特別編 花宮若那の胸の内

作者登場! ……失礼しました。

この話は花宮若那視点です。

それと、注意なんですが。一応この話は前々話が舞台となっております。


あっ、見てくださってありがとうございます。本当に助かってます。感謝しかないっていうか見てくださってるあなた神ですか、天使ですか?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ひゃ〜〜〜!!」


 イルカショーが始まった。


 楽しそうにしているイルカと、そのイルカに乗りながら笑顔で手を振る人を見て、近くからは多くの歓声が聞こえてくる。


 すごいなぁ……と、私も心の中で思う。


「おぉ……!」


 今度は、イルカが空高く跳ねたかと思うと、ピンポイントに空にぶら下げられているリングにくぐる。


 実際に見ているということもあり、迫力満点。再び巻き起こる大きな歓声と拍手の嵐。


 ……トイレ、行こうか。


 イルカショーが始まって数分。急にトイレに行きたくなってきた。このイルカショー、まだ見ていたいけど終わるまで我慢できそうにない。


 仕方ない、一旦席をたとう。


「……どうかしたのか?」


 席を立って近くのトイレに向かおうとすると、隣からそんな声が聞こえてくる。


 早く戻ってきたいのに……。なんで声を掛けてくるかな。なんで先輩ばかり、無駄に私の事に気付くんだろう。


「すぐ戻ります」


「そう、か。了解」


 そう軽く言葉を交えて、私は足早に席を立った。







「……ふぅ」


 ハンカチで水に濡れた手を拭き、折りたたんでスカートのポケットに仕舞う。


 時計を確認すると5分経過している。良かった、まだイルカショーは終わってなかった、急がないと。


「ねぇ、君」


 急ごうとイルカショーの行われている建物へと戻ろうとしたのも束の間、誰かに声をかけられた。


「なん、ですか?」


「オレたち、今空いてるんだけどさ。良かったら一緒にご飯でもどう?」


 ナンパ、か。


 ナンパをしてきた男は、茶髪に染めているようだった。無駄に派手な服やアクセサリーから見て、おそらくその服装をすればモテるだろうとでも思っているのかな?


「……私、友達と一緒に来ているので」


 ナンパの対処法は知っている。


 ナンパにきている人たちは大抵半端な考えでしていることが多い。それと同時に、ナンパという行為は犯罪に近しいもの。


 それなら、ナンパをしている人は第三者の存在がいると言えばその第三者が通報するのではと恐れるようになるはず。


 第三者の存在をチラつかせればいいだけなの。


 それもここは水族館。多くの人で賑わっているからそれはなおさら。


「じゃあ、友達が来るまででいいから」


 しつこいパターンなの、ね……。


「……」


 どうしよう、かな。


 こっちから行く、なんて事実を言えばこのチャラ人間が有利になるだけ。だって、来るだなんて言えば、第三者が来ないことが分かってしまうから。


 それなら……っ


「その、トイレを出たとこに……すぐそこにいるので」


 第三者の存在をさらに近付けるだけ。これだけ言えば大丈夫なはず……。


「いいじゃん、別に。オレらと一緒にご飯行くの、嫌なわけ?」


「そういう訳では……」


 ここまでしつこいのは、予想外だ……。


 私は顔を歪ませる。どうしようか、と頭を悩ませた。


「じゃ、いいよね? ね?」


 チャラ人間は目をギラリと輝かせて、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


 気付けば、他のチャラ人間の取り巻きたちによって周りを囲まれていた。


 やばい……っ、囲まれた! この人たちは私を逃がす気はないっていうこと、ね……。


「大声だしたら容赦はしない、どうなるかくらい、分かってるよね?」


 こちらをキッと睨んだかと思うと、このチャラ人間は目を私の胸の方へとちらつかせる。変態、め。


 でも、言い返せない。


 優しそうな口調とは裏腹に、その声には、動くことどころか、息ができなくなってしまうくらいに強い圧がこめられているから。


「……っ」


 足が動かない。怯えてるだけじゃ何もできないことは分かっているのに、それが分かっていても足が竦んでいる。


 怖い、怖い……っ!


 誰か……っ、誰か……っ。声すらも出ない。助けを求めたいのに、何もできない。


 目から零れ落ちた涙が、私の頬をつたっていた。


 …………もう、私は。


「…………っ!?」


 私は、目を見開かせる。


 気付けば、目の前に先輩がいたから。先輩が、私を守るように手を広げてナンパしてくる人の前に立っていたから。

 

「おい、今はオレ達がこの子と話してんの。お前、邪魔しないでくれる?」


 ナンパしてくる人たちは、先輩に向かってそう声を掛ける。


「うるせぇ、花宮が泣いてんだろ」


「……ぁあ? 生意気なやつだな。オレはこいつと話してんの。お前はお呼びじゃねぇっつってんだろ」


「だぞ、ヒーロー気取りでやってきたのかは知らねえが、そんな態度を取っていられるのも所詮今のうちやぞ?」


 先輩は、足が震えていた。この人たちが怖いんだ、やっぱり。


「……花宮、逃げるぞ」


 耳元でそう言われたかと思うと、その途端、先輩が私の手を取るとチャラ人間の隙をついて走り出した。


 どうして……どうして先輩は、怖いと思う人を目の前にしてこうも勇気が出せるの? 


 嫌いな私を、救おうとなんかしたの?


 私の手をぎゅっと握って走る先輩が、嫌いだとずっと思っていた先輩が、このとき、どうしてもかっこよく、ヒーローのように見えた気がした。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 とりあえず、人目がつくところまで来たので先輩は一旦足を緩める。それに合わせて私も足を止める。


「……はぁ……はぁ」


 そして、一旦近くに設置されてあったベンチへと座った。


「……怖、かった」


 もういなくなったはずなのに、あいつがしたことがまだ忘れられず、足は未だに震えている。今出した声は震えていたと思う。


「そんなの、どうでも…………。大丈夫だ、花宮。もうあいつらはいない」


 そして、そう言いながら、片方の手で私の背中を安心させるように先輩がさすってくる。どうしてかすっごく気恥ずかしい。


 怖さなんて一瞬忘れてしまうくらいに先輩のことがかっこよく見えた。こんなやつのことを、どうしてか。


 赤くなってしまっているであろう顔を見せたくなくて、隠したくて。


 そして、こんな感情を抱いていることは先輩のせいだと考えて。ぎゅーっときついくらいに先輩の腕を掴んでやった。

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