狩り人
第51話
突如発生した未確認の生命体の確認の為、アイザは調査に赴いた。未確認生命体の反応があった場所へタイムラインを用いて来てみると、そこには巨大な花が咲いており、花からは灰色の女性が生えていた。
「これって・・・今までの奴らとは・・・。」
規格外の大きさ、そしてその異質さから恐怖で手が震えだすアイザ。その直後、空間を切り裂くが如く、体を貫いていく程の轟音が響き、灰色の女性の体に剣で斬られた傷が出来、大量の鮮血が空中を舞った。
そして、その血を浴びながらも、なおも異形の者へ挑もうとする一人の剣士の姿が見え、アイザは背負っていたライフルを構え、剣士の姿をスコープで確認する。
「っ!?」
その人物は忘れもしない・・・いや、忘れたくても忘れられない人物の姿だった。
「シェリル・・・!」
アイザが戦う力を求めた理由となったシェリル。行方をくらましていた彼女との再会に、アイザは安堵するのと同時に、彼女の人間離れとした戦いに不安はよぎった。
「シェリル・・・どうしちゃったの・・・?」
一か月と短い間であったが、シェリルがどんな人間で、どれほど強いかはアイザには分かっていた。だが、今見ているシェリルの戦う姿は、強いと一言では言い表せない。人として大事な何かを失いかけているように思えた。
すると突然、黄金の光の線が異形を撃ち抜いた。撃ち抜かれた異形の体は崩れていき、本体と思わしき女性の体を残して、残骸が灰となって空へ消えていく。
アイザは黄金の光が来た方へライフルを向けると、空中に浮かぶコウの姿があった。
「コウ!・・・けど、姿が変わっている?」
前に会った時よりも大人びた青年に変わったコウの姿にアイザは驚くが、地面に着地して異形だった女性に駆け寄るコウの必死さを見て、根っこの部分は何も変わっていないと確信できた。
「良かった。彼は辛い目にあったけど、まだ優しいままの彼だ。」
アイザはライフルを背負い、二人がいる場所へと走っていく。この混沌とした世界で想い人と友人に再会出来たアイザは浮かれていた。あの二人が協力してくれれば、この世界をもう一度平和だった世界へ戻せるかもしれないと。
しかし、それはアイザの甘い考えだった。
「ネムレス!!!」
あと少しで二人の所へ辿り着く所で、シェリルの怒号が響き渡った。アイザは物陰に隠れ様子を伺うと、ネムレスがシェリルとコウの前に現れていた。
「ネムレス・・・どうしてあの人が・・・!」
アイザが困惑している事などつゆ知らず、シェリル・コウ・ネムレスの三人は戦い始めてしまった。初めは一対一対一の状況だったが、ネムレスが新たに手にした力によってコウが戦意消失し、そこからはシェリルとネムレスの激しい戦いとなった。
初めは劣勢だったシェリルだったが、シェリルが持つ異能の力を使い、一気に形成は逆転した。
シェリルが異能の力を使う場面を見たアイザは悲痛のあまり膝から崩れ落ちる。
「嘘・・・嘘よ・・・だって、なんでシェリルが!なんでなんでなんでなんでなんで!!!」
怒り・悲しみ・憎しみ、それらが混ざった混沌がアイザの胸の奥から湧き上がる。
「あんなのを宿したシェリルなんて・・・私が戦う意味が・・・!」
すると、物凄く勢いがついた物体が建物に激突した音が聴こえ、ハッと我に返ったアイザが再び視線を戻せば、そこにシェリルの姿は無く、少し離れた場所に建てられていた家の壁に大きな穴が出来ていた。
直感でシェリルがそこにいると感じたアイザは、戦い続けているコウとネムレスに気付かれずに移動し、裏口から家の中へ入っていく。
中に入れば床に瓦礫が散りばめられており、その先にはボロボロになったシェリルが横たわっていた。
「シェリル・・・シェリル!」
シェリルの元へ駆け寄り、胸に耳を当てる。微かだが鼓動は感じた。顔を上げようとすると、シェリルの右脇腹がやけに気になり、コートをめくって見ると、わき腹からへそまでの部分が無くなっていた。
「・・・。」
信じ難い現実に、アイザは言葉も感情を表す表情さえも出なかった。痙攣したように躍動する自身の鼓動の音が頭まで響き、シェリルの亡骸を見つめていた。シェリル以外に映る物など霞んでいき、シェリルの色の良い肉が鮮明にアイザの目に映し出される。
「こんなのは・・・許サなイ・・・こレは、ウソダ。」
茶色だったアイザの瞳が赤色に、黒い髪は銀色へと染まり、背中から天使を思わせる純白の翼を生やした。
両手をシェリルの頬に当て、シェリルの虚ろな瞳の中を覗き込むように目を近づけながら、アイザは奇妙な呪文のような言葉を呟いた。
「リヒド メファリヒド ミルフォリヒド アーリミアル 」
すると、シェリルの無くなった体の部位がみるみるうちに修復されていき、古傷までもが修復され、シェリルの体は綺麗となった。
「 ・・・んっ、あれ?私、何を・・・。」
永い眠りから覚めたような感覚に、困惑したアイザだったが、すぐにシェリルの事を思い出し、視線をシェリルへ落とすと、さっきまでのボロボロのシェリルはおらず、無傷のまま眠っているシェリルがいた。
「え?だって、さっきまで・・・まさか、これも異能の力?」
自分自身がやった事だとアイザは憶えておらず、シェリルの体が治ったのを異能の力だと勘違いしてしまう。
「・・・ここにいたら、またシェリルを戦いに行かせてしまう。どこかへ連れて行かないと!」
タイムラインを手に、家の中から通じる場所を探り、一か所が別の場所へ通じる壁があり、その壁へタイムラインを付けて開いた。その先には海が広がっており、夕暮れ空に飛ぶ鳥の姿があった。
アイザは未だ眠り続けているシェリルを抱きかかえ、タイムラインで繋がった先へと連れていく。
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