第17話

屋上に来ていたシェリルは、自身に巻かれた包帯をとり、火傷の具合を確認する。火傷の痕は全く無く、以前と同じ傷一つ無い肌のままだった。ただ、右手部分を除いて。


(右手だけ火傷の痕が酷い。こっちはもう手遅れだったのか?だが・・・。)


一見、死んでいるように見える右手だが、握る事も開く事もでき、指の感覚や物に触れても確かに感じる。痛みはなく、見た目以外は火傷を負う前と変わりようがない。

ふと、あの時倒した火を操る変異体との戦いを思い出した。あの時、変異体の心臓を握り潰したのは、右手だ。偶然かとも思えたが、レオの話の中で、サリヴァンの血液に触れた者が異能体になるという事を聞き、シェリルはただの偶然とは思えずにいた。


(私も、異能体とやらになってしまったのか?だが、今の所おかしな感覚は無い。)


シェリルはミルクウッドで戦った異能体のように、右手を前に出して炎を出そうとしたが、あの炎は発生しなかった。


「はっ!馬鹿らしい!この右手は皮膚だけがイカレちまっただけさ。そうだ、そうに決まってる!」


自分に言い聞かせるように声を荒げるシェリル。すると、屋上の扉が開き、そこからアイザが出てくる。

アイザはシェリルの姿を見るや否や、シェリルへ駆け出し、勢いを落とすことなく抱きしめた。


「おっと!ど、どうしたんだよアイザ。そう急いで駆け付けてさ。」

「だって・・・シェリル、その右手・・・!」


包帯をとったままにしていた火傷を負った右手をアイザに見られ、シェリルはアイザに右手を見せつけた。

アイザの目の前に皮膚が溶けて無くなった右手が映り、その悲惨さから涙を流してしまう。


「酷い・・・。」

「ああ、全くだ。これでまだ使い物になるってんだから、おかしなもんさ。」

「使い物って・・・自分の体の一部なんだよ!?」


自分の体をあたかも武器として見ているシェリルに、アイザが声を荒げた。シェリルはアイザから離れ、鉄柵にもたれかかり、空を見上げると、いつの間にか陽は落ち、月明かりが二人を照らし出している。


「・・・アイザ、私はどうして変異体を狩っていると思う?」

「それは、レオさんに命を救ってもらって、その恩返しに・・・。」

「それもある・・・けど、本当はそんな大した物じゃない。変異体は人を嘲笑い、見下し、無残に食い散らかす・・・それは人にだって言える。人も誰かを見下し、食い物になった動物に何の罪悪感も無く食べる。議会や厄介屋は変異体を化け物扱いしているが、私から言わせてみれば、人も十分化け物みたいな物さ。けど、変異体と違うのは人間は弱いってところだ。どうせ殺すなら、強い奴がいい。」


シェリルは視線を空から火傷の痕が残っている右手に向け、微笑んだ。


「アイザ、私はね。誰かを守ろうとか、誰かを救おうとして変異体を狩っているんじゃない。ただひたすら、自分の欲求を満たそうとしているだけなんだ。そんな私がいちいち体を大事にしたところで、いつかはダメになって終わりさ。」


そう言って笑うシェリルの瞳には光が無く、まるで空っぽの人形に思えた。どれだけ自分がシェリルを想おうと、今の弱い自分ではシェリルの近くにいられても、隣には立てないとアイザは思った。


「ま、命ある物いつかは朽ち果てる。早いか、遅いかだ。」


シェリルはアイザの横を通り過ぎ、屋上から出る扉を開けて出ていく。一人残されたアイザは、シェリルが言った言葉に少々納得がいってない様子だった。守る為でも救う為でも無いなら、何故自分を助けたのか・・・。


「シェリルはどうして私を・・・。」


考えてみたが答えは見つからず、頭を悩ませながらシェリルの後を追うように屋上から出ていく。






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