第18話

病院から出て一週間後、シェリルは依頼でヨルハ村に来ていた。依頼の内容は、最近多発する狂犬の駆除であった。村の住人達は見たところ普通に過ごしているようだが、みんな何かに怯えているようにも見える。

シェリルは家の前に置いてある椅子に座っている老人に声を掛け、依頼に書かれてあった狂犬について聞いてみた。


「おっさん、少し聞きたい事があるんだが。最近この村に狂った犬が出たって聞いたんだけど本当か?」

「っ!?」


犬について聞いた瞬間、老人は見るからに怯え、周りを見ると他の村人達も老人同様、怯えた様子でシェリルを見ていた。


「お前さん、それをどこで聞きつけた?」

「知人からね。それで、良かったら聞きたいんだが?」

「・・・ここでは駄目だ。家の中に入りなさい。」


老人に連れられ、シェリルは老人の家に入っていく。家の中には沢山の動物の頭部が壁に飾られており、その間には若い頃の老人が、壁に飾ってある動物を狩った時の写真が飾られている。

老人は暖炉に火を点け、椅子に座るとテーブルに置かれていた酒を瓶のまま飲んでいく。


「随分狩猟が好きだったようだな。」

「んはぁ・・・若い頃の話さ。今じゃ銃もろくに構えられりゃしない。それで、どうしてあの狂犬どもについて聞きたいんだ?」

「私は害獣駆除の依頼で来たんだ。それでその狂犬について聞こうとしたんだが。」

「害獣駆除か・・・ふっ、駆除してくれるならありがたいな。出来る物ならな。あいつらは普通の野犬とは違う。毎日夜になるとあいつらは群れをなしてこの村に来る。」

「どのくらいの数だ?」

「・・・数えてる余裕すら俺達には無い。みんな家に閉じこもって、怯えて丸まるのさ。」


老人は酔いが回ってきたのか、フラフラとした足取りで壁に飾ってある動物の剥製の元へ歩き、撫で始めた。


「こいつは祟りだよ・・・俺達人間が狩猟だなんて遊びにかまけていたせいで、きっと神様が俺達に災いをもたらしたんだ!」

「・・・神様、ね。」


これ以上この老人からは何も聞けそうにないと思ったシェリルは、壁に飾っている動物達を熱心に撫で続ける老人を残し、家を出ていく。

外に出ると、村の誰かが突然叫び声を上げた。


「狂犬だ―――!!!」


その声を聞くや否や、村人達は急いで自分達の家に向かっていった。途中転んで逃げ遅れた女の子がいたが、村人達は目もくれずに家に鍵を閉めて閉じこもってしまった。

女の子は立ち上がろうとしたが、足を怪我しているようで立ち上がれずにいる。立ち上がれずにいる女の子に手を貸そうと近づいていくと、犬の遠吠えが聞こえてきた。

聞こえてきた方へ視線を向けると、そこには老人の話の通り、黒い犬達が群れをなしてこちらに向かって走ってきていた。


「噂をすれば何とやらだ・・・。」


犬の一匹が倒れて動けずにいる女の子に襲い掛かってくる。


「いやぁぁぁぁ!!!」


顔を伏せて身を守るように丸まる女の子だったが、そこへ割って入るようにシェリルが新しく新調した剣で犬の首を斬り飛ばした。


「おい、早く逃げた方がいいぞ。」

「だ、駄目です・・・私、足が・・・!」

「なら這いずってでも逃げろ。食い殺されたくはないだろ?」


そう言い残し、シェリルは狂犬達の元へと走り出していく。お互いに距離が縮まっていき、飛び込んできた犬を剣で斬り伏せ、そのままもう一匹の犬の腹に剣を突き刺した。

狂犬達は尚もシェリルに襲い掛かり、シェリルは次々と斬り殺していく。その様子を見ていた女の子は、あれだけ恐れていた狂犬よりも、今は狂犬の返り血を浴びながら斬り続けるシェリルの姿に恐怖していた。

そんな女の子の元へ、シェリルが斬りもらした一匹の狂犬が走っていき、口を大きく開かせて女の子へ襲い掛かってくる。


「ひぃっ!?」


狂犬の鋭い歯が女の子の柔らかい肌に食い込み、女の子は死を悟った。そこにシェリルが持っていた剣を投げ飛ばし、女の子の上に乗っていた狂犬の体に突き刺さり、貫通した刃の先が女の子の腹部に触れた。上に乗っている狂犬をどかし、シェリルの方を見ると、既に狂犬達の群れを殺し尽くしていた。

シェリルは女の子の元へ行き、横で倒れている狂犬に突き刺さっている剣を抜き取り、血を払う。


「大丈夫か?」

「え、ええ・・・あなたは・・・。」


その時、また犬の遠吠えは村中に響き渡った。シェリルが振り返ると、斬り殺した狂犬達の上を踏み歩く大型の狂犬が口から唾液を漏らして睨んでいた。


「いつもの奴らよりも大きい・・・!」


見た事も無い大型の狂犬を見て固まった女の子をシェリルは背負い、さっき話を聞いた老人の家に放り込んだ。

そして、再び狂犬の前に立つと、狂犬はシェリルを見下しながら嘲笑ってくる。


「くくく、ただただ食い荒らされる人間共とは違うようだな。子犬共を殺したぐらいでいい気になっているようだが、所詮は人間!成人した我らには抗えまい!」


狂犬は巨体からは想像できない速さでシェリルに襲い掛かり、シェリルは絶えず動き続け、狂犬の猛攻を避け続けていく。

その途中、飛び込んだ狂犬が一軒の家に激突し、そのまま中で隠れていた住人が押し潰された。


「はははは!お前もいずれこんな風に潰してやる!いつまでも避け続けられると思うな!」

「ああ、もう避けるのは飽きたよ・・・。」


するとシェリルは剣を鞘に戻し、持ち手を捻ると、鞘から刃が飛び出し、分厚い大剣へと変形させる。

大剣を両手で構え、飛び込んできた狂犬に向けて勢いよく大剣を振り下ろした。狂犬の体は真っ二つに裂け、振り下ろした大剣は地面にめり込んだ。

体が真っ二つになっても狂犬はまだ死んでおらず、しかし立ち上がろうにも動かせる足が一本しかなく、口から血を吹き出しながらジタバタしている。


「ば、馬鹿な!?この俺が人間なんかに・・・!!!」


シェリルは大剣を地面から引き抜き、倒れている狂犬の前で大剣を振り上げた。


「待て!待ってくれ!!」

「悪いな、こいつを振り上げたからには、もう待ては出来ねぇんだ。」


そう言って、シェリルは力一杯に大剣を狂犬の顔面に向けて振り下ろした。



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