第30話 レベル10


 転移すると、ウルスラさんとツキカリさんが待っていた。クシャルとスシャリはもう眠っていた。

 改めて、お礼を言われてから寝室へ。

 何故か僕、アーニャ、スピカが1つの部屋で眠ることになっていた。

 屋敷の中だから1人1部屋でいいと思うのだが・・・


 ベッドの上に座りしばらくくつろぐ。

 さて、レベル10になったことを言わなければ。

 喜ぶべきことなのに、気が重い。


「スピカ、アーニャ、実はレベルが10になったよ。」


「本当ですか? 何かスキルを覚えましたか?」


「・・・うん。一応覚えたよ。」


 僕は冒険者カードを出してステータスを表示した。


 スピカは僕のベッドに飛び乗って、冒険者カードをのぞき込んだ。

 アーニャは遠慮して自分のベッドに座っている。


「これは微妙ですね。あまり意味が無い?」


「どうしたのですニャ?」


「アーニャも見てください。」


 スピカがそう言うと、アーニャは僕を見た。

 僕が頷くとアーニャはベッドを降りて僕の隣に来て座り、冒険者カードををのぞき込んだ。




********************

アサヒライカール出発時のステータス


アサヒ・アオイ(人間?)

レベル :10

HP   :200

MP   :200

物理攻撃:64

魔法攻撃:64

物理防御:64

魔法防御:64

すばやさ:73

運   :100(MAX)

称号  :召喚者(言語理解(R)、ステータスアップ(R))

    :収集癖(アイテムボックス(R)、アイテム鑑定(R)、

         レアドロップ(U)、所有(U))

    :フォーリナ神殿の主(神との文通(U))

    :魔道具ワールドマップ(ワールドマップ(U)、ブックマーク(U)

                ダンジョン探知(R)、転移(U)、索敵)(NEW)

スキル :アブソリュート・ゼロ(U)

    :異世界結婚 (NEW)

魔法  :生活魔法

犯罪  :なし

その他 :リリエラの加護

   :ウンディーネの溺愛

   :サラマンダーの加護

   :シルフの加護

   :ノームの加護


********************




 まず、称号の「魔道具ワールドマップ」のレベルが上がったようだ。

 「ワールドマップ」が脳内で見れるようになった。見れるというか認識できるというのだろうか? 地図を出さなくても「転移」や「索敵」ができる。

 「転移」がパーティーメンバーで転移できるようになった。

 「索敵」が魔物の種類や人の簡単なステータス(人種とレベル)まで分かるようになった。

 もともと僕の能力で一番有用だったけれど、さらに便利になった。


 問題は「異世界結婚」である。




************


異世界結婚(U):結婚すると経験値が均等に分配される。重婚不可。

        結婚判定は相手に依存する。


************




 これはできればアーニャに見せたくなかったのだが・・・

 黙っている訳にもいかないだろう。

 もしかしたら「転移」や「索敵」のようにレベルアップするスキルかもしれない。


「異世界結婚・・・私はお払い箱ニャ・・・」


 アーニャがショックを受けている。「経験値分配」のスキルを持っている意味が無くなると心配しているようだ。

 でも、僕には結婚相手がいないと思うのだが?


「アーニャ、心配ないよ? だいたい、僕が誰と結婚すると言うの? 相手がいないよ?」


 自分には結婚相手がいないなんてセリフ、言いたくなかったけど仕方がない。そもそも、この世界に来たばかりじゃないか。最終的には日本へ帰るのだし。

 くそう、何だこのスキルは?


「何を言っているのですか? アーニャと結婚すればいいではないですか。スキルは神の思し召しですよ。神があなたとアーニャの結婚を望んでおられるのです。」


「ニャっ!?」


「何を言っているの?」


 スピカがおかしなことを言っている。神の思し召し?

 じゃあ、「アブソリュート・ゼロ」は? 神は僕に何者に対してもダメージを与えるなと思し召しか? 虫さえ殺してはいけないと。

 いけない。あまりの事に思考が逸れてしまった。


 アーニャは固まってしまった。


「アーニャ、大丈夫?」


 アーニャがギギギギと首をまわし冒険者カードから目を上げて僕を見る。出来の悪いロボットのようだ。


 真っ赤だ。脳天から湯気が出ている。本当に大丈夫だろうか?


「大丈夫だよ。無理に結婚を迫ったりしないから。安心して、アーニャ。」


 さらに、


「奴隷にした上で結婚を迫るなんて最低だよ。僕はそんなことは絶対しないと誓うよ。日本へ帰るのだし、誰とも結婚しないよ。」


 アーニャを安心させるため言葉を尽くす。もちろん本心だ。


「・・・重婚不可。そうですニャ。結婚すれば役立たずになることはないですニャ。でも、私なんかがご主人と・・・恐れ多いですニャ・・・やっぱり無理ですニャ。やっぱり私は役立たずですニャ。お払い箱、お払い箱ですニャ。」


「何を言っているのです。結婚は神様のご意思ですよ。」


「だから結婚はしないって言っているでしょ!」


「私はいらない子ですニャ。」


「結婚するべきです。」


 だめだ、誰一人として話がかみ合っていない。


「スピカ、アーニャ、落ち着いて。ちゃんと話し合おう。」


「分かりました。」


「お払い箱・・・」


 スピカは冷静になったがアーニャが帰ってこない。


 アーニャの頭を両手でガシッと押さえて目を合わせた。


「アーニャ、落ち着いて。」


 アーニャの顔はまだ赤かった。目に涙をためて僕を見つめている。

 ツーっと涙が一滴落ちたかと思ったら、ぎゅっと抱きついてきた。

 あまりに急だったので、僕は全く対応ができなかった。僕に掴まれたままのアーニャの頭が一瞬のけぞり、僕の両手から外れてものすごい勢いで前に振られた。


 頭突きというか、顔面突きである。唇に何かが当たった感覚。おそらくアーニャのくちびるである。ノーカウントだこれはファーストキスではない。

 そういえば、出会ったときも口移しで回復薬を飲ませたのだった。

 2度あることは3度ある?

 気を付けよう。


「見捨てないでくださいニャ。捨てないでくださいニャ。お払い箱は嫌ですニャ。」


 アーニャは力の限り僕を抱きしめている。


「アーニャ、大丈夫。捨てないから。お払い箱じゃないから離して。ダメージは受けなくても痛いよ。」


「ほんとですニャ?」


 アーニャ、後半聞いてなかったの?

 話してくれないのだけど。


「ほんと、ほんとだから、せめて力を抜いてください。」


 もはや懇願である。お願いします。


 アーニャはやっと僕に抱きついていることに気が付いた。

 慌てて離れる。


「すみませんニャ。取り乱しましたニャ」


 やっと、落ち着いて話ができる。


「スピカ、スキルが神様の思し召しってどういうこと?」


 気になったので聞いてみる。


「転移者のスキルは、普通神様と相談して決めるそうです。あなたははぐれてしまったのでできませんが、リリエラ様と手紙のやり取りをしています。きっと、リリエラ様の考えがスキルに影響しているはずです。」


「そうかなあ? このスキル、アーニャがいるから必要なさそうだけど?」


「そうですニャ。私がお役に立ちますニャ。お払い箱は・・・」


「いえ、きっとこのスキルはレベルアップするに違いありません。役に立つスキルになるはずです。結婚すべきです。」


「しばらく様子を見よう。レベルアップしてから考えても遅くないよ。」


「まあ、そうですね。分かりました。」


 とりあえず、スピカの件は解決だ。

 問題はアーニャだ。取り乱し方が尋常ではなかった。


「アーニャ、心配しなくてもお払い箱なんてことはないから安心して。」


「ほんとですニャ?」


「僕はこの世界で結婚なんてしないよ。相手もいないじゃない?」


「そんなことないですニャ。ご主人は誰とでも結婚できますニャ。選び放題ですニャ。」


「そうですね。精霊やリリエラ様の加護を持っていますし。案外、役に立つスキルも持っていますしね。・・・戦闘では役立たずですが。」


 リリエラ様の加護やウンディーネの溺愛があるから結婚相手としては優良物件になるのか。それに、冒険者なら必ずレアドロップするのはかなりいい条件か。


「なるほどね。」


 僕の事は良いのだ。アーニャの事を聞かないと。


「アーニャは何でそんなに心配しているの? 僕、アーニャをお払い箱にするようなことはしないよ?」


「分かっていますニャ。ご主人様は優しいですニャ。」


 アーニャはそう言ってから、1度うつむいて小さく深呼吸すると続けた。


「もう、前の生活には戻りたくないですニャ。ひとりも嫌ですニャ。今、とても幸せなのですニャ。前の生活を思い出して取り乱したですニャ。」


 余程ひどい扱いだったのだろう。獣人を差別している地域で奴隷になったのだ。もっと配慮して安心させるべきだったのだ。


「大丈夫、アーニャが一緒にいるのが嫌にならない限り、そばにいるから。これからもずっと一緒だよ。約束するよ。」


 僕はアーニャを軽く抱きしめて、背中をポンポンとたたいた。


「ニャっ!? ご、ご、ご主人様、そ、そ、そ、それは、わわわわわ、私と結婚するという事ですニャ?」


 あれ?

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