第2話

「シェリルさん!どうしてここに!?」

「説明は後でするから、今は逃げるよ!さぁ立って!」


アイザの手を引っ張り、立たせるが体に力が入らないためその場に座り込んでしまう。


「駄目。腰が抜けちゃって、それに足も震えちゃってて。」

「まずい・・・。」


上から落ちてきた肉塊達も変化していき、周囲を囲まれてしまう。

先程化け物に投げた銀のナイフを抜き、座り込んだアイザを担ぎ、出入り口の扉へ向かう。

しかし、扉には数体の肉塊の化け物がへばりついていた。


「二階に行く階段で上に行きましょう!」


階段へと向かうが、二階にも数体の肉塊の化け物が蠢いている。


「二階も駄目だ!他に部屋は無いのかアイザ!」

「・・・無いよ。もう、おしまいなんだよ。私達はあの化け物に食い散らかされるんだ・・・ねぇシェリル、私を置いて行って。化け物が私に気を取られているうちにあなただけでも。」

「冗談言うな!そんな事は絶対にしない!」


シェリルがアイザを隠せる場所がないか辺りを見渡すと、懺悔室があるのを見つけた。


「あそこだ!」


懺悔室の扉を開け、そこへアイザを隠れさせる。


「アイザ、私以外には絶対にこの扉を開けないでね!」

「シェリルさんは?シェリルさんはどうするの!?」

「私の心配はしないで。いい?鍵をかけて静かにここで私を待ってて!」

「シェリルさん待って!」


シェリルの腕を掴もうとするが、恐怖で足が震え、動くことが出来なかった。シェリルはアイザに微笑み、懺悔室の扉を閉める。


「シェリルー!!!」


閉めた扉の中から扉を叩く音が聞こえ、しばらくすると音は止んだ。シェリルは懺悔室の外の鍵をかけ、扉の向こうのアイザに囁いた。


「これでいいんだ・・・アイザ。」


すると、シェリルの背後から肉塊の化け物が襲い掛かる。シェリルは持っていたナイフを逆手に変え、背後から自分に向かって飛んできた化け物の口の中に刺す。ナイフを抜き、ベチャっと落ちた化け物を踏み潰した。


「これで、やっと仕事ができる。」


後ろを振り向くと、すでに化け物達がシェリルを取り囲んでいた。


「ァァ!ァァァ!」


化け物は言葉を発するようになり、赤子のような高い声で叫ぶ。


「50、いや60かな。成長しきる前に潰さないとな。」


腰に隠していたもう一つのナイフを手に取り、化け物達へと近づく。


その頃、懺悔室に隠れているアイザは泣いていた。化け物に対する恐怖ではなく、シェリルを引き留められなかった自分が情けなかったからだ。懺悔室の中は外の音が全く聞こえず、僅かな明かりもなく真っ暗闇であった。暗闇の中アイザは両手で耳を塞ぎ、泣きながら端っこに固まって、シェリルの帰りを待っていた。

20分程経った時、扉を叩く音が聞こえてくる。一瞬、シェリルかと思ったアイザだったが、あの状況から生き残れるとは考えられず、恐怖が更に上乗せされていく。

扉が開き、自分に近づいてくる人影を追い払おうとアイザは抵抗した。


「いや!来ないで!来ないで!!!」

「落ち着いてアイザ!私だよ!」


暴れるアイザの顔を両手で掴み、自分の顔をよく見せる。


「あ、ああ!シェリル!!!」


アイザは涙を流しながらシェリルに抱き着く。

自分の腕をアイザの背中に回し、泣いているアイザを慰めるシェリル。


「怖かったね、アイザ。」


アイザの肩を掴んで自分から離し、自分の服の袖でアイザの涙や鼻水を拭う。


「これでよし。」

「ありがとう。・・・シェリルさん!血だらけじゃないですか!」

「え?あー、確かに。」


シェリルの全身は血だらけで、黒かったコートが血で赤く染まっていた。


「大丈夫ですか!怪我はないんですか!?」

「大丈夫だよ。さぁ、早くこの教会から出よう。」


シェリルはアイザに手を差し伸べ、立ち上がるのを手伝う。シェリルと共に、懺悔室から出ていくと目に見えてきた光景は信じられない物であった。。


「え。」


懺悔室から出ると、あの肉の塊の化け物達が全て殺されていた。困惑するアイザをよそに、死体の山を平然と先に歩くシェリルがアイザに振り返る。


「どうしたのアイザ?」

「こ、この化け物達は誰が!?」

「え?私。」

「いや、でも!60はいましたよ!」

「確かに多かったねー。全部まだ孵化したばっかりだったから、何とかなったよ。」

「・・・ねぇシェリルさん。あなたは何者なの?」

「それも後で説明するよ。今はここから出よう。母親が来る前に君を安全な場所まで連れていくよ。」

「・・・分かりました・・・母親?」

「この化け物達は子供。こいつらを作った母親がいるはず。」


その時、出口へと向かうシェリルの足首に天井から伸びた糸が絡みついた。


「・・・おっと。」


シェリルの体は勢いよく上に引っ張られていき、天井へと逆さ吊りになってしまう。

すると、辺りに吊られている街の人達の抜け殻の間から、毛が無い真っ白の顔の女が天井を歩いて近づいてくる。


「こんなとこに隠れてたのか。母親のくせに我が子が死んでいくのを黙って見てたんだな。」

「貴様、よくも子供達を・・・!」

「そう怒るなよ。そうだ、あんたに聞きたいことがある。数週間前にあんたの所にこの写真の男が行ったはずだ。」


シェリルはポケットに入れていた写真を女に見せる。写真を見た女は気味の悪い顔をしながら笑い出した。


「ああ。私の寝込みを襲いに来たあの男か。あの男なら死んだよ!肉が不味い人間だったが、血は美味かったよ!」

「アッシュを・・・喰ったのか。」

「あははは!だがあの男だけでは飢えは満たせなかったよ。そんな所にここの村の連中が全員教会に集まると聞いて来てみたら・・・ふっ、どれも期待外れだ!だから仕方なく子種を仕込んで私の子を産んでもらったよ。それなのに・・・貴様が全て殺した!私の可愛い子供達を!」


怒りを前面に出し、怒声に混じって女の臭い唾液がシェリルの頬に当たる。唾液から臭う異臭にシェリルは顔を歪ませた。


「・・・さて。私の子供を殺した貴様をどうしようか。見たところお前も味は期待できそうにない。かといって子種を仕込もうにもたったの一匹しか出来ないんじゃ意味がない。」

「そいつは残念だな。私には魅力が無いってか?」

「決めたぞ!これから貴様をじわじわとなぶり殺してやる!貴様の目玉を抉り出し、痛みで泣き喚く貴様に自分の目玉を食べさせてやろう!」

「おぇ・・・想像しちまっただろ。」


近づいてきた女の口の中から長く伸びた舌がシェリルの頬についた自分の唾液を舐め取る。


「マジで吐きそうだ・・・なぁ、妄想に勤しんでるところ悪いが、現実は少し違うぞ?」

「何だと?」

「現実はこうだ。まず、あんたの無駄に白い顔に傷をつけて、首をぶった斬って、頭を壁に飾られる。この私にな。」

「あははは!!どうやってだ!!ん~?言ってみろ?」


小馬鹿にするように笑いながら、シェリルの顔に自分の顔を近付ける。

シェリルは近づいてきた女の顔を掴み、思いっきり顔面ど真ん中へ頭突きをする。

女の鼻は潰れ、痛みで目をつぶってしまう。

その隙に、背中に隠していた銀の剣を抜き、女の顔を斬りつけた。


「あああああああ!!!!」


顔を斬られた女は悶え苦しみ、その隙にシェリルは自分の足に絡みついた糸を斬り、下に落ちていく。下では慌てて受け止めようとしていたアイザの姿が見えたが、シェリルは空中で体を反転させ、平然とした表情で着地する。


「・・・今、天井から。」

「あれくらいの高さなら平気だよ。」

「あれくらいって・・・30m以上はあるよ?」


シェリルは笑顔で誤魔化しながら出口の扉を開けようとすると、後ろから殺気を感じ、アイザの手を引っ張り、飛んできた屍骸を避ける。後ろを向くと、顔から血を流した女が恐ろしい形相でこちらを睨んでいた。


「お前ぇぇぇぇぇ!!!!」

「はぁ・・・あんた、自分の子供を投げちゃ駄目だろ?」

「殺してやる――!!!」


女の体がみるみる内に変異していき、下半身は蜘蛛の様に、手首から長く鋭い骨が生え、顔は両目の真上と真下に真っ黒の目玉が浮き出てくる。


「アイザ。君だけでも外へ逃げるんだ。」

「シェリルは!?」

「私はあの化け物に用があるからさ。」

「何言ってるの!あんな化け物に勝てるわけない!殺されちゃうよ!?」


シェリルを引き留めようと服を引っ張るアイザ。その手を優しく自分から離し、また笑顔を見せた。


「大丈夫。それにあの化け物をここで逃がしたら、今度は違う所に行くかもしれない。そうならないために、ここであいつを狩る。それが私の仕事さ。」

「・・・シェリル。」

「さぁ!行って!」


扉を開け、アイザの肩を掴み、強引に外へと押し出す。アイザを逃がしたシェリルは化け物の方に視線を向け、剣に付いた血を払い、女に向かっていった。

女の手首から生えた鋭く尖った骨がシェリルを襲うが、それを剣でいなしながら女の体を斬りつけていく。


「どうした蜘蛛女!体中傷だらけだぞ?」

「ぐぅぅ!」


女は床に転がっていた化け物の屍骸を手に取り、屍骸を喰い始める。数体喰い終わると、体にできた傷が塞がっていく。


「はは、自分の子供を喰うのか。」

「黙れ!これは私の子だ!私の子供なら母親である私のために喰われる必要がある!」

「やっぱり、結局は自分の食料にするためか。こいつらは成長も早いし、まずい人間を喰うよりずっといいんだろ?」

「黙れ!今すぐにでも殺してやる!」


女は跳び上がり、シェリルを踏み潰そうとするが、シェリルは難なくそれを避ける。また女は屍骸を掴み、シェリルが避けた先に投げ飛ばす。

シェリルは飛んできた屍骸を剣で真っ二つに斬ると、それを見た女は更に狂ったように屍骸を投げ飛ばす。


「自分の子供を投げ飛ばすなよ!?」


次々と飛んでくる屍骸を斬りまくり、最後に飛んできた屍骸を女に蹴り飛ばす。屍骸はそのまま女の顔にぶつかり、くっついてしまう。


「ぐぅぅぅ!貴様―!?」


顔にくっついた屍骸を取り、シェリルに投げ飛ばそうとするが、姿が見えない。


「ど、どこだ!?」


ふと下を見ると、姿勢を低くしたまま懐に入り込んでいたシェリルが、剣を振り上げようとしていた。


「ひっ!?」


鬼気迫る迫力に思わず情けない声を出した女の下腹部から肩にかけて、シェリルは剣を斬り上げる。


「えぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


斬られた所から大量の血が噴き出て、女は叫び声を上げながら考えなしに両腕を振り下ろす。シェリルは振り下ろされた攻撃を避け、床に刺さって動かなくなった女の両腕を斬り落とす。女の両腕は綺麗に斬れてしまい、断面から血が噴き出てくる。また痛みで叫び声を上げようとする女の下顎から剣を突き刺す。

一度剣を抜き、女の首を横斬ると、ゆっくりと女の顔が下に落ちていき、残された体も崩れ落ちていく。

足元に転がってきた女の頭を壁に掛けてある十字架のマークに向けて蹴り飛ばす。女の頭は見事に十字架のど真ん中に行き、シェリルが投げ飛ばしたナイフによって、十字架に張り付けられる。


「な?言った通りになっただろ?」


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