第17話 複雑な関係
「……はぁ」
俺の周りの複雑な関係やら衝撃の事実が判明してから翌日。月曜日の一時限目前の教室で、俺は最近癖になりつつあるため息をもらす。
一番精神的にくるものといえば、やはり花宮と同じマンションだったことだろう。
まさか、あいつと同じ空気を吸って過ごしていたなんて……。そう思うと、吐き気がしてくる。
今の今まで気が付かなかった理由、それは花宮がここに引っ越してきたのがほんの一ヶ月ちょっとというらしい。
それに、学校に通う時間も関係している。俺は遅めに登校するのに対して花宮は早めに登校する。
マンションで出会って関わることがなかったのは不幸中の幸いだが、不幸が、幸いの比じゃないくらいに大きい。
それに、それだけじゃない。
他にも俺の周りで存在している複雑な関係についてもそうだ。
「……なあ、春留。最近ため息ついてばかりじゃないか?」
昨日の憂鬱に浸っていると、噂をすれば、というやつで、いつものように悠翔がよっ、と声を掛けてきた。
「……なぁ悠翔。最近、俺には神様なんてついてないと思うようになってきたよ」
「お、おぅ……いきなりなんだ?」
悠翔は呆れるようにそう呟く。って、おい、そんな哀れみの目でこっちを見るな。
「あっ、そういえば、なんで日曜日にあの天使様と一緒にいたんだ?」
「うっ、それ聞く……?」
今、俺ため息吐いてるんだよ? 落ち込んでるんだよ?
昨日負ってしまった傷口に塩をぬるようなことをしないでもらってもいいかな?
空気くらいよんでくれませんかね、醜いイケメンよ。悠翔やい、人の考えを読み取るのは得意分野でしょうが。
「で、どうして一緒に?」
「それは、その……」
「もしかして、天使様のことを好きに……」
「そ、それは断じてないっ! っていうか、あんな猫を被ったような奴を好きになるなんてありえない!」
「……へぇ」
何か、意味深にそう声をもらす。多分だがこいつは誤解していやがる。
だから陽キャは嫌なんだよな。なんでもかんでも、すぐに恋愛話とくっつけようとしやがって。
「……なんだよ」
「なんでもなーい」
そして何かを祝福するかのようにニヤニヤと笑みを浮かべながらそう答えた。こりゃあ確定だ。絶対に誤解している。
「あっ、そうだ。昨日の事なんだけどさ」
そういえば、と悠翔に声を掛ける。
「ん、どうした?」
「ちょっと変な質問を聞くようで悪いんだが、悠翔とあの花宮の彼氏さん、本当に二人は……兄弟、なのか?」
そう、それは悠翔と花宮の彼氏さん……つまり、弟を見ていて違和感を感じていた。
それは単なる勘違いかもしれない、いや、というか勘違いの線の方が高い。
あいつ曰く、二人は兄弟だと言った。でも、どこか距離があるというか。目に見える距離と言うわけではなく、心の距離が。
俺には兄弟なんていないし、兄弟がどういうものかよく分からない。けれど、互いが互いに対して遠慮しているかのような態度を取っていたことに、少し違和感を感じずにはいられなかった。
「…………っ!」
もしかして、ビンゴ、なのだろうか。何かしらの事情があるのだろうか。それはもう俺の考えが合っているぞと言わんばかりに目を見開きながらこちらを見てくる。
「……っ、あぁ、そうだぞ。な、なんでそんなことを聞くんだ?」
そこはさすがの陽キャといったところか、すぐに気を取り直すとそう答える。
「……昨日、ちょっとだけ距離があっ……いや、なんでもない。少し気になることがあっただけだから。」
「そう、か。…………あの、春留には秘密なんて作りたくないし、誤解してもらいたくないから言う、けどさ」
と、そう一息おくと、
「少なくとも、喧嘩とか、そんなんじゃないから。普通に仲いいし。それだけは、言っとく。」
少しぎこちない笑顔を顔に浮かべながら、悠翔はそう言った。
「そう、か。なら、良かった。」
良かった、などと自分の口からは言っているけど、そんなの嘘だ。
良いわけあるかよ、あの顔を見て、そんなこと考えられるかよ。
初めて見せるそんな顔に、俺はどうすれば良かったのかなんてまったく分からなかった。
「……うん、じゃあね」
「……あぁ」
悠翔のあんな顔……初めて、見たな。
一見、他のやつから見てみるといつものように笑ってる陽キャ、だ。
でも、その顔をいつも……土日を除いて、だが、大抵見続けている俺なら分かる。いや、見せ続けられる、の方が正しいが。
他人の気持ちとか考えなんて興味ないし、まず空気を読むことすらできないような鈍感な俺でも、間違え探しくらいならできる。
いつもの悠翔と比べれば一目瞭然だ。
今のこいつは、いつもの笑い顔なんかじゃなくて、悠翔が見せた笑いはどこかひきつっていてぎこちなくて。まるで、過去という名の呪いにとらわれているような。
それも、大抵のことは笑顔で乗り切っている陽キャな悠翔が、だぞ。陽キャなんてなにも悩みのないような奴だと思っていたけど、悩みくらいはあるのか。
……知っとけば、ちょっとくらい助けてやったものを。
ともだ……知り合いの頼みなら、手くらい貸すのに。
貸して……やるのに。
そんなもやもやを誰にぶつけることもできず、悠翔に声を掛けることもせず、イラつきながら今日を過ごすことになるのだった。
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