第38話
宙に浮かんでいるファルミリオを地上に下ろそうとベリスが鎖を伸ばすが、ファルミリオの周囲に見えない壁があるのか、鎖はファルミリオに届くことは無く弾き返されてしまう。
お返しと言わんばかりに今度はファルミリオが両手に灯っていた青い光を浮かし、その光が複数に分裂すると、一斉にネムレス達に向かって飛んでいく。
光から逃れようと試みたが、最初から分かっていたように避けた先にも光が降り落ち、触れたベリス達の全身に眩い光が発光すると、跡形も無く消え散ってしまった。
次々とネムレスの仲間が消滅していく中、ネムレスだけはギリギリで避けていき、一人だけ生き残る事が出来た。
「さぁ、後はあなただけですよ。ネムレス。」
「・・・そいつはどうかな?」
勝ち誇った笑みを見せたファルミリオを馬鹿にするかのようにネムレスが鼻で笑うと、ネムレスの後ろに黒い靄が発生し、その黒い靄から消滅したはずのネムレスの仲間達が姿を現した。
再び現れたネムレスの仲間に面倒くさそうな表情を浮かべたファルミリオは、もう一度光を両手から発生させ、また光の雨を降らそうとする。
「またか・・・。」
「さぁ、次こそ仕留めて見せよう。」
「・・・お前ら、散開しろ。」
ネムレスがそう言うと、ベリス・ニンファ・バンバ・ジェリオの体が黒い影と化し、ファルミリオへ向かっていく。が、またしてもファルミリオの結界によって止められてしまう。
「無駄ですよ。何人たりとも、この私に触れる事は出来ない。」
「なら、強引に行かせてもらおうか!」
すると、突然ネムレスの姿が消え、大広間には影となったネムレスの仲間とファルミリオだけが残った。
数秒の静寂が通り過ぎると、ファルミリオの周囲に纏わりついていた影からネムレスが現れ、ファルミリオにアイスピックを突き出した。
ファルミリオは突き刺さる前に地面に落ちていき、その後を影が追いかけていく。地面に着地し、上を見上げると追ってきていた影からネムレスが飛び出し、ファルミリオに馬乗りになる。
ネムレスは素早くアイスピックを逆手持ち、躊躇いもせずにファルミリオの顔面に振り下ろした。アイスピックがファルミリオに突き刺さる瞬間、突然ファルミリオの姿が消え、そのまま振り下ろされたアイスピックは地面に激突して壊れてしまう。
「あ?」
唐突に目の前から消えたファルミリオに困惑するネムレス。立ち上がり辺りを見渡すがファルミリオの姿は無かった。だがどこからか感じる異様な雰囲気にネムレスは依然として警戒を怠らず、腰に隠している拳銃を左手で握り続けている。
「ボス・・・あいつはどこに行った?」
警戒しているネムレスとは裏腹に、ファルミリオの姿が見えなくなり油断していたバンバが、頭を指で掻きながら影から姿を現してしまう。
「勝手に出てくるな!まだ奴はどこかに―――!」
その時だった。ネムレスの体が一瞬宙に浮き上がり、すぐに地面に戻ってくると、天井を突き破って大広間を覆う程の青いビームが迫り、咄嗟にネムレスはバンバの体を盾にして衝撃に備えた。
ビームの威力はネムレスの想像を遥かに凌駕し、盾にしていたバンバの体に押し潰されそうになるのを必死に堪える。
耐えて耐えて、耐え凌いでいると、徐々にビームは収縮していき、やがてビームが通り過ぎていく音が聴こえなくなったネムレスは、ボロボロになったバンバをどかし、周囲を見渡す。
ネムレスを囲っていた影は無くなり、立っている場所以外の床は地中奥深くまで削られ、果ての無い深淵が広がっていた。
さっきまで放たれていたビームの威力に乾いた笑い声を漏らしていると、大穴が開いた地面の奥深く、深淵の更に奥深くにいる何かと目が合ったような気がした。
「何だ・・・?」
ネムレスは無意識の内にどんどんと深淵を覗き込んでいると、空から急降下してきたファルミリオがネムレスの背中を蹴り飛ばし、ネムレスの体は深淵へと落ちていく。
「ネムレス、影より生まれた者よ。暗闇の中で息絶えなさい。」
深淵へと落ちていくネムレスをファルミリオは見下ろし、ネムレスの姿が見えなくなると、コウとアイザが待つ空間に戻っていった。
戻ってくると、そこにはアイザの姿しか見えず、コウの姿はどこにも見当たらない。
「おや、コウはどこへ消えたんですか?」
「え?師匠があっちに行った時に一緒に入っていったじゃないですか。」
「一緒に・・・一緒に?」
ファルミリオは困惑していた。ネムレス達がいる場所へと転移した時、これから何が起きるのかをあらかじめ予知していたため、彼らがどんな事を仕掛けてこようが、予知していた自分が勝つ未来は変わらない為、何ら問題は無かった。
だが、コウがあの場所に転移するという事は予知していた中で見えておらず、それによって自分があらかじめ見ていた予知に疑問を持ち始めた。
(コウというイレギュラーがいる所為で、私が見た予知と少し変わる?だが私はネムレスを予知通りに倒す事が出来た・・・まさか、結末が・・・!)
胸のざわめきを抑えながら、もう一度ネムレスがいた場所に転移しようとしたが、おかしな事が起きていた。
ファルミリオが転移する場合、転移する場所の時間軸に介入する形で転移するというもの。
余程の事が無い限り、ファルミリオはどんな場所でも好きな時に転移できるのだが、開いた時間軸には、ネムレスがあの場所にいたという履歴が無くなっていた。それだけでなく、今まで存在していたはずの履歴が全て消失していく。
「履歴が消えていく?」
消えていく履歴を眺めていると、突然ファルミリオは顔に手を当てながら、その場に座り込んでしまう。
「師匠?どうしたんですか?」
「・・・まさか、ノームの仕業か?」
「ノーム?」
「深淵に堕ちたシシャの名前だ・・・どうやら、大きな面倒事を一つ作ってしまったかもしれません。」
その頃、深淵の底に落ちたネムレスは、目の前も見えぬ暗闇の中を当ても無く進んでいた。
ただひたすら足を進め、その先から感じる何かの元へと。暗闇の中を進み続けていくと、薄っすらと見える巨大な門の前に辿り着き、門の奥から男とも女とも聞き取れる声が聞こえてきた。
『深淵を歩む者。貴様は何故生きる?貴様は何を求める?』
「何故生きる、何を求める、か・・・過去を知りたい。俺は俺の過去を知りたい。俺は一体、何者なんだ?」
門の先にいる何者かに尋ねると、巨大な門はゆっくりと開いていき、ネムレスの体は門の中へと吸い込まれていった。
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