考えがスキルに影響しているはずです。」
「そうかなあ? このスキル、アーニャがいるから必要なさそうだけど?」
「そうですニャ。私がお役に立ちますニャ。お払い箱は・・・」
「いえ、きっとこのスキルはレベルアップするに違いありません。役に立つスキルになるはずです。結婚すべきです。」
「しばらく様子を見よう。レベルアップしてから考えても遅くないよ。」
「まあ、そうですね。分かりました。」
とりあえず、スピカの件は解決だ。
問題はアーニャだ。取り乱し方が尋常ではなかった。
「アーニャ、心配しなくてもお払い箱なんてことはないから安心して。」
「ほんとですニャ?」
「僕はこの世界で結婚なんてしないよ。相手もいないじゃない?」
「そんなことないですニャ。ご主人は誰とでも結婚できますニャ。選び放題ですニャ。」
「そうですね。精霊やリリエラ様の加護を持っていますし。案外、役に立つスキルも持っていますしね。・・・戦闘では役立たずですが。」
リリエラ様の加護やウンディーネの溺愛があるから結婚相手としては優良物件になるのか。それに、冒険者なら必ずレアドロップするのはかなりいい条件か。
「なるほどね。」
僕の事は良いのだ。アーニャの事を聞かないと。
「アーニャは何でそんなに心配しているの? 僕、アーニャをお払い箱にするようなことはしないよ?」
「分かっていますニャ。ご主人様は優しいですニャ。」
アーニャはそう言ってから、1度うつむいて小さく深呼吸すると続けた。
「もう、前の生活には戻りたくないですニャ。ひとりも嫌ですニャ。今、とても幸せなのですニャ。前の生活を思い出して取り乱したですニャ。」
余程ひどい扱いだったのだろう。獣人を差別している地域で奴隷になったのだ。もっと配慮して安心させるべきだったのだ。
「大丈夫、アーニャが一緒にいるのが嫌にならない限り、そばにいるから。これからもずっと一緒だよ。約束するよ。」
僕はアーニャを軽く抱きしめて、背中をポンポンとたたいた。
「ニャっ!? ご、ご、ご主人様、そ、そ、そ、それは、わわわわわ、私と結婚するという事ですニャ?」
あれ?
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