アナザー第1話 付き合って1ヶ月。

 今日は9月15日。季節は秋へと少しずつ近付きつつあり、だんだんと肌寒くなっていた。


「ん〜……」


 カチカチと音を鳴らすアナログの時計。その横のベッドで、布団にくるまるようにして、俺は唸りながら座っていた。


 時計の針はもう8時を回っているが、学校に関しては問題はない。なぜなら、今日は日曜日……学校は休みだから。


「問題なのは……」


 問題なのは、どうはなみ……わ、若那を誘うか。そして、まず何をするべきなのか、ということ。


 それもそのはず、今日は付き合い始めた日である8月15日から考えてちょうど1ヶ月。そう、付き合ってから1ヶ月記念日と言うわけだ。


 ……と、言うわけなのだが……。


「……誘うにしても、どこにいけば?」


 誘うことに関しては、とりあえずなんとかできる。一応若那は同じマンションで暮らしているということもあり、それは問題ない。


 ……いや、若那に用事があれば問題なのだが。


 でも、聞くのは後だ。まだ何をするか決めていない。


「水族館は、二人ではないといえ行っているし、動物園だと匂いとかの問題もあるよなぁ……。まだ若那の好き嫌いがよくわからない今、どちらかわからない場合はやめておこう……」


 ここは、人類の叡智を使うか。時計の横にコトンと置かれているスマートフォンを手に取ると、慣れた手つきでロックを開き、『1ヶ月記念 デート』と検索。


「…………えっ」


 検索してどれがいいのだろうか、とサイトを見ているとふとあるサイトが目につく。


『高校生カップルは1ヶ月でどこまでしていい?』


 …………うっ。


 さきほどまで流れていた画面が止まる。明らかに今求めているような内容を書いてなさそうなのは俺にも分かる。けれど、俺は少なからず気になってしまっていた。


 普通の人たちって、どこまで進むものなんだろうかと、ふと頭に疑問が浮かぶ。


 いや、我慢だ我慢。変なことを考えてしまわないようにと頭をブンブンと振って少し赤くなった顔を冷まし、本題へと話題を戻す。


 ……その時、後で見るか、だなんて考えてしまっていたのは秘密だ。


「……って、これいいんじゃないか?」


 気持ちを入れ替えようと、また流れ始めた画面から見えたのは『ショッピングモールデート』という文字。


 ショッピングモールなら色んなものがある。そうだ、俺も若那もミステリー好きだから、本屋なんて行くのはどうだろうか? それとか……。


「……よしっ、これにしよう」


 手をぐっと握ると、上に突き上げる。予定は決まった、少しでもエスコート出来るよう、頑張ろう!


「……となると」


 そう決めると、さっそくチャットアプリで若那との会話画面を開いてその旨を送った。


 やっぱり、若那は女の子だ。よくは知らないけれど、何かしら準備というものもあるのかもしれないしな。













「……とりあえずは良かった」


 場所は変わって若那の部屋の前。


 そう、ここにいることからも分かる通り、若那が快く了承してくれたのだ。断られたりしたらどうしようかと思ったが、良かったぁ……。


「これ、大丈夫かな……」


 そう小さく呟くと、俺は自分の来ている服に目を向ける。


 一応ネットでどういうのが良いのかとか自分なりには調べてきた。それを参考にして……というより、まんま利用している。上は白ニットに、黒のコーチジャケット、下は少し青みを帯びたスウェットパンツ。


 本当ならもう少し凝ることができたんだろうけど、クローゼットに入っていたのはそれだけ。ちなみに、それでさえもお母さんが送ってきたものだ。俺の服への興味度の無さがよく分かる。


 ……それにしても、自分の着る服なんて、別に誰に見せるわけでもないしとあまり気にしてこなかったということや、あまり着なれない服だったということもあり、少し恥ずかしい。


 大丈夫、かな……。


 などと服を気にしていると、隣からガチャッと扉の開く音。そして、その音がしたのも束の間、若那が扉から出てくる。


「おっ、おはよ、……う」


「おはよ……う、ござい、ます」


 挨拶をしようとして口を開くが、若那の姿を見てだんだんと口が淀んでいく。


 それもそのはず、若那の姿は、まさに『天使』と言えるほどだったから。


 若那の羽織っている白のカーディガンは天使の羽のようにもこもこそうで、思わず触ってしまいたくなる。それに、下のベージュのミディスカートは上品で可愛らしい印象を受けた。


 私服姿の若那は何度か見たことはあったけれど、やはり『デート』と意識してしまうと、なおさら可愛く見える。うん、死ぬほど可愛い。


「あ、あの、……可愛い、な」


「……っ! ……あっ、ありがとう、ございます」


 目をキョロキョロとさせて恥ずかしそうにお礼を言う若那。


「春留くんも、かっこいいです……よ?」 


「…………お、おう。ありが、とう……」


 顔を背けながら、俺は小さい声でそう言う。


 まだ名前を呼ばれることすら慣れていないのに、そういうのは無しだろ無し。でも、服、変じゃないのなら良かった……。


「……じ、じゃあ、行くか?」


「は、はい……っ!」


 やっぱり言う方も言う方で恥ずかしかったのか、若那は未だに照れくさそうにしていた。

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