第30話

コウによって吹き飛ばされた男の体はグチャグチャになり、変わり果てた自身の体を見て、男はサングラスを外して、異形の姿へと変異していく。

グチャグチャになった体がビタンビタンと跳ね上がると、男の体が床に爆散し、爆散した肉片からスライム状の異能体が現れる。

表面に三つの目と大きな口が現れ、不気味な笑みを浮かべると、コウがいる車列から先程とは桁違いの爆発が起こり、爆発の衝撃で列車が空中に浮き上がった。

空中に放り出されたコウは、後ろで落ち始めている後列の車列を見て、急いで車列が落下する場所へと向かう。


「ミオ!乗車している人はどこの車列に集まっている!?」


(一番後ろ。けど、間に合うの?)


「間に合わせるのさ!」


最後列が落下する場所へ向かう途中、同じく空中に放り投げられていたレディが落ちてくるのを見つけ、コウは落ちてきたレディを抱きかかえる。


「また会いましたね!」

「ちょっと!一体何が―――」

「ごめんなさい!今は話してる余裕が無いんです!」


レディを抱きかかえたまま、最後列の落下地点にギリギリの所で間に合い、落ちてきた車列を背中で受け止めた。

勢いよく背中で受け止めた車列を押しのけ、列車の最後列を線路に戻す。抱きかかえていたレディを下ろし、中にいる人達が安全だった事を確認し、ホッと胸をなでおろした。


「良かった!みんな無事だ!あなたも大丈夫ですか?」

「え、ええ。それよりも、一体どうやってこんな事を―――」

「話はまた後で!まだやる事が残っていますので!」


そう言ってコウはとてつもない速さで、異能体が残されている最前列の列車を追いかける。

列車が視界に入ると、異能体のスライム状の体が列車からはみ出て、無数の目玉が追いかけてきたコウを見ていた。


(来るわよ、コウ。)


コウの周囲にまた爆発が生じ、コウは勘で爆発が起こる場所を避けて走り、右腕の義手にパワーを溜め込む。

異能体の体は更に肥大化し、より多くの目玉が現れ、コウがいる周辺に大爆発を起こした。

爆発で煙が生じ、異能体はコウが死んだ事を確信した異能体は、気味の悪い笑い声を高らかに上げる。

その時、煙の中から一筋の光が輝くと、そこから金色に輝くビームが轟音と共に放たれ、異能体の体を跡形も無く消し去った。

煙が晴れると、そこには無傷のまま右腕を前に構えていたコウが立っていた。

先程のビームを放ったコウの右腕からは、金色の粒子が溢れ、コウの頬には少しだけ亀裂が走っていた。


「ふぅ、当たって良かった。」


無事異能体を倒す事に成功したコウが安堵していると、コウの影からミオが現れ、コウの背中に抱き着いてくる。


「お疲れ―。今回は上手く当たったね。」

「まだコントロールは出来ないのは歯がゆいよ。」

「前は全然関係ない所ばっかりに飛んでいって、ムキになって何度も撃ったよね―。それで力を使いすぎて一度死んじゃったもんね。」

「あの時の自分が馬鹿馬鹿しいよ・・・。」

「本当、コウは私がいないとすぐに消滅しちゃいそうだね。」

「何も言えません・・・。」

「うんうん。そういう子供っぽい所や頑張り屋さんな所が、私は好きだよ。」


ミオがコウの胸に手を置くと、コウの全身にミオの手の平から発生した青い光が包み込み、頬に出来ていたヒビが塞がっていく。


「ありがとう。前の街からのぶっ通しで、少し時間を消耗してたんだ。」

「いいのよ。それより、置いてきちゃったあの人達はどうする?」

「もちろん、街に届けてあげるよ。」

「けど、あの人達が街に辿り着いても、安全な場所なんてあるのかな?」

「もし変異体がいても、僕が全部やっつけるさ!」


満面の笑みを浮かべるコウを見て、ミオは妖しい笑みを浮かべた。


「さぁ、ミオ。これからみんなを街にまで運ぶから、僕の影に戻って。」

「赤ちゃんごっ―――」

「それは後でちゃんとやったげるから。」


ミオは渋々コウの影に戻り、コウは強引に取り付けられたミオとの約束に落胆しながら、置いてきた最後列の車列へ走った。

戻ってくると、レディが生き残った人達の怪我を手当てしていた。コウが戻ってきたのを見たレディは、怪我の手当てを他の人に任せ、コウの元へと駆け寄ってくる。


「生きてたのね。それで、お目当ての異能体とやらは倒せたの?」

「無事にね。あの人達に大きな怪我は無かった?」

「みんな軽症程度で済んでるわ。まだ信じられない、あなたが私を抱えたまま背中で列車を受け止めるなんて・・・。」

「ギリギリでしたけどね。」

「遅くなったけど、私はレディ。ロンドの街の厄介屋よ。」

「厄介屋?」

「変異体を狩る人達、まぁ賞金稼ぎみたいなものよ。」


レディが差し出してきた手をコウはレディの手を潰さないように力を調整しながら握手を交わす。


「さぁて、これからどうしようかしら。」

「僕が送りますよ。」

「けど、あれだけの人を運ぶなんて・・・。」

「僕が列車を押して街にまで届ければいい話ですよ。」


そう言ってコウは列車の後ろに向かっていき、レディは困惑しながらも列車内に乗り込む。列車の後ろについたコウが列車に手を触れると、列車の周りに金色のバリアが貼られた。

中にいたレディがバリアに手を触れると、ゼリーのように柔らかく、弾力があった。


「本当・・・何者なのよ・・・。」


コウが持つ人智を超えた力に驚愕するレディ。それはレディだけでなく、他の人達も同様であった。

そうして、コウが押して走らせた列車は、再び目的地の街、モントールに向かっていく。




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