第39話
ミオが囚われていた場所へと辿り着いたコウは、檻の中で眠るミオを見つけ、安堵の溜め息を吐いた。檻に近づき、強引に檻をこじ開け、中で眠るミオを抱きかかえる。
その時、激しい揺れと轟音が響き渡り、抱きかかえていたミオを落とさぬように強く抱きしめた。
「今の音、ファルミリオさんの仕業か?あの人ならネムレスに負けはしないとは思うけど・・・。」
すると、眠っていたミオが目を覚まし、コウの頬に両手を当ててきた。コウがミオの方へ顔を向けると、少し成長したコウの姿にミオは驚いて頬から手を離してしまう。
「コウ・・・?」
「ミオ!良かった!助けに来たよ、すぐにここから出してあげるからね!」
「あなた、どうして成長しているの・・・?」
「そんな事は後で話すよ。さぁ、僕の影の中に入って。」
ミオを降ろして、自分の影の中へと入らせようと促すが、一向に入ろうとはしない。
「どうしたんだい?さぁ早く!」
「・・・コウ、どうしてあなたは少しだけ成長しているの。」
「だからそれは後で話すよ!だから―――」
「私を・・・置いて行っちゃうの?」
顔を上げたミオの頬には、一粒の涙が流れていた。コウは困惑しながらもミオの涙を拭おうと頬に手を近付けていくと、ミオの目から流れる涙が染まっていくように、血にも見える黒い涙が流れ、途端にコウの体に強い衝撃が入り、吹き飛ばされてしまう。
床に転がっていき、感じた事も無かった痛みに顔を歪ませながら立ち上がると、ミオの姿が恐ろしい鬼の姿へと変異し、綺麗だった瞳は真っ黒に染まっていた。
そのミオの姿はコウが見た事もない姿で、ミオの身の心配と共に、今の状態のミオに恐ろしさを感じていた。
「ミオ・・・?」
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!!!!!」
「どうしたんだよミオ!?何が起きてるんだ!?」
「渡さない・・・この子は誰にも!渡さない!!!」
激情したミオは、コウに向かって走り出し、何倍もの大きさになった手でコウの顔面を掴みかかる。
唖然としたままのコウは、いとも簡単に掴まれてしまい、上に振り上げられると勢いよく床に叩きつけられてしまう。
「がはぁっ!?」
ファルミリオの力を受け、成長したコウの体には失っていた痛覚が戻っており、叩きつけられるたびに全身に激痛が走る。抵抗しようにも、感じた事のなかった痛みを体感し、体が硬直してしまう。
何度も何度も床に叩きつけられていく内に痛みと共に意識も薄れていき、コウの体は力が抜けたようにぐったりとした状態になってしまった。
弱ったコウの髪を引っ張って無理矢理立たせ、力を込めた剛腕でコウの体に振りかぶり、吹き飛ばされたコウの体は壁を突き抜けて外に放り出された。
「ぐっ・・・ぐぁぁぁ!」
力が入らなくなった体を奮い起こし、何とか立ち上がったコウ。穴が開いた壁の方を見ると、鬼の姿のままのミオがゆっくりとコウの方に近づいてくる。
このままでは訳も分からず彼女に殺される!そう思ったコウは、ここでようやく拳を握り、戦闘の構えをとった。
「ミオ・・・出来るだけすぐに終わらせてあげるから。」
コウは勢いよく走り出し、その勢いを利用してミオに飛び蹴りを当てる。蹴りを喰らって少し体勢が崩れるが、膝をつく事は無く、顔を再びコウに向けると拳を振り放った。
ミオの拳がコウの頬をかすり、コウはガラ空きになっているミオの脇腹に三発パンチを放つ。先程の蹴りよりもダメージを与えられ、体を前に出して苦しむミオにかかと落としで追い打ちをかける。
ようやく地面に倒れたミオだったが、まだ意識はあるようで、コウの足を掴もうと手を伸ばしてきた。コウは掴まれる前に跳び上がり、落下しながらミオの背中に膝を落とす。
「うあぁぁぁ!!!」
ミオが悲痛な声を上げるが、コウは構わずにミオの首を締め上げた。両腕の機械から鳴る電子音が高くなるにつれて、ミオの首を絞めつける力が増していく。
「ぐっ、ぁぁ・・・コ、コゥ・・・。」
「・・・あ。」
弱弱しいミオの声に思わず絞める力を緩めてしまう。
「ごめん、ミオ・・・少しやりすぎた―――がはぁ!」
ミオは気を緩めたコウの顔面に肘を当て、自分の上からどかすと、息も止まらぬ怒涛の連撃を繰り出し、フラフラとよろめくコウに止めの一撃を入れようと握り締めた拳を突き出した。
しかし、ミオの拳はコウに簡単に受け止められてしまい、拳を握る力が増していき、そのまま潰されてしまう。
「いやぁぁぁぁ!!!」
悲痛な叫びを上げたミオだったが、コウは怒りで我を忘れているようでミオの叫び声が届いておらず、気が狂ったように何度も何度も顔面を殴り続ける。
完全に意識を失ったミオだったが、コウは構わずトドメの一撃を入れようと拳に想力を乗せながら振り上げていく。
コウが拳を振り下ろすのと同時に、異形の姿だったミオの姿が元の状態に戻り、その姿を見たコウは我を取り戻し、ギリギリの所で拳を止めた。
「あ・・・あぁぁ・・・ミ、ミオ?」
顔中血塗れのミオに手を近付けていくと、自分の手にミオの血が付いているのを見て、コウは発狂した。
「あぁ・・・あああ!あああああああ!!!」
パニック状態になったコウはミオの上から離れ、血が付いた手をズボンで拭おうと何度も擦りつける。
手に付いた血を拭う事が出来たが、また視界に血だらけのミオの姿が入り、コウは膝から崩れ落ちていく。涙と鼻水で顔中グチャグチャになりながらミオの元へと這っていき、ミオの姿を間近で見て自分のした事に深い後悔と悲しみに打たれた。
「ミオ!ミオ!!・・・あぁ、僕は、僕は一体どうして・・・!!!」
ミオに触れようとするが、自分がミオを殴ったという事実に罪悪感を覚え、行き場を失ったコウの手は拳に変わり、地面を殴りつけた。
泣き叫ぶコウに同情するように、晴れていた空は黒く曇り出し、大粒の雨が降り始めていた。
「悲しいな。守りたいはずだった人を自分の手で殺す事になるなんて・・・。」
雨の音に混じって誰かの声が聞こえ、後ろを振り向くと、いつの間にかネムレスが佇んでいた。倒れているミオを見るネムレスのその目は前に見た狂気的なものではなく、どこか悲しみを帯びているようにも見えた。
「ネムレス・・・!」
「結局、守りたいものなんて持つべきじゃない。それが、自分の弱さになるんだからな。」
「黙れ!!!」
コウはネムレスに向かってパンチを放つが、軽く躱されてしまい、腹部にアイスピックを刺されてしまう。
腹部から感じる痛みに顔を歪ませながらも、刺さっているアイスピックを抜き取り、もう一度ネムレスに殴りかかった。だが、感情に任せたコウの拳は予想しやすく、ネムレスはカウンターで脇腹・顎・頬の順に殴り、ダウン寸前のコウを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたコウには立ち上がる気力が無く、ボヤけた視界の中でネムレスと、ネムレスの後ろで倒れているミオの姿を見ていた。
「もっと強くなれ。力だけでなく、自分の感情をコントロール出来るように。それまで、この女は俺が預かっておく。」
「っ!?」
「次に会う時は本気だ。」
ネムレスは倒れているミオを抱え、周囲の暗闇から黒い靄を作り出す。
「・・・そうだ。俺の部下を別々の場所に置いておいた。倒せば俺の居場所を聞けるかもな。」
「待て・・・待てぇ!!!」
「じゃあな。」
ネムレスは黒い靄の先に進んでいき、ネムレスの姿が見えなくなると黒い靄は消えてしまった。
「ネムレスーーー!!!」
降りしきる雨の音を掻き消すように、怒りを露わにしたコウの叫び声が空に響き渡った。
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