第34話

ネムレス達から逃げるコウは、森を抜け、広い草原へと抜けた。しかし、コウに休む暇を与えず、追いかけて来たベリスが伸ばしてきた鎖がコウの右腕に巻き付く。


「逃がしはしませんよ!さぁ、じっくりと調べさせてもらいましょうか!」


勢いよく鎖を引っ張るベリス。コウは自身の体を引っ張られないように踏ん張り、巻き付いている鎖を背負い投げるように引っ張り、逆にベリスを自分の方へと引き寄せた。

向かってくるベリスに振り向きざまに蹴りを浴びせるが、蹴りが当たる直前にベリスは腕に纏わせた鎖でガードしていたため、仕留め損なってしまう。


(あの直前で防がれた!?)


が、流石に抑えきれなかったようで、ベリスの体は吹き飛んでいく。右腕に巻き付かれていた鎖が解け、コウは二つの選択を決めかねていた。


(このまま押せばあの人一人ぐらいなら倒せる・・・けど、ここで戦っている内に他の追っ手が来るかもしれない・・・!ミオから貰った力も限りがある。ここから逃げるためにも、温存しておかないと!)


悩んでいる内に、体勢を整えたベリスがまた鎖を伸ばし、コウは伸びてきた鎖を蹴り飛ばして、ベリスを背にして体勢を低くして足に力を溜め、勢いよく走り出した。

目にもとまらぬ速さで走っていくと、突如として目の前に無数の鎖が地面から生え、広い範囲で展開する鎖の結界がコウを囲む。

力づくで突破しようと鎖に飛び蹴りを放つが、何重にも束になっているため、鎖の結界の外へと抜ける事が出来ない。


「言ったはずですよ?逃がしはしないと。」


コウが後ろを振り向くと、ベリスの腹部には巨大な穴が開かれており、そこから無限に鎖が生えてきていた。


「私の体の中は鎖で満ちている。この範囲を囲むために自分の腹を裂く事になりましたが、必要費用だと納得しましょう。」

「僕の体より、自分の体を調べた方がいいんじゃないですか?」

「私のはもう既に調べました。興味深い内容でしたが、それ以上にあなたの体の方が興味をそそられる!見た所、あなたの異能力はその腕と足の機械。だが、肝心な動力源がどこにあるのか、是非とも解剖してみたいですね!」

「異能力?僕には異能の力なんてありませんよ。この腕と足は大事な人が僕に贈ってくれた物だ。それをお前なんかに分解させられてたまるか!」


コウは両足両腕に平等に力を溜め、ベリスに向かって駆けた。近づいてくるコウに対し、ベリスは両腕から飛び出した鎖でコウの体に打ちつけた。勢いが付いている鎖の打撃に、膝をつく場面が幾つかあったが、その度にすぐ立ち上がり、再びベリスの元へと駆けていく。

何度打ち続けても立ち上がって向かってくるコウを前にして、ベリスはどんどん後ろへと下がっていった。

そして遂に、ベリスを鎖の結界の壁際まで追い詰め、勝機と捉えたコウは、勢いよく飛び上がり、ベリスへ飛び蹴りを繰り出そうとする。

しかし、結界を形成していた鎖が突如としてコウに伸びていき、空中でコウの体は鎖で大の字に縛り付けられてしまう。

動けずにいるコウを見上げているベリスは、コウの体を縛り付けている鎖の締め付けをより強め、コウの両腕両足をもぎ取ろうとする。


「仕方ない・・・その体もろとも欲しかったんですが、抵抗するならば腕と足だけ貰いましょうか!」

「ぐっぐぐぐぐっ!!!!こんな鎖如きに、ミオの力が負ける訳がないだろぉぉぉぉ!!!!」


コウの両腕両足から電子音が流れる。すると、両腕両足から青白い光が溢れ、縛り付けられていた鎖が光に飲まれて消失していく。

鎖から解き放たれたコウは、驚いて目をかっ開いているベリスの方へと落下していき、落下の勢いを利用してベリスの顔面をぶん殴った。

殴られたベリスの体は鎖の結界を突き破り、地面に転がっていく。朦朧とする意識の中、何とか立ち上がったベリスだったが、目の前の視界がボヤけて見えた。

顔に手を当てると、掛けていた眼鏡がいつの間にかどこかへ吹き飛んでいて、下顎の部位が無くなっていた。

ベリスが突き破ってきた穴から出て来たコウを見て、ベリスのコウに対しての評価が観察対象から、抹殺対象へと変更され、自身の体を異形の姿へと変異しようとする。

気配を変えたベリスにコウは身構えると、一発の銃声が鳴り響き、ベリスの頭部に弾丸が突き抜けていく。

弾丸を喰らったベリスは気を失い、その場に倒れた。


「銃弾!?どこから!?」


周囲を見渡すが、弾丸を発射した狙撃手の場所は特定出来ず、この場に立ち尽くしていればベリスのように自分も撃たれると危惧したコウは、足に力を溜め、思いっきり上空に跳び上がり、上空から狙撃手の場所を特定しようとする。

実はコウの両目も作られた物で、遠く離れた場所にいる相手を特定出来る索敵能力が備わっていた。

すると、遠く離れた場所に一人の気配を察知し、コウはその人物に向かって降りていく。

近づいていくと、また銃声が鳴り響き、今度はコウの方へと銃弾が飛んできた。コウは飛んできた銃弾を間一髪で避け、狙撃手の元へと着地した。

着地するや否や、コウは右腕を狙撃手に突き出すと、狙撃手も銃口をコウに向けて待ち構えていた。

狙撃手の正体を目の当たりにしたコウは驚く。その人物は、自分と同じくらいの年齢の少女であった。

コウは構えていた右腕を降ろすと、その少女も同じく銃口を下げてくれた。


「君は、敵じゃないんだよね?」

「ええ。あなたの出方次第だけど・・・あなた、何者?」

「僕はコウ。君は?」

「私はアイザ。あなたもだけど、あの鎖の男は一体・・・。」

「説明は後にしよう。今はどこかに避難したい。どこか隠れられる安全な場所はあるかい?」

「それなら、ここから少し離れた場所に使われてない小屋がある。そこに行きましょう。」


突如として出会ったコウとアイザ。二人はアイザが言う小屋へと向かう。



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