第二章 天使と夏休み

第31話 義兄妹の惚け話

「…………」


 無事解決したその翌日。


 悠羽と悠翔は互いに仲も近付き、それぞれ幸せそうな雰囲気を醸し出している。


 ……仲が、近付きすぎている。


「悠羽、今日の放課後とかショッピングモールでパフェとか食べに行くか?」


「うんっ! 食べに行くっ! でも、晩ごはんは兄さんのためにボクが作りたいから、半分こしよっ!」


 今でも悠羽は前と同じように男装をしている。けれどその男装をしていることの意味は、以前とは変わっている。


「おっ、そうだな。悠羽の晩ごはん、楽しみだ」


「「ははっ(ふふっ)!!」」


 俺は机にもたれかかるようにして寝そべりながら、二人のあまりにもうざい惚け話を聞かされていた。


 しかも、二人がいるのは俺の机の目の前。なんだ、彼女いたことない年数=年齢な俺への見せつけってか?


 仲が良くなるのはいいことだが、ここまで許した覚えはない。


 ってか、悠羽なんて顔を赤く染め上げているじゃないか。


 ……えっ、まじで? 君たちは義、が付いているとはいえ兄弟だよな?


「……なぁ、ここでそういう話するのはやめてくれないか?」


「ごめんごめん……あっ、そういえばどうなんだ? 花宮さんとは」


「あっ、そうですそうです。変態な先輩……春留先輩は若ちゃんのことを好きなんですよね?」


 変態な先輩が春留先輩と言い換えたところを見ると、少しくらいは認めてもらえた、のかな。……って、今、なんて?


「は?」


 二人の言葉に俺は目を疑う。なんでそんなことになっているんだ?


「いや、んな訳ねぇよ! 確かに協力してくれたことには感謝してるけど、それだけ! 花宮のことは嫌いだよ……っ」


「「ふーん」」


 俺の言葉に対して、ニヤニヤとしながらそう返す。だから、陽キャは許せん。何もかもを恋愛に繋げてもらったら困る。


「一つだけ言っとく。好きも嫌いも、それは紙一重だ」


「そんなはずはない、真逆だよ、真逆」


 俺は、二人と目を合わせないように横を向きながらそう答えた。


「そういえば、悠羽、もうそろそろで1時間目始まるぞ。早く一年生の教室に戻らなくてもいいのか?」


「あっ、本当だ! じゃ、兄さん、また昼休憩で!」


「おぅ!」


 ニコッと花が咲くようにきれいな笑顔を顔に浮かべながら、またね、と手を振って教室へと出る。


「可愛い……」


 悠羽が教室から出るのを見送っていて、ふと俺の席の前からそんな言葉が聞こえた気がした。


 気のせいだよな、と俺は無理矢理決めつけて現実逃避をすることにし、俺は机にうつ伏せになるようにして目を瞑った。













「兄さん」


「おっ、悠羽.早いな」


 昼休憩、悠翔が屋上で風に当たりながら目をつぶっていると、扉の開く音とともに悠羽が悠翔の方へと向かっていた。


「はいっ、これどうぞ」


 悠羽はそう言うと、手でぶら下げていた二つの弁当うち一つを悠翔へ渡す。


「ありがと」


 お礼をして悠翔はその弁当を受け取る。


 そして、悠羽は悠翔の隣で腰を下ろす。その後、悠翔が悠羽が座ったことを確認すると、二人は同時に弁当を開く。


 悠翔は「美味しそう」と小さく呟いたかと思うと、箸を持って弁当を食べる。


「美味いな、これ! さすが悠羽!」


「ほ、本当に……っ? やった!」


「うん、本当に美味い! 悠羽をお嫁さんにして出迎えたいくらいだ」


「お、およ……!?」


 『お嫁さん』という言葉に反応して、悠羽は顔をボッと赤くすると、口をパクパクと動かす。


 対して悠翔は美味しそうにお弁当を食べている。おそらく、悠羽を喜ばせようとするあまり自分の発言は記憶から抜けているよう。


「……そういえば、春留のことなんだけど」


「あっ、春留先輩のこと、ボクも気になっていたの。あれ、絶対にもう若ちゃんのこと好きだよね?」


「よな! 僕もそう思う!」


 悠羽の方を指差しながらそう賛成する。


「そして、前に若ちゃんの部屋に行ったときに話を聞いたりして、若ちゃんも春留先輩のことを気になっていると思うの」


「「じゃあ……『両想い?』」」


 二人の言葉が重なる。


「……でも、自身は互いを嫌いだと思っている。これじゃあ、近付きそうもない」


「そうなんだよねぇ……」


 うんうん、と何度も頷く。


「でも、どうすれば……どうすれば、二人の距離を縮められると思う?」


「うーん……あっ、そうだ! 花宮さんが前に言ってたんだ。偶然に見せかけて、必然に二人を出会わせればいい」


「なるほど……。ボクは兄さんと、あの二人に助けられたから、今度はボクが……っ」


「あぁ、僕も二人に悠羽を助けてもらった恩がある。今度は僕たちで……」


 二人はそう決意を固めたような顔をしている。


「でも、まずはあと1週間後のテストだな」


「だね、それも大事だから頑張らないと」


 うん、と大きく頷く。


 もう真上まで昇りきっている太陽に照らされた屋上にいる二人の髪は、風に靡かれ静かに揺れていた。

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