第5話 最悪な再会

「…………は?」


「…………え?」

 

 近づいてきている彼女を見ていて、『世界がもうあと少しで終わっちゃいますよ〜』なんてニュースがテレビでCMのように軽く流れてきた時並みの衝撃が襲ってきた。


 わかりにくい表現かもしれないけれど、それが一番ここに対して合っているように感じたほど。


 ちなみに、俺もそんなこと体験したはずもないのでよくわかんない。


 でも、そのくらいの衝撃が襲ってくるほどの目の前の景色に、人物に、思わず自分の目を疑った。


 別のクラスの同級生の名前すら知らない時があるのに、俺は後輩である天使……いや、あいつを見たことがあったからだ。


 パッチリと大きな二重の目、スッと通った鼻筋、しなやかさと華奢さを持ち合わせた体型。

 さらに、透き通ったセミロングの茶色がかった黒の髪型は、顔立ちの美しさや骨格の華奢さをさらに際立たせている。


 それでいて、中学生くらいの容姿の女子。


 そう、ここまで容姿が似ているということはもう間違いではないのだろう。


 そう、こいつは。

 性格が悪魔の、コンビニで出会ったあいつだった。


「ちょ……えっ、………は?」


 瞬きをしてみたり、目をこすってみたりしても、悲しいことに目の前にいる女性の姿が変わったりはしていない。

 猫を被った……いや、天使の皮を被った悪魔だった。


「…………初めまして。花宮、若那です。」


 俺のいろんな考えを遮るように、彼女はそう言った。


 多分、その言葉の通り彼女は俺のことを忘れたというわけではなさそうで、今でもキッと俺の方を睨んできている。けれど、嘘で固められたようなその言葉……


「……あぁ、初めまして」


 俺は、彼女の言ったことから彼女の事をほんの一握り、少しだけを理解することができた気がした。


 多分、キャラを作っているんだ。自分の容姿に見合った、性格を作っているんだ。


「瀬川先輩も初めまして」


 天使のように可愛らしい笑みを作りながら、隣の瀬川さんにも挨拶をする。みんなから見れば天使だとか言うんだろうけど。


 俺から見れば違和感しか感じない。どうしても、初めて出会った時のことを思い浮かべてしまう。


「は、初めまして! せ、瀬川日和と言います……」


 相手は後輩といえどやはり緊張するようで、瀬川さんも逃げたい気持ちを押し殺すように挨拶を返す。


 本来なら俺も挨拶すらままならなかっただろう……本来なら。


「瀬川先輩、桜庭先輩……あ、あの、よろしく、お願いします……」


 天使が作り出す光からできた陰に隠れるようにして、後ろにいたもう一人の人が俺たちに向かって多少噛みながらも挨拶をする。


 それは初めて出会った瀬川さんのように、恥ずかしそうに小さくなっていた。この人は、天使ともう一人のペアだろう。


 控えめにしている彼女は、小柄で小動物的な印象を受ける。そして、顔立ちもどこか幼さやあどけなさを醸し出している。

 それに、さっきからどこか何もない空間の方に向いている、ミディアムボブの髪に隠れかけているその目は、遠慮気味な自身の性格を表しているようだった。


「あっ、よろしく……ね」


 その姿を見ていると、なんだか親近感が湧いてきて、いつもなら緊張して出ない声が自然と出せていた。


「よ、よろしくね! 小日向さん」


 瀬川さんも、同じように挨拶を返す。


『じゃあ、そろそろ交流会を始めていきましょう』


 どこからか声が聞こえてくる。それに反応して、俺たちはそちらの方へ身体を向け、耳を傾ける。


『では、目的地に向かうためにバスに乗ってもらいます。バスは決められた所に座るようにしましょう。その時、ペアは集まって行動するように……』


 何分かをかけて、このあとに行われる予定の説明と注意事項を話す。

 その後、校長先生の話。いつも長い校長先生の話が短かったのは少し意外だった。校長までノリノリなのかよ。


『では、早速ですがバスに乗り込む準備をしてください、忘れ物は……』


 先生たちのどこかからコピペされてきたような単調な説明が終わった。

 地面に置いていたかばんを持ち上げて底の方に付いた土をパッパッと払うと、背中にかける。


「じゃあ、さっそく行きましょうか。遅れて他の方に迷惑をかけるわけにはいきませんので。」


「で、ですね」

「は、はい!」

「……あぁ」


 花宮は、率先して声を掛ける。

 俺では上手く話せないだろうということを見兼ねてのことだろう。


 やっぱりこいつは学校で天使とチヤホヤされるだけあって、話術もそれなりにあるらしい。認めるのは悔しいけど。


 でも、それなりに……ってだけだ。


 そんなことを考えながら、俺たちは何台かバスの並んだ学校の駐車場へと向かった。

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