第37話
「・・・ふふ、ミッドグルーのお茶は相も変わらず穏やかにしてくれますね。」
「そうですね、師匠。」
どこからともなくテーブルと椅子を持ち出し、アイザとファルミリオは優雅にティータイムを楽しんでいた。
その少し離れた場所では、コウがファルミリオから貰い受けた力を最大限に引き出すために体を動かし続けている。ファルミリオと戦った時にも感じた身の軽さや、自身の生命の時間を使わずに、ある程度までなら両腕両足の力がリスク無しで使えるようになったが、最大出力を出そうとすると、体の内からブレーキを掛けられるような感覚に陥り、途端に体の動きが鈍くなった。
「はぁ!・・・駄目だ、何度やっても以前の様な全力の力を出せない・・・!」
「それもそのはず。私があげた力には、あなたの力を抑制する作用がありますからね。」
「は!?どうしてそんな事を!」
「あなたの力の源は生命の時間。文字通り、命を削りながら戦うもの。相手が一人ならいいですが、複数の敵との戦闘で続けていれば、途中で時間が無くなってそこで終わり。」
「けど!全力で戦わなきゃ勝てない相手と戦う時も―――」
「そこは大丈夫。」
そう言って、ファルミリオは人差し指で宙に文字を書くと、文字がコウの元へと向かっていき、そのままコウの胸の奥へと根付いた。
「二つ目の贈り物です。今あなたの体に根付いたそれは想力と言う力。それは根付いた宿主の想いによって力を引き上げる。」
「想いの力・・・。」
「怒り・悲しみ・幸福の三つに反応し、それぞれ違った特性の力を発揮させる。けど想力を発揮させるには、強く想う必要があり、中途半端な想いでは想力を使う事が出来ない。」
「・・・分かりました。」
淡白にそう言い残し、コウは二人の元から歩き去ろうとする。
「どこへ行くんですか?」
「ミオを助けに行くに決まっている!ミオは今もネムレス達に囚われたままなんだ!」
ファルミリオがネムレスの名を聞いた途端、お茶を飲む手が止まり、閉じていた瞼が開き、コウの方へと視線を向け始めた。
「今・・・なんと言いましたか?」
「ミオはネムレスとか言う男に囚われてるんです!まだ全然戦っていませんが、あいつは強い。それに、言い得もしない恐ろしさもあった・・・だけど、ミオをあの男の所にいつまでも囚われたままにしてはおけない!」
「ネムレス・・・。」
ファルミリオは神妙な面持ちをしながら何かを考えていると、持っていたカップをテーブルの上に置き、席を立った。
すると、聞き取れない言語で呟きながら宙に文字を書いていき、それを周囲に散りばめるように手を振るう。散り散りになった文字は星屑の様に舞い、白い靄が浮かび上がってきた。
「少しルール違反をしましょうか。」
不敵な笑みを浮かべながら、ファルミリオはその靄の中に入っていく。靄の先はネムレス達が根城としている建物の大広間に繋がっており、その場所に足を踏み入れた瞬間に、無数の鎖がファルミリオに伸びていき、ファルミリオは軽く腕を振るい、鎖の主であるベリスの元へと返す。
そのすぐ後に、前から二つの斧を手に持つニンファと、後ろから鈍器とも言える大剣を持つジェリオが襲い掛かってくる。
前後から襲い掛かってくる二人をファルミリオは右手と左手の手の平で受け止め、手の平から発した衝撃波で二人を壁へ吹き飛ばす。
すると今度は三体のカラクリ人形がファルミリオに走って行き、飛び掛かってくる。胴体には爆弾が埋め込まれており、ファルミリオは爆発する前に念力でカラクリ人形を一つの塊にして、予知していた大男のバンバが飛び出してくる上空へと投げ飛ばした。
投げ飛ばした先には予知通りにバンバが飛び出してきており、バンバはカラクリ人形の塊の爆発を受けて壁に吹き飛ばされていき、そのまま下に落下していく。
「4人・・・いや、隠れている者も含めて5人ですね。いきなりお邪魔して申し訳ない。一つ訪ねたい・・・ネムレスと言う男はここにいるか?」
ファルミリオの問いに4人からの返答は無く、依然としてファルミリオに対して敵意を持った目をして構えていた。
「・・・いいでしょう。それでは、あなた方には私の弟子の練習相手になってもらいましょう。」
ファルミリオが右手を上げると、どこからか銃声が聴こえ、ベリスの頭部に銃弾が着弾した。
ベリスは糸が切れたように崩れ落ちていき、また四発の銃声が鳴り響き、隠れている人物を含めて残りの4人の頭部を的確に撃ち抜いた。
「大分使い慣れてきたみたいですね。優秀ですよ、アイザ。」
弟子の優秀な働きに喜ぶファルミリオ。その時、アイザが撃ち抜いた4人の体に黒い靄が覆われ、立ち上がり出した。
すると、独りでに大広間の扉が開き、そこからタバコを口に咥えているネムレスが現れた。
「何の騒ぎかと思って来てみれば、面白い客人が来ているじゃないか。」
「どうやら、本当のようだな。ネムレス・・・そうか貴様か。」
ファルミリオの髪が逆立ち、青い光のオーラを漂わせながら宙に浮きあがっていく。
そんなファルミリオの姿を見て、ネムレスは咥えていたタバコを吐き捨て、満面の笑みを浮かべながら武器を構える。
「ネムレス、忌まわしき罪人よ。貴様には今度こそ死んでもらおうか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます