特別編 その頃の女子チーム
自分は一体何を書いているのだろうか……
(前話の女子側視点です)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひゃあっ!?」
悠翔や春留たちが恋バナを繰り広げていた頃、女子チームの方では、シャワーを浴びていた花宮が悲鳴を上げていた。
何かゾワッと変な感覚を覚えたからだ。何があったのかと確認してみると、花宮のお世辞にも大きいとは言えない慎ましい胸に当てられた誰かの手。
こんなことをするのは一人しかいない。花宮は後ろを確認する。すると見えたのは、ニヤーッと白い歯を見せる悠羽だ。
「……もう、ちょっと?」
ムーっと頬を膨らませながらそう声を上げる。
「ごめんごめん。それにしても、やっぱり若ちゃんの胸は落ち着くなぁ、って」
「……んー、私の胸が小さいからってこと? それは悠羽ちゃんも……って、え」
花宮は悠羽の方を見ながら、同じでしょ、と言いかけて、でもやめる。
「……あっ、ボク? ボクは着痩せするタイプなんだよ。……まぁ、それは冗談として、いつもはさらしを巻いてるからね」
そう、花宮はそのことを知らなかったのだ。一緒に話すことはよくあるものの、さすがに二人でお風呂に入るなんてことは一度もなかった。
それに、今まで悠羽は時間をずらして更衣室で服を着替えていた。だから、さらしを巻いていることを花宮は知り得なかったのだ。
「……くっ」
「ふっふっふっ〜」
胸を張りながら、自慢げに笑う悠羽。対して花宮はく〜っと悔しそうに悠羽の胸を見つめていた。
「とりあえず、身体が冷えると悪いし温泉入ろ〜」
「あっ、だね」
会話をするにも、温泉に入ってから続きをすればいい。花宮がシャワーを止め、二人で温泉につかる。
「ふぅ……気持ちいいね」
「だね〜。……あっ、そういえばさ。どうなのどうなの?」
温泉に入ってすぐ、手で胸を隠している花宮に向かって近寄るようにして悠羽が迫ってくる。
「どうなのって……なに、が?」
またか?、なんて考えながら悠羽に聞く。
「分かってるでしょ、春留先輩とはどうなのって話だよ!」
「……あっ、そっちか。……って、えええぇぇぇぇっ!? いや、別に先輩のこと好きなわけじゃないし、どうって言われても何もないよ!」
まさかの発言に、花宮は目を大きく見開かせていた。顔は紅潮していて、言葉では否定していても春留に対してどんな気持ちを抱いているのか、悠羽には丸わかり。
「またまた〜」
「……いや、その……」
「チャンスは待ってくれないよ? 別に自分の気持ちから逃げてもボクにはなんの関係もないしいいよ。でも、若ちゃんは本当にそれでいいの?」
「……っ」
「でも、春留先輩のことを好きなのなら、付き合いたいと思うのなら、ボクは応援するし手伝ってあげる。若ちゃんはどうしたい?」
「……そ、それは……」
花宮の口がどんどん淀んでいく。
それもそのはず、花宮は知っているのだ。自分が先輩のことを好きで、……そして先輩が自分を好きでないことくらい。
付き合いたいだなんて思いを抱いてしまったら、もう終わりだ。だって、その思いが届くことはないのだから。
だから、自分の気持ちから逃げたかった。
思いが叶うのを願ってこの少しでも話せているこの関係が壊れるというのは、とても耐えられないこと。壊れてしまうのなら、初めから思いを求めなければいい。
けれど、本当は……。
「付き合い……たいっ。わ、私、先輩と付き合いたい!」
「やっと言ってくれたねっ! よしっ、じゃあボクと兄さんで若ちゃんの手助けをする。でも、それはあくまで『きっかけ』にすぎないからね? 頑張るのは、若ちゃんだから」
悠羽の花宮を見つめる真珠のようにきれいな目には、それはまるで我が子の成長を見守るかのように優しさが籠もっている。
「……う、うんっ!」
そうして、花宮は一歩を踏み出したのだった。
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