アナザー第2話 付き合って1ヶ月。

「じゃあ、まずどこ行く? 時間はだいぶあるし、別にどこでもいいけど」


 近くのショッピングモールへと着いた。


「そうですね〜、まず本屋とかどうですか? また新しい本が出たようですし。あと、服も買いに行きたいかなーって思ってたり」


 顎に手を当てて、真剣そうに考える若那。それにしても、洋服屋か。やっぱり女の子らしいな。いや、服買いに行くだけで女の子らしいっていうのもどうかとは思うが。


「あと、最近……その、彼氏ができた、ので、やっぱりおしゃれしたいですし」


 若那は顔を赤らめながら、上目遣いでそう言ってくる。


 身長差ということもあり、上目遣いはおそらく意識してのことではないだろうが、破壊力は倍増だ。いや、それどころか何倍増。可愛い……。


「……っ、そ、そうか」


 不意打ちは、ずるいだろ。


「じ、じゃあ、さっそく行きましょう!」


「……おぅ」


 それにしても、……デートか。思えば、意識して二人でいるのって少なかった気がする。


 何か、また距離を近付けさせるきっかけになればいいな、なんてそう考えていた。










 まず向かったのは、本屋だ。


 行き方は簡単。ショッピングモールに入ってすぐに見えるエスカレーターを上がり、2階に上がったところから次は左に曲がって歩き続ければ、到着。


「そういえば、春留くんは、どこを見たいとかありますか? 私、ミステリーの他にも見てみたいところがあるんですが……」


「んー……俺はミステリーくらいかな。まぁ、若那が他のところを見てみたいのならいいぞ? 興味、あるしな」


「えっ、本当ですか……っ!」


「おぅ。やっぱり、彼女の好きなもの、知っておきたいと思うのは当たり前だろ?」


 ショッピングモールに入る前、俺のことを『彼氏』と呼んでくれてすっごい恥ずかしかったんだ。仕返ししてやる。


 そう考えると、俺はニッと不敵な笑みを浮かべながら、からかうような口調でそう言う。


「か、彼女……! ふふふふっ…………おっと。じゃあ、ミステリーの後に見に行きましょうか!」


「ん、了解」


 今、一瞬。若那が変な笑いを見せていた気がしたんだが……。


 そして向かったのはミステリーコーナー。このショッピングモールの本屋には、ミステリー分野の本だけを集めた、特設コーナーが設置されてある。


 その中には、日本の有名な作家さんから外国の作家さんまで、数々の本が販売されており、その本の中のいくつかには、おすすめポイントなんかも紹介されているから、ここで買って自分の読みたい本とは少し違っていたなんてことはほとんどない。


「……んん、春留くん、この中でどれがおすすめとかありますか? おそらく春留くんに比べれば、私のほうが断然にわかだと思うので」


「そんなことはないだろ」


「……そう、ですかね」


「おぅ。…………あっ、そうだ、おすすめだったけか。んーっと、おすすめで言えばこの本かな」


 俺が棚から取った本は、ミステリーを好きになる、きっかけになった本。いや、それどころか本を読むようになったのも、これが理由と言えるほど良かったと記憶している。


「この本は、俺がミステリー系を読むようになったきっかけ、みたいな本でさ。初めて本で感動したんだよ」


 そして、一息ついてまた口を開くと、


「これは、ストーリーとかトリックが本当に凝ってて、あとキャラクターの個性なんかも大事にしているから、普通に物語として読んでも面白いんだ。それと、なにより、犯人や主人公の心理描写がすっごい…………っ、あっ、すまん……」


 思わず話しすぎてしまったらしい。自分が好きであっても、他の人から見れば分からないわけだから、嫌がられるかもしれない。嫌、じゃないだろうか、と顔を俯かせる。


「いいですよ。というか、好きなものを話してくれて、むしろ嬉しいです!」


「……そうだ。部屋にあるし、借りてくか?」


 ホッと一息ついてから、そう提案する。一応、読んでから大分たった今でも、たまに読むことはあるので、本棚に置いてあるのだ。


「えっ、いいんですか?」


 若那は目を輝かせている。ここまで喜んでもらえると、俺も嬉しいものだ。


「おぅ、もちろん」


「それと、他にも──」


 その後も、若那の好きな本について聞いたり、それと若那が見たいといった他のところ……恋愛だったのは意外だったが、そこらも見回ったりした。


 結局、そんなこんなで2時間近くを消費し、12時を超える時間まで本屋にいたのだった。











 同じくショッピングモールの2階、おにぎり屋の美味しそうなツナマヨおにぎりで昼休憩。だいたい13時になるまで堪能したあと、次に向かったのは洋服屋である。


「服というけど、どういうのが良いとかある?」


「それは、可愛い服ですかね。やっぱり、春留くんの横に立てるような人になりたいので」


 えへへ、と可愛くそんな言葉を発する。遠慮気味に話してはいるが、明らかに俺のほうが場違い感がある。


「……いやいや、どちらかというと逆だろ。むしろ、俺の方が若那の隣に立てるよう努力すべきなのでは?」


「そんなことはないですよ。……じゃあ、こうしましょう! 店員さんに仕立ててもらって、春留くんはかっこいいんですって認めさせます!」


 と、元気よく声を張る。


「……そ、それなら、こちらこそ! 若那が可愛いこと、証明してやる!」


 かっこいいと言ってくれたことに少し心が跳ねながらも、なんとかその気持ちを抑えて押し返す。


((まぁ、証明しなくとも、かっこいい(可愛い)ことは見たら一目瞭然。すぐ分かるんだけどね))


 二人は、無意識にも同じことを考えていたことを知らない。

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