第36話
「コウ、君はミオに何をそそのかれたんですか?」
しばらく無言のまま歩いていたファルミリオからの唐突な問いに、コウは申し訳なさそうな表情で答えた。
「・・・言えません。」
「ですよね。私はミオと同類であり、敵でもあるんですからね。」
「ファルミリオさんも何か目的が?」
「目的も無く、この世界にわざわざ降り立っていませんよ。」
「アイザさんを使って・・・ですか?」
そのコウの一言でファルミリオの表情が一変。閉じられていた瞼が開き、黄金の瞳を見せた。
ファルミリオに睨まれたコウは、言い得もしない悪い予感を覚え、大きく後ろへと離れる。
「どうしました?そんなに怯えて。」
ニコリと笑顔を見せるファルミリオだが、目は笑っていない。そんなファルミリオに、コウは警戒していた。
するとファルミリオは唐突に一つの提案をコウに持ちかける。
「アイザが戻るまで5分でしょうか?その5分の間、あなたにあげた力の練習相手になりましょう。安心してください、死なないように加減はするつもりですから。」
「・・・その言葉を信用出来ると?」
「信用出来ないのですか?」
「あなたから感じます。僕を殺したいと。」
「殺したいですよ?ですが今行うのは練習、言わばお遊びです。お遊びで殺すほど私は幼くはありません。」
「そうですか・・・なら!」
コウは自身の足元の水を大きくすくい上げ、高波を起こし、高波で自分の姿を隠すと、低めの出力でファルミリオにビームを放出した。
波の中央を貫いて伸びていくビームはファルミリオに向かっていくが、ファルミリオが人差し指で迫ってきていたビームに触れると、ビームは光の粒子となって散り散りとなっていく。続いて高波を操り、一つの大きな球体と変化させてコウに放った。
コウは防御の構えを取って球体を防ごうとしたが、コウの体に触れた球体は破裂し、その時に生じた衝撃でコウの体が大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。コウは腕と足に溜めていた力を僅かに放出しながら体勢を立て直す。
距離を離して戦うのは不利だと感じたコウは、ファルミリオの元へと走り出し、その勢いを使って飛び蹴りを放った。
目にもとまらぬ速さで繰り出した蹴りだったが、ファルミリオに簡単に避けられてしまう。
避けられた事に驚いたコウだったが、着地してすぐに裏拳を放ち、そこから蹴りやパンチの連撃へと繋げた。
しかし、それらの攻撃もファルミリオは淡々と避けていく。まるでコウの行動が分かるかのように。
(なんだ?まるでこっちの行動が分かっているように簡単に避けていく・・・まさか、僕の行動を予知しているのか?)
次々とコウの攻撃は避けられていき、大振りの攻撃で隙を見せてしまった所を見逃さなかったファルミリオが放った衝撃波で、またもコウは吹き飛ばされてしまった。
水の上を転がっていき、すぐに立ち上がって向かっていこうとしたコウだったが、ふと水面に映った自分の顔を見て、ある考えが浮かんだ。
(もし本当に僕の行動が予知されているのなら、ただ闇雲に攻撃しても駄目だ!何か方法を考えないと・・・!)
勢いよく飛び出したコウは、もう一度ファルミリオに連撃を繰り出した。だがやはり、コウの攻撃は簡単に避けられてしまい、今度は合間合間に軽く小突かれてしまう。小突かれただけとはいえ、その一撃一撃は大きく体が逸れる程の威力があり、コウの意識が徐々に削られていく。
(違う!もっと相手を見るんだ!相手の動きや思考を!)
コウが下から拳を振り上げようとした瞬間、コウの視界に異変が起きた。勢いよく振り上げた拳を避けられ、背後からファルミリオに小突かれた・・・という映像が。
その映像を見たコウは、困惑しながらも体は無意識に動き出し、拳を勢いよく振り上げたすぐ後に、回し蹴りを放つ。予知していた出来事と違うコウの行動にファルミリオはコウから離れようとしたが、コウが放った素早い回し蹴りはファルミリオをその場から動かす猶予を与えなかった。
避ける間も無く回し蹴りを喰らったファルミリオは大きく体が逸れ、目の前のコウから上空へと視界が移った。
「当たった・・・!?」
やっと自分の攻撃が当たった事に喜ぶコウだったが、また視界に異変が起きた。勢いよく振りかぶってきたファルミリオの手に顔面を叩かれ、そのまま湖の底へと沈められる・・・という映像が見えた。
嫌な予感を感じたコウは、少し体を浮かばせ、両足と両腕から力を放出して後ろに勢いよく飛んでいく。
コウがファルミリオから離れたすぐ後に、映像で見た通りにさっきまでコウが立っていた場所に勢いよく腕を振るった。ファルミリオの手が水面につくと、衝撃波が目に見える程の強さで起き、ファルミリオを中心に広い範囲で湖に穴が開いた。
その力を目の当たりしたコウは目を丸くすると同時に、乾いた笑い声が漏れる。
「・・・なるほど。進化を体現する者、その言葉に相応しい。」
ファルミリオが指を鳴らすと、穴が開いていた湖に再び水が現れ、何事も無かったかのように話し始めた。
「未完成とはいえ、私があげた予知能力を使い、一撃当てた。素晴らしい。」
気付くと、開いていたファルミリオの瞳は閉じていて、コウの成長に対して拍手を贈っていた。
「予知能力?そうか、僕は予知していたのか・・・。」
「無意識での発動ですか。まぁ、上出来ですね。あのまま湖の底へと静めようと思いましたが、私の予知が外れて良かった。」
「は、はははは・・・。」
(やっぱり殺す気だったのか!?)
何とも言えない雰囲気の中、ファルミリオの使いから戻ってきたアイザが岸から二人に声を掛けてきた。
「師匠、コウさん!お茶にしましょー!」
「いいタイミングで来ましたね。さぁ、お茶にしましょうか。」
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