第50話

三角を描くように立つシェリル・ネムレス・コウ。この三者の目的はそれぞれが別で、シェリルはネムレスを始末する為・ネムレスは蘇った力の練習として・コウはミオの居場所を聞き出す為にネムレスを捕らえる、といったもの。

その目的の為にシェリルはコウが、そしてコウはシェリルの存在が邪魔になってはいるが、結局ネムレス一人がこの二人を相手にしなければいけないという不利な状況に陥っていた。

だが、この状況こそネムレスにとって好都合な事だった。サレナを圧倒したシェリル、再臨したサレナを人間に戻したコウの新たな力。その両者の力はほぼ互角といってもいい。となれば、自身がここで死ぬという事は絶対にありえないのだ。


「コウ!邪魔をするならてめぇも殺す!それでも退かないか!」


「僕にだって目的があるんだ!ここで退くなんて、ごめんだ!」


コウはシェリルに対し、出力を抑えたビームを放った。シェリルは大剣でビームを受け止めて弾くが、長い戦いの中で無理をさせすぎた大剣の刀身は砕け散ってしまう。


「今かよ・・・!」


シェリルがのけぞっている間に、コウはネムレスに素早く近づき、首根っこを掴んで跳躍した。


「話をする為に連れていく!」


「いい速さだ。だが、反撃されるという事は頭に無いか!」


ネムレスはコウの脇に右膝蹴りを入れ、首を掴まれていた腕を引き剥がし、腹部を蹴飛ばした。先に地上に落下していくコウにネムレスは、左手に持つ銃を撃った。


「そんな豆粒なんて!」


向かって来る弾丸を手の平で防ぐコウだが、弾丸が破裂した際に豆粒程の小ささのブラックホールが発生し、コウの体はそのブラックホールの中へと吸い込まれてしまう。

空中を落下しながらネムレスはこちらに走ってきているシェリルを見つけ、右手に持つ銃をシェリルに向かって撃った。


「異能の気配!?」


ネムレスが撃った弾丸に異能の力を感じたシェリルは、半ば無理矢理に自身の体を横に飛び出させ、向かってくる弾丸の射線上から逸れる。

弾丸はシェリルの横を通り過ぎ地面に着弾すると、着弾した場所にブラックホールが発生し、その中から吸い込まれたはずのコウが飛び出してきた。


「ぶはぁ!?今まで僕はどこにいたんだ・・・?」


「・・・こんな能力なのか。」


ネムレス自身、この二丁の銃を使っていた記憶は取り戻しておらず、両手が塞がるこの二丁の拳銃の能力は戦闘にはあまり使えないと思った。


「ネムレス!!!」


地面に落下するネムレスにタイミングを合わせてシェリルは飛び蹴りを放つ。蹴りはネムレスの腹部を直撃し、吹き飛んだ。

吹き飛ばされながらも上手く空中で姿勢を立て直して着地したネムレスだったが、息つく間もなくシェリルが飛びかかってくる。マウントを取ったシェリルが拳を振り上げた瞬間、ネムレスは自身に、そして近くの建造物に一発ずつ弾丸を撃った。ネムレスの体は瞬時に建築物の方へと転移され、振り下ろされたシェリルの拳は地面に激突する。


「逃げるには使えるか・・・他に何か能力がないものかね。」


戦う為の力を求めたネムレス。すると二丁の拳銃がその姿を変え、二本のダガーへと変貌した。


「良い子だ、俺にはこっちが肌に合う!」


ダガーを逆手に持ちかえたネムレスは、既にこちらへ向かってきているシェリルへと向かっていく。大勢を低くしたままシェリルの懐に潜り込んだネムレスは、体を掻っ捌く風にダガーを振り上げる。シェリルは間一髪でそれを避けるが、ネムレスが得意とする小型の刃物での接近戦に、体勢を崩されたシェリルが反撃を仕掛けるにはリスクが高かった。

ネムレスはシェリルが自身から距離を取らせない為に常にシェリルに詰め寄りながらダガーを振り回していく。この状況にシェリルを慣れさせない為に、ネムレスは手からダガーを離し、体を回転させながら離していたダガーをもう一度掴み、シェリルの意識外からも攻める。

勘と自身の戦闘経験で頬を掠めた一撃以外のネムレスの連撃を躱していくシェリルだったが、ダガーの攻撃ばかりに気を取られ、足払いで地面に倒されてしまう。倒れた自身にネムレスがダガーを突き刺そうとするのに対し、シェリルは伸ばした足でネムレスの行動を阻止するが、ネムレスはくるりと体を回して再び突き刺しにきた。


「もらった!」


シェリルは咄嗟に黒い炎を発生させようとしたが、いつも能力を使う時に感じていた感覚が分からなくなっていた。


(異能が使えない・・・!?)


迫る二本のダガーを両腕で受け止めたが、腕を貫通したダガーの刃先が徐々に徐々に自身の目の前にまで迫ってくる。シェリルはネムレスの股下から片足をくぐらせ、ネムレスの体を上に吹き飛ばすように蹴り上げて投げ飛ばした。投げ飛ばす際に、両腕に突き刺さっていたダガーが抜け、それと共にさっきまで感じられなかった異能の感覚を取り戻していた。


「戻ってきた・・・!」


跳び起きたシェリルは投げ飛ばしたネムレスの方へ右腕を向け、黒い火柱を地面から発生させる。


「やったか?」


黒い炎が消滅したそこには、ネムレスの姿はなかった。


「終わった・・・と思わせるか!」


ネムレスが狡猾な男だと知っていたシェリルはすぐにネムレスの策に気付き、自身の周囲に黒い火柱を立てた。

シェリルの考えは的中しており、さっきの炎で消滅したかに見せ、油断した所に背後から一突きしようと考えていたネムレスだったが、シェリルを守るように取り囲む黒い炎がそれを阻んだ。


「そう簡単に殺せはしないか。」


「相も変わらず狡猾で卑怯な奴だな、ネムレス!」


「俺はお前ほど度胸がなくてね。相手の油断や隙をついて安全に殺すのが得意なんだよ。」


「お前の異能力、身を持って理解した。拳銃の時は自在に動き回り、ダガーは対象の異能を封じ込めると。さっきのもその二つの合わせ技だろうな。」


「結構自信があった策だったんだがな。俺というものを知っている奴相手には、特にお前には通じはしない・・・。」


「この火柱が消滅した時、その時がお前の最期だ!異能で空間を行き来する間もなく燃やし尽くす!」


「出来るかな?」


「やるのさ!」


黒い炎を隔てて睨み合う二人。黒い火柱が消滅し、シェリルはまたネムレスが異能の力を使う前に燃やし尽くそうと右手をネムレスに向けるが、その時目に映ったネムレスのにやけ顔に嫌な予感がよぎった。

黒い炎を放とうとした瞬間、シェリルの右脇部分に強い衝撃と激痛が走った。目だけを右に向けると、こちらに急接近してきていたコウが自身の右脇に蹴りを放っていた。

シェリルは勢いよく吹き飛んでいき、建物の壁を突き破っていく。


「ナイスキックだ、コウ。」


コウに称賛の拍手を送るネムレス。それに対し、コウはネムレスの足元へ威嚇のビームを放って返した。


「お前を助けたつもりじゃない!今死なれては困るからだ!」


「だよな。だが、俺はそう簡単に情報を教えてやるほど優しい人間じゃない。」


「なら・・・少し痛い目を見てもらうまでだ!」


「いいね、そうっこなくっちゃ・・・。」

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