5章 シシャの遊技

第35話

アイザが言っていた小屋に辿り着いた二人。中へ入ろうとドアノブを回すが、鍵が掛かっていて扉が開かない。


「鍵が掛かっているね。アイザさん、鍵を借りてもいいですか?」

「鍵?鍵なんて無いよ。」

「え?それじゃあどうやって―――」


すると、アイザは小屋の窓を背負っていたライフルのストックで叩き割り、中へ入っていく。

コウはアイザの行動に驚きながらも、後を追うように窓から小屋の中に入る。小屋の中は特に物は置いておらず、空き家の状態であった。アイザは部屋の壁に手を当てていき、ある所で止まると、そこに腰から取り出したコの字型の機械を壁に当て、スイッチを押す。コの字型の機械は壁に完全にくっつき、アイザがドアを開くように引くと、その壁には別の場所の景色が見えた。


「行きましょう。」

「え?あ、はい。」


訳も分からぬまま、壁の向こうに移動すると、二人はさっきまでいた森林地帯とは全く別の湖が広がる孤島に足を踏み入れた。


「このタイムラインっていう機械で通路として利用できる場所に設置して、別の場所へと行けるんです。」


アイザは持っているタイムラインという機械をコウに見せつけながら自信満々に紹介する。コウはすっかりタイムラインに夢中になり、近くでじっと眺め出した。


「へぇー。それじゃあこれを使えばどんな所にでも移動できるんですか!?」

「回路を隅々まで理解出来ていたらね。私はまだこれを貰ったばかりだから、回路を見つけるのも一苦労しますね。」

「貰った?誰から?」

「すぐに分かりますよ。」


アイザはタイムラインを腰にしまい、目の前に広がる湖の前に近づいていく。


「ファルミリオ師匠。あなたに是非ともお会いして欲しい方がいます。」


少しの静寂の後、湖の中心に波紋が集まっていき、中心部の水が人の形を形成していき、背の高い美しい女性の姿をしたファルミリオが現れた。

ファルミリオは平然とした表情で湖の上を歩いて行き、アイザの前で止まると、そっとアイザの頬を撫でる。


「若き賢者よ、よくぞ戻った。そちらの少年が私に会わせたいという者か?」

「はい、名はコウと呼びます。師匠の言葉に従い、リハヴィルの地に赴いた所、影のシシャの眷属と思わしき者と接敵している所を見かけ、是非師匠に彼とお会いして欲しいと思いまして。」

「よろしい。コウ、こちらへ。」


ファルミリオはアイザの隣へ立つようにコウを呼び、コウは有事の際の為に、ファルミリオに気付かれないように全身に力を溜めてからアイザの隣に並んだ。

しかし、そんな事はファルミリオには見抜かれており、ファルミリオがコウの胸元を人差し指で触れると、コウの体から溜めていた力が消失し、力を失ったコウの体は崩れるように地面に倒れていく。


「コウさん!?ファルミリオ師匠!一体何のつもりですか!?」

「その者から私に対して、僅かながらの敵意を感じました。」

「え?コウさん、どうしてそんな・・・。」

「・・・やっぱり、同じだ。あなたは、ミオと同じ存在・・・シシャ!」

「ご明察です。やはりあなたはミオの選抜者でしたか。」


ミオの選別者と知ったファルミリオは、倒れているコウに自身の力を分け与えた。その瞬間、コウの両腕両足の機械からコウ自身も聴いた事も無い駆動音が鳴り、コウの全身に激痛が走る。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!!」

「耐えるのではありません。受け入れるのです。あなたの全身を刺激している物は、あなたに新しい力を宿します。」


コウは声を荒げ、体をうねりながら暴れ、自身の体を焼き尽くそうとする力に身を委ねる。次第に痛みは無くなっていき、銀色の両腕両足の機械に水色の線が入り、目の色が青色へと変異した。

更に、新しい力はコウの外見の成長も促し、少年だったコウの容姿が、少しだけ大人びた雰囲気に変わっている。飛び起きたコウは、自身の体に変化が生じた事を実感した。


「体が、軽くなった。それに何だか、背が伸びた?」

「ミオの選抜者は進化を体現する者。取り入れた力によって、あなたは成長する。」

「進化・・・ファルミリオさん、もっと詳しく教えてくれませんか?僕の体や力、そしてミオの事を。」

「いいでしょう。アイザ、悪いけどまた頼み事を聞いてくれないかしら。ミッドグルーのお茶を飲みたいわ。」

「分かりました。それじゃあコウさん、また後で。」


そう言うと、アイザはタイムラインを今度は地面に当て、そこから繋がった場所へと入り込んでいった。


「ミオの選抜者コウよ。お茶が来るまでの間、あなたの質問に答えましょう。さぁ、こちらへ。」


ファルミリオは湖の上を歩いて行き、コウもその後に続こうと、恐る恐る足を湖の上に置くと、コウの足は湖の中に沈むこと無く、水の上を歩けるようになっていた。



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