第4話 交流会の始まり
「はい、ではそろそろホームルーム始めますよ。号令係さん、どうぞ」
「起立っ、姿勢っ、礼っ!」
「「「お願いしまーす」」」
担任が合図を促し、号令係は号令をして、クラスメイトたちはそれに反応して掛け声をあげる。
いつもうるさいなとは感じていたけど、今日はさらに合図から掛け声までなにもかもが一層騒がしく感じてしまう。
それもこれも、これから始まる憂鬱な行事が影響しているのだろう。
そう、今日は交流会当日。
交流会というのは、新入生歓迎会のようなものだ。新しく入学してきた新入生と二年生で毎年どこかへ行き、仲を深めようという目的のもと、レクリエーションをするというもの。
話すのが大好きな人、どこかへ出かけるのが大好きな人。そんな多くの人はみな、わくわくと心を躍らせている。
一方俺は、一層暗くなっていた。
話すのは苦手、出かけるのは嫌い。
それなのに、交流会ということは後輩と話すことを強要される訳だ。はぁ……
「じゃあ、さっそくですが。交流会のことについて説明します!」
いつもは真面目っぽいキャラを突き通している先生も、今日はやはり少しキャラが崩れているように感じる。
「まず、去年あなたたちはやっているから知っていると思うけれど、2年生2人、1年生2人のペアで行動してもらいます。ちなみに、向かうところなど詳しいことはこれから配るプリントに記載してあるので、それを読むようにしましょう」
授業ではない、その事実が大きくこの場で貢献してか、いつも眠ってるようなやつまでみんな先生の話を真面目に聞く。
「では、じゃあさっそくペアが気になっていると思うので。プリントを配っていきますっ!」
「「「うおぉぉおおお!!!」」」
生徒が一丸となって、去年と比べて異常なほどの盛り上がりをみせている。
去年は入学したばかりで緊張していたからというのはあるが、だからといって去年以上にここまで騒ぐのはやはり異常だ。
原因はやはり、後輩の天使と謳われる人による影響が大きい気がする。
そんなことを考えていると、プリントがまわってきた。
プリントには、表には今日の行事内容、裏には班分けされてクラスメイトの名前と後輩たちの名前が書かれている。
「……うーん……」
プリントを裏返し、自分の名前の書かれている班のメンバーの名前を見て、どうとも言えない気分になる。
良かったこともあった。なんと、瀬川さんが同じ班になっていたのだ。数少ない話せる人がいるというのは、なんとも心強いもの。
そして悪かったことは、1年生の方の2人の名前がどちらも女子であるという点。せめて男子なら、もしかしたら対処のしようがあったかもしれない。
……多分、性別関係なく無理だろうけど。
はぁ、と小さくため息をつきながら落胆していると、ザワザワとこの教室に落ち着きがなくなっているのを感じた。
『あいつらがあの天使様と一緒なのかよ』『まぁ、イケメンの手に渡らなかっただけでもいいとするか』……と、ひそひそとそんなことを言う声が聞こえる。
そして、そんなことを言った人たちはみんな、俺と瀬川さんの方を密かに睨んでいて、その声は俺と瀬川さんに向けて発せられたものであることを察する。
こんな状況だ、鈍感な俺でもなんとなくなら予想くらいはつく。
多分、これはあれだ。この花宮若那さんっていう人か小日向小春さんって名前のどちらかは、多分。
──この学校で天使と謳われるやつのことなのだろう。
この結果は、このクラス中……いや、学年中の男子や多くの女子を敵に回してしまったみたいだ。
それに瀬川さんも天使と同性であるとはいえ、気まずいことには変わりないだろう。
「…………はぁ」
もしかしたら他人から見れば、俺は運が良い分類に入るのかもしれない。けれど、俺から見れば……運は最悪だ。
頭を抱えて現実逃避すると、心の底から運の神様を恨んだ。
……とはいえ、現実逃避をしていても何も変わらない。さらに迷惑に迷惑を重ねて注目を集めるわけにもいかない。
プリントに書かれた予定の通り、運動場の自分の班の配置の所へ向かった。
「えーっと、ここでいいんでしたっけ?」
いつの間にかちょこんと付いてきていた瀬川さんは、プリントの予定の書かれたところを指さしながら、そう尋ねてくる。
「んー、そうでしょうね。ここでとりあえず一年生の後輩達を待ちましょう」
「はい、それにしても本当に桜庭さんが同じ班で心強いです。偶然に感謝ですよ」
花がきれいに咲くように、パァッと笑顔になる。ちょっぴり傾いた眼鏡は、緊張している俺をほっこりとさせて溶かしてくれる。
「ですね、俺も瀬川さんが一緒ですごい良かったと思ってます。でも、まさかペアの一人が噂の天使とは……」
「ですよね……あっ、噂をすれば天使さんがこっちに来ましたね」
「……あ、あの人、が」
瀬川さんの声に反応して瀬川さんが指した方向に視線を向ける。遠くには多くの人が集まっていた、それでも、誰が天使なのか確実に断定することが出来る。
ぼんやりとしか見えないが、明らかに一際強い存在感を放っている。
触ってしまったら壊れそうな硝子細工のように繊細で、それでいて神秘的で。
何も知らない、一度も見たことのないはずの彼女を、俺は遠くから見つめていた。
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