第25話 偽物だらけのデート?

 一時間後。


 俺は同じく悠翔の部屋にいた。ただ、昨日とは違い、隣には桃のような甘い香りをこの場に漂わせる花宮が。


「……あの、目的は悠羽ちゃんのトラウマの改善をする、ということでしたよね」


 この静寂に包まれたこの空間を初めに破ったのは、机と向かい合っている花宮。


「……まぁ、そうだね。そういえば、ここを出る前に春留、何か言ってたよね。あれ、なんだったのか?」


「俺が思ったのは、その……自分の良さを知ってもらうのっていいんじゃないかってだけ、だよ。悠翔の義妹がこうなってるのって自分が嫌いだから、だろ。自分をさらけ出すと、否定されそうで怖いからだろ」


 花宮が怖い顔でキッと睨む。友達のことはどんなことであっても悪く言ってほしくはないのだろう。それも、嫌いだと感じている俺の口からとなると、なおさらなのだと思う。


 でも多分、俺の顔もきっと怖くなっているような気がする。なぜなら、俺の言っていることは全て俺にも当てはまることだから。


 自分をさらけ出すと、何もかも否定されてしまいそうで怖い。そして、そんなことを考えてしまう自分が嫌い。


 でも、だからこそ悠翔の義妹の考えることを理解することができたのだと思う。そのことだけは、そんな俺に感謝することにした。


「……なるほど。でも、どうやって?」


 悠翔は小さくこくんと相槌を打つと、そう尋ねてくる。


「それは……」


 俺は口ごもる。


「……もしかして、考えてないとか言わないですよね」


 痺れを切らしたのか、花宮がそう確かめるように聞いてくる。


「……あの短時間でそこまで考え付くかよ。花宮、何かないか?」


「はぁ、自分でしようとは考えないんですか。……まぁ、気乗りはしないですけどこの方法しか考え付かなかったので言うんですけど、まずは悠羽ちゃんの思いを聞いた方がいいと思うんです」


「まぁ、自身の心情が一番、だからね」


「はい。でも、それは悠羽ちゃんが本音を言える人でないといけません。なので、私や悠翔先輩にはできないことです。私たちは悠羽との距離が近すぎてしまったから。多分、迷惑をかけまいと本音は決して出さない気がします。」


「確かに。悠羽は自分の周りの人には決して迷惑をかけたがらないもんね。大抵の事は自分でしようとするし。ちょっとくらいは兄らしいことをさせてほしいと感じることはいくつかあるから」


「はい、ですから……本音を吐きだしてくれそうな人と言えば、悠羽ちゃんと多少知り合ってはいるが嫌っている人物。嫌っているからこそ、本音を出し合えることってありますから」


「…………」


 嫌な予感がする。話の初めに気は乗らないと言っていたが、まさかそういう事じゃないよな? 花宮のその話し方は、まるで悠翔の義妹の本心を探ることを俺にしろと言っているような。


「それ、もしかして俺に向かって言ってるのか?」


「話が早いですね。まぁ、正直先輩に頼むのは気が乗りませんが、これはあなたにしかできないことだと思いますし。それに、あなたは『これは悠翔先輩のためにしている』と言いました。それを信用することにします」


「……ま、分かった。でも、自慢ではないが誘うなんてしたこともないし多分嫌われていると思うし、その展開まで持っていくのは困難を極めるものだと思うが?」


「それならなんとかなります。『偶然』に見せかけて必然的にその状況へと持っていけばいいんですから」


「なるほど……! 何かしらの方法で悠羽をどこかに呼んで、そこに偶然を装って春留を放り込めばいいわけだ」


 悠翔は納得したようにぽんと手を叩くと、そう呟く。


「そういうことです。幸いなことに私は悠羽ちゃんの予定をいくつかは把握しているので。すぐ、となると今週の土曜日。悠羽ちゃんは映画館に行くと言っていました」


「……映画館、ね。了解」


「詳しいことは後々話そうと思います。それに伴って私の方でチケットも用意させてもらいますので。失敗してしまったら、絶対に許しませんからね」


 悠羽は睨んで圧を掛けてくる。


「全力は、尽くすよ」


 この花宮の提案を肯定してしまうと花宮に対して敗北を宣言してしまうようだと感じ、俺は目を背けながらボソッと聞こえないように小さく呟いた。



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