第42話
トレイターの背に乗ってやってきたのは、断崖にそびえ立つ紅い城。日はやがて落ち、世界が暗闇に染まると、城内に灯った光が城中の窓から漏れている。
「あそこが五人の内の一人、ニンファが支配している城だ。」
「見張りがいない・・・変異体達は中に集まっているのか?」
「そうだ・・・そろそろ始まるな。」
「何がだ?」
突然、屋敷内から身も凍る程の叫び声と、その叫び声を掻き消すような女性達の甲高い笑い声が屋敷の外に響き渡ってきた。
「お食事が始まったな。なら、今がチャンスだ。」
「え?」
トレイターは城の頂上にある屋根裏部屋の窓に向かって急接近していき、背に乗っているコウを窓へと放り投げた。投げ出されたコウは窓を破り、中へと侵入する事に成功した。
「痛っ・・・投げるなら投げるって言えばいいのに・・・。」
服に付いたガラス片を払い、髪についているガラス片も取ろうとすると、影からゴーストがヌッと現れ、丁寧に一つずつ取ってくれた。
「ありがとう、ゴースト。君は優しいんだね。」
ゴーストは頭の裏を掻きながらクネクネと体を動かして照れている。得体のしれない存在だが、こういう可愛らしい部分に心安らぎ、コウは微笑んでしまう。
キョロキョロと周囲を見渡し、ゴーストは屋根裏から出られる扉を見つけ、手招きでコウを呼び寄せる。
扉を開け、階段を下っていくと、長い廊下に出た。廊下の壁には同じような絵画が飾られており、どれも目を瞑った人の顔が描かれている。
コウは周囲を警戒しながら静かに、それでいて素早く進んでいくが、ゴーストは軽快にスキップをしながら廊下を踊るように進んでいた。
「ゴースト・・・!もっと周囲を警戒して・・・!どこに敵がいるか―――」
そう言いかけた時だった。廊下の突き当りから長身の女性が廊下に出て来た。長身の女性は体を前に曲げていても高い天井に頭が着く程大きく、真っ白な肌をした顔がゆっくりとコウの方へと動いていく。
「まずい・・・!?」
コウは女性が完全にこちらに顔を向ける前に素早く駆け出し、女性の視界に捉えきれないよう姿勢を低くして懐に入り込み、足元を蹴って体勢を崩し、後ろに倒れていく女性の顔面をかかと落としで潰す。
かかと落としを決める瞬間、このままでは大きな音を立ててしまうと焦ったが、女性が倒れ込んでいく下にゴーストが滑り込み、彼がクッションとなって音が最小限にまで抑えられた。
「・・・ナイス。」
女性の下敷きになっているゴーストとガッツポーズを送り合い、女性の下からゴーストを引きずり出して更に廊下を進んでいく。
しばらく進んでいくと、エレベーターと思わしき装置に辿り着き、コウは強引に扉を開き、下に顔を覗かせた。下は暗闇が広がっており、下がどれぐらい深いか想定出来ない。
コウはエレベーターを呼んで身動きがとれなくなるよりも、このまま下に落ちていった方が何かあった時に対処出来ると考え、飛び降りようと身を構える。
今から飛び降りようとしているコウを見て、ゴーストは少しだけ悪戯心が芽生え、コウが飛び降りる決心がつく前に背中を押してしまう。
「ちょっと!?」
突然押されて驚いたコウは、偶然にも下に落ちる際にゴーストの布を掴んでしまい、ゴーストも一緒に下に落ちていく。
どれだけ落ちて行っても先が見えず、コウはファルミリオから貰った予知を使わず、自身が持つ直感を信用し、落下に身を任せてその時を待っていた。
(来た!)
直感でそろそろ底に着くと感じたコウは、横で必死に鳥の真似をしているゴーストを抱え上げ、両足に微量の力を解放し、底に着地した。
しかし、着地した場所はエレベーターの天井で、コウは天井を突き破り、そのまま中に入り込んでしまう。エレベーター内には二人の顔を黒い布で隠した女性が立っており、彼女達と視線が合ってしまう。
「・・・はは、上に昇ってくるのが待ちきれなくてね。」
そんな軽口を言うと、二人は腰からナイフを抜き、コウに襲い掛かってくる。コウは一人を片腕で防ぎ、もう一人を蹴り飛ばす。抱えられていたゴーストが蹴りでコウにナイフを突き刺そうとしている女性を壁に付き飛ばし、壁際にまとまっている二人にコウは左腕から低出力のビームを放ち、消し飛ばす。
コウは抱えていたゴーストを下ろし、エレベーター内から出ていく。エレベーターを出ると、今さっき起こしたビームの騒音に気付いたニンファの部下達が駆け付け、コウは両腕から低出力のビームで順々に消し飛ばしていくが、彼女達は次から次へと現れ、ニンファとの戦いの際に力を温存しておきたいコウはビームを撃つのを止め、格闘戦で挑んだ。
大群で攻め込んでくる彼女達に果敢に暴れ回るコウを見て、ゴーストも何か出来ないかその場で回りながら考え、足元に落ちている消し飛ばされた彼女達が使っていた武器を目にし、武器を拾い上げて投げ飛ばした。
飛ばした武器は見事敵に命中し、ゴーストは喜びの舞を踊りながら、次々と武器を拾い上げては投げ飛ばしていく。
順調にコウをサポート出来ていたが、調子に乗りすぎた所為で手元が狂い、投げ飛ばしたナイフがコウの頬を掠めた。
「あっぶね!ゴースト!もっとちゃんと狙って!」
コウにそう言われ、ゴーストは大きく頷くと、何を思ったのか鉄の棒をコウの後頭部目掛けて投げた。
「痛っ!?ゴースト!!!僕じゃなくて!敵を狙うんだよ!敵を!」
ゴーストの援護は期待出来ないと確信したコウは、残る敵を一人で蹴散らしていき、最後に残された敵に豪快な蹴りを放とうと構えるが、狙っていた敵の頭部に飛んできた斧が突き刺さり、斧が飛んできた方に視線を向けると、喜びの舞を踊っているゴーストがいた。
コウは自由気ままなゴーストに少しだけ呆れたが、ガッツポーズを送り、ゴーストも嬉々としてガッツポーズを送った。
二人は廊下の奥にある扉を開き、中へ入っていくと、そこは広い部屋で、壁には至る所に人間の死体が掲げられており、男女問わず酷い有様である。
そして部屋の奥には玉座に足を組んで座っている妖美なドレス姿のニンファが、金色の杯に入っている飲み物を優雅に飲んでいた。
「あら?騒がしい客人が来たかと思えば、あの時の少年じゃない。」
「憶えてくれててどうも・・・僕が来た理由は分かっているな。」
「遅すぎるわよ。ネムレスからあなたを待つよう三か月の間じっと待っていたのよ。・・・あら?隣の彼は新顔ね、どうも。」
ニンファは微笑みながらゴーストに手を振ると、ゴーストは両手で中指を立てた。そんなゴーストを見てコウは思わず吹き出してしまい、逆にニンファは目に見えて不機嫌になり、立て掛けていた斧を持ちながら立ち上がる。
「いいわ!少年をなぶり殺しにしたら、次はあなたの番よ!たっっっぷり可愛がってあげるわ!」
「悪いけど、こっちには時間があまり残されていないんだ。速攻で終わらせて次に行かせておらうぞ!」
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