第12話 図書室で3度目

 放課後、なにかいい本は無いものかと思って図書室へと訪れていた。


 もう16時を過ぎているということもありだんだんと日が落ちているのか、空は赤色に染まりつつある。


 暑くもなく寒くもなく、時間がゆっくりと過ぎていくように穏やかなこの時が俺は好きだ。


「……あ、あれは確か……」


 相変わらず静かな図書室、そこにはいつもとは違って小さく踏ん張るような声を出す人が。


 顔をその声のする方に向けてみると、本日3度目の花宮の彼氏さんだ。

 これはまさかの運命?だなんて寂しい事を考えながら彼氏さんの状況を確認する。


 踏み台に乗り、「んー……っ」と小さく踏ん張るような声を出しながら手を本棚の上の方へ伸ばしているため、おそらくは欲しい本を取るのに苦戦しているのだろう。


「……取ってやるか」


 今日初めて知ったとはいえ、見知っている人が困っているのを見過ごすのはさすがに後味が悪いからな。

 まぁ、あの悪魔なら別だけど。


「ほい……っと」


 そして彼氏さんの方へ歩み寄ると、指の先にある、おそらく彼氏さんが取ろうとしている本を取る。


「あっ……」


「はい、ど、どうぞ」


「あっ、ありがとうございま……って、あっ! 変態の先輩じゃないですか!」


 彼氏さんは、ペコリと頭を下げながらお礼を言おうとするが、本を取った人が俺だと分かると、急にそう声を上げる。


 って、なんだよ……

 変態の先輩って、彼氏さんの中で俺はどんな存在になってんだよ。


 ……というかそうだ、もしこれが誰かの耳にでも入ったりしたら……っ!


 焦り気味に周りを確認。幸いなことに、放課後早めに来たというのもあって、生徒どころか図書室の先生も来ていないようでホッと一息つく。


「……って、これ。これって何の……」


「あっ、何でもないですから、取ってくれてありがとうございます」


 この本の内容についてなんとなく聞いてみようとする。が、急に早口になったと思うと、バッと俺の手から本を奪い取られ話を遮られる。


「では」


 簡単にそう言うと、くるっと身体を図書室の外へと傾けてスタスタと歩き出した。


「あれ、今の……」


 一瞬ではあるが見えた単語、それは普段は聞き慣れない『男装メイク』というもの。


「……まっ、いいか」


 男子が男装メイクの方法なんて見て何になるんだろう、とは思うが、もしかしたら彼氏さんには男装したい妹とかいるなどの、まぁなにかしらの事情があるのかもしれない。


「──あっ、あの! ちょっと待ってもらえない、かな?」


 そういえば、と考えて、再び彼氏さんに声をかける。


「なんです、か……?」


 俺の声に反応してか、足を止めると首を曲げてこちらへと向ける。


 彼氏さんに無視される可能性も0ではないため、良かった、と胸をなでおろしながら、


「どうして…………」


 と、言いかけて、でも。


「いや、やっぱりなんでもない。さ、さようなら」


 なんとなく彼氏さんに違和感を覚えていて、それを聞いてみようとした。けれど、それを声に出すことなく口をつぐんだ。


「……さよなら」


 ボソッと小さくそう言うと、花宮の彼氏さんは今度こそ部屋の外へと通じる扉へと足を向ける。


 それにしても、彼氏さんに対して覚えた違和感。


 それは、多分俺に向ける目だろう。


 俺に対して怒っているはずなのに、変なことにはなっているけど、一応は彼氏さんに対しては何にもしていないはずなのに。


 その吸い込まれるように深い目の奥には、悲しみや恐怖心が宿っているような、そんな気がした。


 

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