第32話

お互いの棘が刺さったまま抱き合っている二体の異能体の体は一つとなり、顔に四つの目を生やしたノッポの姿へと変異する。

変異した異能体は口も無いのに奇怪な笑い声を上げ、コウとケイを嘲笑う。


「予測不能な能力を発揮させる前に先手を取る!」


ケイは背負っていたボウガンを異能体に連射し、コウは異能体の横に回り、横から右手に溜めていた力をビームへと変換させて撃った。

異能体は高く跳躍し、二人の攻撃を避けると、自身の体から生み出した無数の棘をコウに向けて空から発射した。

コウは避けようとしたが、ビームを撃ち終えていない間は身動きがとれず、全身で異能体の棘を浴びてしまう。

棘には猛毒が仕込まれており、一つでも体に刺されば、高熱と吐き気が襲い、そのまま死んでしまう程の物であった。

だが、それは常人の場合である。


「悪いんだけど、そういうのは僕には効かないよ!」


コウは異能体の方へ跳躍し、渾身の力を込めて異能体に両腕を振り下ろす。異能体の体は地面に一直線に吹き飛び、すかさず吹き飛んでいる異能体の胴体に飛び蹴りで追い打ちする。

蹴りを喰らったまま地面に激突した異能体だったが、効いていないのか、また奇怪な笑い声を上げた。


「いつまで笑って―――」


すると、コウの体に刺さっていた棘が体内で蠢き、コウの体が勝手に動き出した。


「どうなってるんだ!?」


勝手に動く自分の体に戸惑っていると、自分が向かっている先にはケイが立っており、右腕は殴りかかる動作を始めていた。


「まずい!ケイさん、避けて!」


コウの体が勢いよく前に飛び出し、ケイに殴りかかった。間一髪の所でケイはコウの攻撃を避けるが、その死角から異能体が近づいてきていた。


「っ!?ケイさん!!!」


ケイを助けに行こうと動きたいコウだったが、体はまだ自由に動かせずにいた。ケイの後ろから全身に棘を生やした異能体が、ケイを抱きしめようとする形で腕を横に広げて近づく。


「近づいちまったな、俺に。」


くるりと振り向いたケイは、異能体の体にボウガンの矢を連射する。矢を受けた異能体はのけ反りはしたものの、やはり効いていない様子であった。嘲笑うような笑い声を上げながら、もう一度ケイを抱きしめようと近づいていくと、異能体の体に異変が生じた。

クネクネ動いていた柔らかい体の動きが突然カチコチに硬くなり、遂には直立のまま地面に突っ伏してしまう。


「悪いが俺はな、シェリルとは違って、馬鹿みたいに真正面からぶっ倒すのは性に合わない。だから、ありとあらゆる手段を使って自分を有利に立たせ、敵を倒す。これが俺の戦い方だ。」


ケイはボウガンに付けていた毒が仕込んでいる矢が内蔵されているマガジンを外し、別のマガジンを取り付ける。

そして、地面に突っ伏したままの異能体の全身に矢を発射し、異能体の元から離れていく。

異能体の体に突き刺さった矢には小さなランプが点灯しており、そのランプが赤く光った瞬間、矢は爆発を起こし、異能体の体を粉々に吹き飛ばした。

その様子を見ていたコウは、目を丸くして驚いていた。


「普通の人間が・・・異能体を。」


棘を生み出した異能体が消滅した事で、コウの体内で蠢いていた棘も消失し、コウの体に自由が戻った。

体の自由を取り戻したコウはケイの方に歩み寄り、そんなコウに対し、ケイはボウガンのマガジンを変えながら待ち構えていた。


「凄いじゃないですか!ケイさんは僕とは違って普通の人間なのに異能体を倒してしまうなんて!」

「普通の人間、ね。」


(コウ!そいつに近寄っては駄目!)


「え?」


ミオの言葉に足を止めたコウだったが、そのすぐ後にコウの腹部に矢が突き刺さった。

腹に突き刺さった矢を見た後、ケイの方へと視線を移すと、ケイはコウに向けてボウガンを構えていた。


「どうして撃ったんですか?」

「お前には聞いとかないといけない事が多そうだしな。そのために、少しの間大人しくしてもらうぞ。」

「無駄ですよ、僕には毒は効きません。」

「分かってるよ。」


ケイはポケットから小さな装置を取り出し、スイッチを押した。すると、コウの腹部に刺さっていた矢から電流が走り、たちまちコウの意識は失われてしまう。

倒れたコウに近づくケイ。そこに、コウの影から出てきたミオがコウの前に立ち、ケイを睨みつけた。


「コウをどうするつもり?」

「別に殺しはしない。さっきも言ったが、あんたらに聞いておきたい事がある。こうでもしなきゃ、またどこかに飛んでいきそうだしな。」

「・・・あなた、一体誰!」

「・・・あれ?もしかして分かっちゃった?」


ケイは真剣な表情をスッと変え、最早別人と思えるような口ぶりでミオに近づいてくる。


「いやー、絶対ばれないと思ったんだけどな。やっぱり化け物には分かるか?」

「くだらない事を言ってないで、正体を見せたらどう!」

「はいはい。全く、俺にはおっかない女に縁でもあるようだな。」


ケイの体から黒い靄が出ると、靄は徐々に人の形を作り、現れたのはネムレスであった。

ネムレスがケイの体から抜けると、ケイの体は糸が切れたようにその場に倒れてしまう。

倒れたケイの体をネムレスは足で小突いた。


「こいつの体にダイブ出来て良かったよ。危うくシェリルにぶっ殺される所だった。」

「いつから・・・。」

「あの異能体をぶっ殺した時からだ。さぁ、大人しくついてきて貰おうか。それとも、あんたもそこで倒れているロボット君と一緒に電流を受けるかい?」


(この男、今までの異能体とは格が違う・・・今の私が下手に動けば一瞬で殺される。)


「・・・分かった。大人しくあなたについて行きましょう。」

「よし!それじゃあ余計な奴が来る前に行くか!」


そう言って、ネムレスは空間にゲートを開き、コウとミオを空間の先へ招いた。ミオはコウの体を起こし、ゲートの中へと入っていく。

それに続くようにネムレスもゲートへと入ろうとした時、背筋から異様な気配を感じ取り、後ろに振り向きながら拳銃を構えた。

振り向いたネムレスの視線の先には、錫杖を手に持った袈裟を着た老人がじっとネムレスを見つめていた。その老人がニヤリと笑みを見せる。

その顔を見た瞬間、ネムレスの失われた過去の一部の記憶が戻った。

その記憶の内容は、今現実で目にしている男と変わらぬ姿の老人が、自身を見下ろしながら、同じ笑みを浮かべていた。


「ぐっ・・・また、過去を取り戻したぞ!俺の失われた過去が!」


嬉々として取り戻した過去を喜んでいると、そこへ老人が口を開いた。


「順調に記憶を取り戻したようだね。」

「何だと?お前、俺の過去について何か知っているのか!」

「己の記憶は己で見て確かめるもの。君も・・・あの少女も。」


それだけ言い残すと、老人は持っていた錫杖で地面を叩き、その場から消えてしまった。


「あの少女もだと?」


老人が言い残した言葉に疑問を抱えながら、ネムレスはコウとミオが入っていったゲートへと入っていく。



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