ルミナスの花

第43話

ニンファは二つの斧を構えながらコウに近づき、振り上げた斧をコウの顔面に向けて勢いよく振り下ろす。コウは両腕で振り下ろされた斧を受け止め、ニンファを押し返すと、今度はコウがパンチの連撃を繰り出し、ニンファはそれらを避けていき、振り放った大振りの攻撃に隙を見出し、その攻撃を避けながらコウの首に斧を振るった。首に当たる直前でコウは斧を受け止め、受け止めた手の平から低出力のビームを放ち、片方の斧を粉砕する。

斧が壊れた事でニンファは素早く後ろに下がり、斧から鉄の棒へと変わった斧を見て溜め息を吐きながら投げ捨てた。

「中々楽しませてくれるじゃない。」

ニンファは壁に飾っていた棘の付いた鞭を取り、大きくしならせて床に叩きつける。叩かれた床から響いてきた音から威力の高さを察し、コウは前傾姿勢の体勢で両腕を顔の前に出し、防御重視の構えに変えた。

防御の構えを取った事はニンファにも見抜かれており、その場から一歩も動かないコウに存分に鞭を叩きつけていく。鞭の攻撃は両腕や両足の機械に当たっていたお陰でダメージは無いが、少しでもガードを緩めれば生身の部分に当たるため、中々攻めに転向しずらい。

「防ぐだけじゃ！」

すると、コウの足に鞭が巻き付き、ニンファが勢いよく引っ張るとコウはその場に倒れてしまう。

「壁に叩きつけてあげる！」

ニンファは細身の体からは想像出来ない力でコウを引っ張り、壁へと投げ飛ばした。壁に激突したコウはすぐに立ち上がるが、立ち上がった所を狙われ、顔面に鞭の攻撃を受けてしまう。

頬から感じる激痛が耳鳴りの様に響き、一撃喰らっただけで意識が飛びそうになった。

鞭で打たれた痛みで怯んでいるコウにもう一度鞭を打とうとニンファが鞭を振るうと、ゴーストがコウの前に立ち、迫る鞭を見事掴み、そのままニンファを自分の方へと引っ張る。

コウはゴーストが作ってくれたチャンスを逃さず、引っ張られたニンファに飛び蹴りを喰らわせた。蹴りを喰らったニンファの手から鞭が離れ、宙を舞っていき床に転がっていく。

「ありがとうゴースト！手は大丈夫？」

棘が付いていた鞭を掴んだゴーストを心配するコウだったが、ゴーストの手には傷一つ無く、ゴーストはガッツポーズをコウに見せた。コウもガッツポーズを返そうとしたが、死角から飛んできた拘束具がゴーストの体に巻かれ、そのまま床に寝っ転がってしまう。

ニンファの方へ視線を戻すと、ニンファは自身の鼻から流れている血を見て苛立ち、スカートをたくし上げて太ももに付けていた二つの短剣を取り、目をかっ開かせながらコウを睨んでいた。

「これで邪魔は入らない！それに段々あなたの頑丈さにイライラしてきたわ！」

コウは走って勢いをつけて飛び蹴りを放つが避けられ、背後に立っているニンファに裏拳を当て、怯んだ所を胴体に連撃を当てて、トドメに勢いよく放った突きを当てるとニンファの体は吹き飛んでいった。

ニンファは全身から激痛を感じるも、沸き上がる怒りの感情で立ち上がり、着ていたドレスを豪快に破り捨てる。裸体が露わとなり、コウは目を背けながらも、構えは解かない。

すると、ニンファの胸元に縦状の切れ目が入り、中から紫色の結晶が突出する。決勝が出てくると、ニンファの真っ白だった肌や青い瞳が紫に変色していき、頭部には四つの角が生え、背中には巨大なコウモリの羽が生えた。

「変異したのか！？人間の身で！？」

「異能者の力は変異化してからが本領を発揮する！つまりは、ここからは本気で相手をしてあげる！」

ニンファは手を捻って空気を刃の形として見える程にまで練り上げ、作り上げた空気の刃をコウに放っていく。

コウは迫りくる空気の刃を反射的にパンチで消し飛ばしたが、分散された空気がコウの体を通っていき、空気が通っていったコウの体に切傷が出来てしまう。

「無駄よ！空気はあらゆる形に変化する！殴ろうが蹴ろうが、空気の刃は確実にあなたの体を斬り裂いていく！」

調子づいたニンファは次々と空気の刃を作り上げ、コウに休む暇を与えずに繰り出していく。空気の刃を相殺出来ない事を身を持て知ったコウは、まだ使い慣れていない予知能力を頼りに走り出す。迫る空気の刃をギリギリで避けれる所で予知能力が発動し、頬や体にかすり傷を負いながら着々とニンファに近づいていく。

段々と距離を縮めてくるコウから逃げるように宙に浮かび上がったニンファ。その行動を予知であらかじめ知っていたコウは、ニンファが跳び上がった直前に自身も跳び上がった。

ニンファは慌てて空気の刃を作ろうとしたが、それよりも速くコウの拳が顔面にめり込み、床に勢いよく叩きつけられてしまう。辛うじて意識は保っていたが、腕に痺れが走って上手く空気を練り上げられなくなってしまう。

「くそっ！くそくそくそ！！！こんなのって！！！」

簡単に捻り潰せると思っていた相手に、ここまで打ちのめられ、ニンファは怒りの叫び声を上げながら、やけくそ気味に腕を大雑把に振り、鈍器と化した空気を壁へと放ち大穴を開けた。

「逃がすか！」

逃げ去ろうとするニンファをコウは右手からビームを放出する。ビームはニンファの左半身に直撃したが、それでもニンファは生きており、おぼつかない飛行で外に飛び出していった。

後を追おうとするコウだったが、視界の下の方で転がるゴーストに気付き、拘束具からゴーストを解き放つ。

「動けるかゴースト？」

ゴーストは目が回ったような動きをしながら、コウの影に入っていった。

「そこで休んでて。後は僕一人で―――」

「一人じゃないさ！」

逃げて行ったニンファを追おうと穴が開いた壁に近づいていくと、そこへトレイターが駆けつけ、コウに背を向けた。

「あの女が外に出ていくのを目にしてな。後を追うんだろ？だったら早く背に乗りな！」

「ありがとう、それじゃあ行こうか！」

コウはトレイターの背に飛び乗り、ニンファが逃げて行った方向へとトレイターは荒々しい飛行で飛び立っていく。

「逃げて行ったあの女、もうすでに死にかけだったみたいだが、次は殺れそうか？」

「・・・どうだろうね。」

「随分と弱腰だな。相手は虫の息だってのに。」

「前にミオから聞いた事があるんだ。異能者はシシャになり得る一つの道だ、と。異能者がどうやってシシャになるかは教えてはくれなかったけど・・・。」

「分からない事を不安がってちゃ、先は見えないぞ？」

「・・・そうだね。今は分かっている事だけに集中しよう！奴は致命傷を負っている、仕留めるなら今だ！」

僅かな不安感を胸に抱きながら、コウ達はニンファが逃げた先にある街、ストラム街へと目指す。