第32話 春留と花宮。
夏休み前のテストがやっとのことで終わり、すべての答案用紙が返ってきた。
高2になって初めての大きな範囲のテストということもあり、俺にしては意外とテスト勉強を頑張った。
その影響か、意外と高得点を取れて驚いたものだ。
「おーい、春留。テストどうだった?」
そしていま現在は昼休憩。俺の机の前にいきなり来たかと思った途端、そう直球に聞いてくる。
「んー、まぁまぁ、かな。点数がかなり悪い、と言うようなものは無かったけど、良いと呼べるものも無いんだよなぁ」
「おぉ、すげぇな」
「どこがだよ……。そういう悠翔はどうだったんだ、今回?」
相変わらず、俺のテストの点数に秀でているところがないのに褒められるのは変な感じだ。最近はもう慣れたけどさ。
「俺か? 俺は全部平均以下だな。けど、珍しいことに赤点無かったぞ。へへんっ!」
と、悠翔は腰に手を当てて誇らしげにそう言ってくる。いや、どこに誇らしげに威張れるところがあるんだよ。
でも、一年生の頃の悠翔は赤点ばっかりで夏休みにも補習になってたからな。それと比べれば成長しているのかもしれない。
「……まっ、悠翔の前に比べれば頑張ったんじゃないか?」
「だろ? ってことでさ。水族館でも行かないか?」
「どうしたらそうなるんだよ。ってか、男二人で水族館なんて、別に行きたくないよ」
むーっと嫌そうな顔を作りながら、ぶんぶんと横に手を振る。
「いや、後で……なんでもない。まぁ、良いだろ、僕が頑張ったご褒美ってことでさ?」
何かを言いかけたかと思うと、一旦口を閉ざしてまた話し始める。後で……と言いかけていたが、後で一旦何があるのだろうか。
「……分かったよ」
でもまぁ、知り合いの頼みくらいは聞いてやるか、と了承してやることにした。
昼休みの同じ時間。1年生のある教室では一つの大きな集団があった。
そして、その中心にみんなの視線を集めているのは、天使と名高い学校中で人気を集める花宮若那。
「あの、すいません。用事があるので今日は抜けてもいいですかね?」
花宮を中心にして集まる集団に向け、花宮はそう伝える。
「「「尊い……」」」
「……?」
花宮が声を掛けると、相変わらずの言葉が返ってくる。質問に対してそう答えられると、コミュニケーション能力の化け物である花宮でも戸惑ってしまうのか、頭を傾げる。
「あっ、もちろんです! いいです……けど、その用事にご一緒するのは……?」
「今日は、一人でいさせてください。でも、その代わり明日は空いているので、ここにいるみなさんと一緒に食べても構いませんか?」
さきほどは戸惑ってしまったとはいえ、さすがの返答。
ただ、大きな用事があると抽象的に言っても、ここにいる集団からは離してくれないだろう。
とはいえ、花宮が抜けたい理由は悠羽と話しながら食べたい、ということ。正直に言えば悠羽がみんなからハブられ、嫌われてしまう可能性がある。
それに、最後に今度は自分からここの集団に対して集団にとってメリットのある提案を持ちかけることで、花宮の印象が悪くなることを避けるどころか、上げてすらいる。
こんな芸当ができるのは、コミュニケーション能力に長けている花宮だからこそだ。
「分かりました、じゃあ明日は一緒に食べましょう!」
笑顔で返された反応に、花宮はホッとする。しつこい人であれば、まだ話は続くところだった。
「ありがとうございます、では」
「「「はいっ」」」
そうして、ここにいる集団が全員笑顔のまま、花宮は自分の願いを叶えた。これが、天使と呼ばれる所以なのかもしれない。
「……ふぅ」
一息ついて花宮が向かった場所は、あまりひと目のつかない屋上。長い階段を上がって屋上へと辿り着く。
「ごめん、ちょっと遅れた!」
扉を開けて最初に目に入ってきたのは、屋上の柵にもたれかかる悠羽。今日は、昼休憩は一緒にと待ち合わせしていたのだ。
「全然大丈夫だよ、若ちゃんはみんなから人気なんだから。それに、それほど遅れたという訳でもないしね?」
「ありがとう、悠羽ちゃん。なんかもう、悠羽ちゃんの方が天使に見えてくるよ」
「そう? ボク、神々しい?」
「「ふふっ」」
互いにタメ口を使え、時に冗談を言い合える関係が、花宮にとって癒しとなっていて、この時間がたまらなく好きだった。
そんな言葉を交えながら、花宮は悠羽の隣の席につく。
「そういえば、テストどうだった?」
お弁当を取り出していると、悠羽は花宮にそう聞いてくる。
「私は理科の実験の説明でちょっとミスしてしまったけど、それ以外は全部満点だったよ」
「さすがだね〜」
と、悠羽は言葉を返す。その言葉に一切の皮肉もこめられていないのは、悠羽の顔を見れば丸わかりだ。
「ボクもね、なんとか赤点は回避したよ。これでぎりぎり夏休みの補習避けられたよ」
「おぉ、じゃあお祝いでもする?」
また、花宮がそう返すのは、決して蔑みからじゃない。悠羽は悠翔と同じく頭が良くなかった。それは中学校のころに満足な学習ができていなかった影響。
それを悠羽自身知っているからこそ、そんな返答をしても蔑みとして取られない。
「おっ、じゃあ水族館でも行かない?」
「いいね、水族館、楽しみ!」
悠羽に対してそんな言葉を返す。
花宮は、これが義兄妹の作戦だったことを今はまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます