第43話 合流、一緒の部屋

「……」


「……」

 

 俺は花宮と二人で温泉旅館内を周り終わり、自分の部屋へと戻っていた。この空間は5分近くずっと沈黙に包まれている状態で、呼吸困難になってしまいそうだ。


 ちなみに周ったところといえば、カラオケルームやマンガ棚などの娯楽ルームや、和室の宴会場、温泉や浴室の下見など。


 ……はぁ、本当に気まずい……。


 花宮の方をちらりと横目で見ると、俺とは真逆の空間の方を見つめていた。やっぱり、俺とは話したくはないようだ。分かっているちゃいるが、いざ行動に出されると心にくるものがある。


 そんな気まずい状況。その空間にふと、扉の叩く音。


「……水瀬義兄妹、か?」


 少しでもこの気まずい感じを打ち切ろうと、花宮に向けてそう話題を掛ける。


「……でしょうか。私、見に行って……」


「いや、別にいい。待ってれば。俺、ちょっと見に行く」


「……っ!? そ、そう……ですか」


 そう告げて和座椅子から立ち上がると、花宮が急にもともと大きな目をさらに大きく見開いて驚いたような顔を見せる。


 ……別に、変なことはしてないよな。


 花宮の行動がよく理解できず、頭がこんがらがりながら、扉の方へと出向く。


「誰で……」


「春留、おはよう」


「おはようございます、春留先輩」


「……やっぱりか」


 扉を開けると、そこには大きなバッグの持ち手をもつ悠翔と、その大きなかバッグのもう片方の持ち手を持つ悠羽。簡単に言うとかばんを通して手をつないでいる状態。いや、カップルかよ。


 なんて愚痴を吐いていると、何秒たっても悠翔と悠羽が部屋に入ろうとしていないことに気付く。


 ……あれ? なんで部屋の前で立ち尽くしてんだ? 別に俺がいる位置だって部屋に入るうえで支障はないと思うんだが。部屋、間違ってたとか?


「なぁ、なんで入らないんだ?」


「……あー、ちょっと待ってて。」


 と、わざとらしく前置きをすると、


「もう一つの部屋の方に僕と悠羽の荷物置いてくるよ」


 と、答える。その言葉を発した理由をいくら考えてみても悠翔に言っていることが理解できず、怪訝そうな表情を作りながら聞いてみる。


「は? いや、なんで……?」


「……そりゃあ、この部屋は春留と花宮さんのだからな。僕たちはもう一つの部屋の方で寝るよ」


 すると、俺の耳付近に悠翔の口を近づけたかと思うと、花宮に聞かれないようにか、小さく囁いてきた。


 ……さらに、よくわからなくなった。いや、悠翔が何を言っているのか自体は分かるのだが、その悠翔の発する言葉の意味がよく理解できない。


「それって、どういう……」


 俺も悠翔と同じように口を悠翔の耳に近づけると、威圧を込めながら確認するように聞く。


「そのままの意味だよ。僕と悠羽は一緒に寝させてほしいんだ。お願い、ダメかな?」


 手を奈良の大仏と突っ込みたくなるようなお願いポーズを胸の前で作りながら、頭をかしげてそうお願いしてくる。


「そりゃあ、ダ……」


 さすがにそれはダメだろうと否定しようとして、ふと急に頭の中にある煩悩交じりな考えが浮かんできた。


 断る意味なんてあるのだろうか……? 悠翔は悠羽と一緒に過ごしたいと思っている。そして俺は、あわよくば花宮と同じ部屋になってくれないかと願っている。あれ、これ一石二鳥と言うやつなのでは。


「分かった、いい」


 そういいながらもう一つの部屋の方の鍵を渡す。


「やった、ありがとう! あっ、そうだ。さっそくで悪いんだけど、今か海に行こうと思うからよろしく。花宮さんにも言っておいてくれるかな?」


「了解」


 まぁ、一泊二日だし海に行ける時間帯と言ったら今くらいしかないよなと納得すると、俺は了解の意を示す。そして、扉を閉めて花宮のいる方へと引き返した。


「……あれ? 悠羽ちゃんや悠翔先輩は? さっき扉の方から声が聞こえてきたので、てっきりそうなのかと」


 一人で戻ってきたことに疑問を持ったのか、不思議そうに聞いてくる花宮。


 話題が話題と言うこともあり、少し花宮に言うのを躊躇ってしまう。花宮にこういう話題を言うとだいたいこの後が想像できてしまうからだ。おそらく、無理ですなんて即否定で終わりだ。


 ……けど、この状態はその話題を口に出さないと終わらない。暴言を吐かれることを覚悟で口を開く。


「……あっ、さっき来たのは悠翔と悠羽で合ってる。けど、もう一つの部屋の方に置いて行ったんだ。……だから、その……ここ、俺と花宮の部屋だってさ」


「「…………」」


「…………え?」


 長い沈黙の末に花宮から放たれた声はそんな呆気にとられたような声。


「……一緒に、寝ろと?」


「……まぁ、そういうことだな」


 やっぱり怒っているよな、怒らないわけないよな。目を花宮の方に向けられなくなって、思わず目を逸らしてしまう。


「……っ!?」


 …………あれ?


 いつまで経っても暴言が返ってこないことに疑問を覚える。怒っていないわけないよな、とおそるおそる花宮の方を見てみると、口をぱくぱくとさせながら真っ赤に染まっている花宮の顔。


 ……そんな反応しないでくれよ。


 勘違いするって、言ってるだろうが……っ!



 

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