第33話

「う・・・うぅぅ。」


コウが目を覚ますと、そこはコンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋であった。体に電撃の痺れが残っていながらも立ち上がり、自身の影にいるミオに状況を聞いた。


「ミオ・・・ここはどこだ?」


が、ミオからの返答は返ってこない。


「ミオ?どうした?」


すると、薄暗い暗闇の中から鎖が伸びてきて、コウの足に絡まると、天井や壁にコウの体を叩きつけてくる。

体の痺れで上手く力を使えないコウは抵抗する事なく、そのまま壁に打ちつけられてしまう。


「ぐっ・・・だ、誰だ・・・!?」


コウの足に絡んでいた鎖が暗闇の中に戻っていくと、黒いスーツを着た五人の人物が姿を現した。

その中の眼鏡を掛けた男の腕に先程までコウを痛めつけた鎖が戻っていき、壁にもたれかかっているコウに近づいてくる。


「ほぉー、あれだけ打ちつけてほぼ無傷とは。頑丈な機械人間だ。」

「くそっ!」


コウは顔を近付けてきた眼鏡の男に拳を振るが、力が籠っていないコウの拳は軽々と受け止められてしまう。


「力が弱い、いや弱まっているのか?それにしてもこの機械の腕!どういう仕掛けだ?少しいじって―――」

「そのくらいにしといてやれ、ベリス。」


ベリスがコウの腕について調べようとしていると、闇の中からネムレスがタバコを咥えたまま現れた。


「その子は客人だ。バラすなら、次の機会にしておけ。」

「・・・分かったよ、ボス。」


少し残念そうな顔をしたまま、ベリスはコウから離れ、代わりにネムレスがコウの目の前にやってくる。


「よぉ、手荒い事をして悪かったな。」

「あんた・・・誰だ?」

「その質問には答えられない。俺が誰かなんて俺ですら知らない。まぁ、俺を呼ぶ奴はネムレスと呼ぶ。」

「ネムレス・・・ミオをどこにやった・・・!」

「あの子には別室でゆっくりしてもらってるよ。」

「彼女に会わせろ!!!」


コウ自身が持っているミオに対する強い想いによって、先程ベリスに放った力の籠っていないパンチとは違い、少しだけだが、それでも人間が喰らえば吹き飛ばされる程の力が籠った拳がネムレスの顔面に向けて放たれる。

すると、ベリスはおろか、先程までじっと立っているだけであった他の四人が一斉にそれぞれの異能の力を使い、コウの体が天井を突き破って上階にある大広間に吹き飛ばされた。

体に残された僅かな力を絞り出し、何とか立ち上がったコウだが、コウの後を追って五人も大広間に上がり、一斉にコウに襲い掛かる。


「「「「「っ!?」」」」」


が、突然五人の体に黒い靄が覆い、五人の動きが止まる。


「おいおい!さっきも言ったが、手荒な真似は止めてもらおうか?」


遅れて大広間に来たネムレスが五人に注意すると、五人は冷や汗を流しながら、異能の力を戻した。


「悪いな、こいつら血の気が多くてな。」


そう言って笑うネムレスだが、その目は黒く淀んでおり、コウの目には笑顔のはずなのに無表情にも見えた。


「自己紹介の続きといこう。まずは、お前を鎖で痛めつけたベリス。それからそこの大男はバンバ。その隣にいる見るからに性格が悪そうな女はニンファ。んで、バンバの次にデカいジェリオ。そして最後に、唯一の頭脳派ワーカー。覚えたか?」

「いや・・・。」

「ま、憶えなくてもいいけどさ。それじゃ本題に入ろうか!」


ネムレスは再びコウの目の前まで近づき、コウの目をじっと見つめる。ネムレスの異質な雰囲気を目の前に、コウの体は動けず、立っているだけでもやっとであった。


「お前、何者だ?お前だけじゃない、お前の影の中で隠れてたあの少女もだ。」

「言えば・・・僕とミオを解放してくれるのか?」

「おいおいおい・・・質問しているのは俺だ。二度目は無いぞ?もう一度聞く。お前らは何者だ?」

「せめて、ミオの安全は保障してくれ!彼女は―――」


コウが言い終わる前に、ネムレスはコウの顔面を掴みながら床に叩きつけた。間髪入れずに、ネムレスはコウの顔面に何度も蹴りを放つ。

残り少ない力が削られていき、コウの気力が途切れかけていた所でネムレスは足を止め、コウの髪を引っ張ってもう一度質問を始める。


「二度目は無い・・・そう言ったはずだが?」

「あ・・・あ・・・。」

「おい、聞こえてるか?」

「き、聞こえ・・・てる。」

「よし、それじゃあ質問の答えを教えてもらおうか。」

「僕は・・・人間だ・・・!!!」


コウは、密かに右手に溜めていた力を使って、自身の真下の床に微弱なビームを放ち、あの薄暗い部屋に落ちていく。落ちた先ですぐに右手から両足に力を移し、この建物の何処かにいるミオを探しに走り出した。

建物は非常に薄暗く、そして広いため、自分がどこから来ていたのかも判断しずらく、とにかくコウは、微弱に感じているミオの気配を頼りに走り続ける。

走り続けていると、大きな鉄の扉の前に辿り着いた。そして、その扉の奥からミオの気配を感じ取った。


「ここか!?」


力を腕に移して、強引に扉を開き、中へと入っていく。中は暗くて全体を把握出来ないが、この部屋はさっきの大広間と同じくらい広いようだ。

そして、その中央に天井から吊られた籠の中に、ミオが閉じ込められていた。


「ミオ!!!」


急いでミオに近づき、籠を壊そうとしたが、籠は頑丈に出来ており、壊すことが出来なかった。


「・・・コウ。」

「ミオ!よかった、気が付いたんだね!待ってて、今ここから出してあげるから!」

「・・・私は、ここから出れない。」

「確かにこの籠は頑丈だけど、諦めなければ!」

「そうじゃないの・・・ねぇ、コウ。」


ミオは籠の隙間からコウの胸に手を当て、自身の力をコウに分け与える。


「ここから逃げ延びるだけの力を分け与えた。あなたはここから逃げて。」

「駄目だよ!ミオもここから逃げようよ!」

「早く行きなさい!すぐにあいつらが追いかけてくるわよ!」


ミオは籠の前からコウの体を突き飛ばす。コウは歯を噛み締めながら、ミオから貰った力を両足に溜める。


「・・・分かった。けど、すぐに助けに来る。それまで、待っていて!」

「ええ。待っているわ。」


勢いよく飛び上がったコウは天井を突き破り、建物の外へと抜け出す。建物の周囲は森林地帯となっており、コウは暗闇に包まれた森の中を駆けた。


コウを見送ったミオ。そこへ、コウを追ってきていたネムレスが現れる。


「・・・これでいいの?」

「ああ、ご苦労様。」


コウをこの建物から脱出させたのはミオの意志では無く、全てネムレスが指示ていた事であった。

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