第31話

コウが押して走らせた列車は無事に目的地のモントールに着いた。しかし、すでにモントールには変異体の群れが蔓延っており、乗客達に再び絶望が押し寄せる。


「みなさんはそこで待っていてください!そのバリアは変異体からあなた方を守ってくれますから!」


コウはパニックになっている乗客に笑顔を見せ、変異体達がいる方に振り向くと、敵意を持った鋭い眼光を向けた。


「コウ!私も手伝うから、ここから出して!」


レディも外に出て戦おうとしたが、バリアがあるせいで外に出る事が出来なかった。


「あ―・・・そのバリア、貼り直すの結構めんどいんですよね~・・・という事でレディさんは中から威嚇しといてください!」

「威嚇って!?え、ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」


コウは自身の両足に力を溜め、クラウチングスタートで勢いよく変異体達の元へと走り出した。

足が一歩進むごとに両足に電撃が纏い、道に整列する電灯の明かりが激しく点灯すると、パァンと音を鳴らして割れる。

やがてコウの速さは人の目では追い付けない速さと化し、変異体達が集まっている場所にまで辿り着く。

そこには歪な姿をした変異体が集い、特に三本の豚の頭部を生やし、殺した人間の腸を腹に巻き付かせた変異体は、その体から漂わせる異臭といい、涎を垂らして不気味に笑うその姿は、外道の極みを体現していた。

そんな外道の元へコウは一直線に突っ込み、溜め込んだ足で飛び蹴りを喰らわせる。

コウの蹴りを喰らった豚の変異体の体は真っ二つに裂け、後から生じた電撃が変異体の体に入り込み、音を立てて破裂した。


「よし、上手く決まった!」

(一体の変異体に大袈裟よ。じゃあ、今回はまだ使った事の無い力を試してみたら?幸い、練習相手は沢山いるし。)

「よし!それじゃあ!」


コウは、両足に溜め込んでいた力を両腕に移し、両腕からエネルギーを放出し、金色のエネルギーブレードを形成する。

襲い掛かってきた変異体達を形成したブレードで斬り裂くと、斬り裂いた所から流れ出た血がブレードに吸い込まれ、コウのエネルギーと化す。

次々とブレードで変異体達を斬り裂いていくと、空から奇怪な鳴き声を上げる巨大な鳥の変異体の群れが、地上にいるコウに向けて卵を産み落としてくる。

落ちてきた卵が地面にぶつかると、殻が割れ、中から緑色の酸液が周囲に散らばる。飛び跳ねた少量の酸液がコウの頬に付着し、付着した部分の皮膚が煙を出しながら溶け、肉が見えてしまう。


「痛っ!?ミオ!この体って飛べる?」

(羽は付けてないから飛べない。)

「そんな・・・あ、なら!」


コウは両足に力を溜め、勢いよく上空へ跳び上がった。勢いを付けすぎたコウの体は鳥の変異体を超え、雲の上にまで到達する。


「羽が無いなら!空を蹴って飛ぶ!」


落下していきながら、少し離れた場所に飛んでいる変異体に向かって、コウは空中を思いっきり蹴り飛ばし、変異体の方へと突っ込んでいく。

変異体と通り過ぎ様に腕のブレードで斬り裂き、斬り裂いた変異体の体を蹴っ飛ばして別の鳥の変異体へと移動していき、コウは飛ぶ鳥を落とす勢いで変異体を斬り裂いていった。

鳥の変異体を殲滅すると、コウは地上の変異体を両目でロックオンし、ブレードに吸収していたエネルギーを源に、無数の粒子ビームを放つ。

空から放たれた無数のビームは、地上の変異体を的確に捉え、多くの変異体をビームで消滅させた。

地上に下り、腕に形成したブレードを再び両腕に吸収し、両腕両足の機械の駆動を止めた。


「ふぅ・・・ミオ!これで全部倒し終えたのか?」

(変異体はね。残るは異能体だけよ。)

「どこから感じる?」

(感じるのは・・・二体・・・それと、一人の人間の気配も感じる。)

「人間?襲われてるって事か!?速く助けに行かないと!」


再びコウは両足に力を溜め、ミオの指示の元、異能体がいる場所へと走り出した。異能体の元へと辿り着くと、そこにはローブを纏った双子の異能体が巨大な鎌を手に、一人の男に襲い掛かっていた。

驚く事に、襲われていた男は二体の異能体に対し、素早い身のこなしで異能体に対応し、一対一の状況ならば倒しているという状況がいくつもあった。


「凄い・・・って!感心してる場合じゃない!僕も手伝わないと!」


飛び出していったコウは、男の背後から襲い掛かってきていた異能体を蹴り飛ばした。


「助けにきました!」

「誰だ?」

「僕はコウ!片方の異能体の相手は僕がします!」

「よく分からんが、今は猫の手でも借りたい状況だ!助かるぜ!」


コウと男は背中合わせになり、お互いの目の前にいる異能体に戦闘の構えをとる。二体の異能体は同じタイミングで二人に襲い掛かり、振り下ろしてきた二本の鎌をコウは腕と足で受け止め、その隙に男は自身の目の前にいる異能体の首に短剣を突き刺し、突き刺した異能体を踏み台にして飛び上がって、後ろの異能体の頭を上から短剣を突き刺した。

二体の異能体は叫び声を上げると、体から無数の棘を突き出してくる。危険を察知していたコウは、男を抱えてその場を離れた事で串刺しになる事を避けることが出来た。


「異能体ってのは、どうも変な姿をしてやがる。大方、あいつも特殊な何かがあるんだろう。出来るか、コウ?」

「大丈夫です、慣れてますから。けど、油断せず行きましょう!」

「おし!まずは相手の出方を見る。相手の情報が無いまま攻め込むのはリスクがありすぎる。いいな?」

「はい。そういえば、あなたは?」

「俺か?俺はケイ。さっきみたいに危険を察知したら俺の名を叫んでくれよ?」

「ははっ!分かりました!」


コウは両腕に力を溜め、ケイは二つの短剣を構えた。


「行くぞ、コウ!」

「はい!行きましょう、ケイさん!」



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