第25話

異能体は次々と剣を形成してレオに斬りかかるが、ことごとく剣を斬られてしまう。その度にレオは一度距離を取り、刀を鞘に納め、異能体を観察していた。


(こいつの鎧は一つの金属で出来てるんじゃなく、血管のような線が幾層にも重なって出来ているのか。一本の血管が負荷を負うと、他の血管がそれを支えて跳ね返す・・・なるほど、シェリルのような力で押し通る相手には滅法強いってタイプだな。)


繰り出される異能体の剣の連撃をレオは軽々と避け、心臓部に突きを放つタイミングを見計らう。

異能体の連撃を避けていく中、異能体の脇が外骨格に覆われていないのを目にした。

レオは異能体が左の方の剣を振ったのを避け、外骨格に覆われていない脇を斬りつける。斬られた異能体の左腕はパカッと開き、そこへレオは刀を異能体の心臓部に向けて突き刺した。

心臓を突き刺された異能体の体から外骨格がドロドロと溶けていき、体は灰となって空へと舞い上がっていく。


「厳つい見た目のわりには、地味な最期だったな。」


刀に付いた血を払い、刀を鞘へと納めると、地面で横になっているシェリルの元へレオが歩み寄る。

薬が効いたのか、シェリルの全身に負った火傷痕は無くなり、毒が抜けて顔色が良くなっていた。


「終わったぞ。」

「見てたよ、相変わらずタイマンでは敵無しだな。大勢を相手にすればあんなに必死な表情をするのにな。」

「俺も歳をとった。お前もいずれこうなるさ。」

「なら、若い内に大暴れしないとな!」


シェリルは飛び起き、地面に置いていた剣を足で拾って背中に背負う。二人は無事に変異体の群れを駆除する事は出来たが。周囲の惨状にどこか喜べずにいた。


「これから大変だな。一般人が変異体の存在を知ってしまえば、誰が人間に擬態した変異体かを探って暴動が起きてしまう。」

「いつかはそうなる事だっただろう。それよりも今は生存者を探す事を優先だ。シェリル、お前は船場まで歩いて生存者を探してくれ。俺は逆側を探す。」

「了解。」


二人は街の生存者を探しに別行動で二手に別れた。シェリルは船場までの途中で声を上げていたが、返事は無く、人の姿も見当たらなかった。そうして船場まで辿り着いたシェリルは、この惨状で生存者はいないと考え出し、タバコを吸おうと口に咥える。

しかし、肝心の火が点かず、何度も点けようと奮闘していると、背後から人の気配を感じた。その気配は常人とは違い、シェリルの体を暗闇が覆うような感覚を感じさせ、背中から寒気が上り、額からは汗が流れてきた。

咥えていたタバコを吐き捨て、背中に背負っていた剣を引き抜きながら振り向くと、そこにはネムレスが立っていた。


「どうだ、楽しかったか?」

「楽しいだと?あんな惨劇を起こしておいて言う事がそれか!」

「あれは俺が起こしたんじゃない、あいつらが勝手にやったんだ。俺はちょっと後押ししてやっただけさ。」

「ならお前も共犯者だ。お前が変異体を街に放ったせいで、これから面倒な事になるんだぞ!」

「おいおいおい!まるで善人の様な言い草だな!」

「なんだと?」

「奴らと戦い、肉を裂き、血を浴びて快感を感じただろ?隠そうとしても俺には分かる。お前は、俺と同じだ!」


ネムレスの言葉に怒りが沸き上がったシェリルだったが、ネムレスの言う通り、変異体との戦いで純粋に楽しんでいたのは事実で、何も言うことが出来なかった。


「図星か?」

「・・・ああ、そうだ。楽しかったさ。だが、私はお前とは違って―――」

「何が違う?他人の為に戦っていたとでも?いや、違うな。お前はただ自分が楽しければそれでいい。その為には他人がどうなろうが知ったこっちゃない。」

「・・・もういい。」

「・・・そうだな、もういい。こんなくだらない事で言い争っても、俺達の飢えは満たされない。」


ネムレスは右手にアイスピックを持ち、左手にリボルバーを持って戦闘態勢をとった。


「前の続きだ。今度は、本気でいく。」

「御託はいい、てめぇの顔を二度と見ねぇように、ここで殺す!」


勢いよく走り出してきたシェリルをリボルバーで撃つが、シェリルは弾丸を斬って接近し、間合いに入るとネムレスの顔面に向けて突きを放つ。迫ってくる剣をギリギリで避け、シェリルの脇にアイスピックを突き刺した。

更にシェリルの腹部に膝蹴りを当て、後ろに下がりながら弾丸を両足に当て、体勢を崩したシェリルの顔面に回し蹴りを放ち、倒した。

一瞬の出来事に、何が起きたか分からず困惑しているシェリルは、ただ目を見開いて自身を見下ろしているネムレスを見上げていた。


「言っただろ?今度は、本気だって。」


ネムレスはシェリルを見下ろしながらゆっくりとリボルバーの弾をリロードし、銃口をシェリルに向ける。


「じゃあな。」


引き金を躊躇なく引き、弾丸をシェリルの頭部に六発全弾撃ち込んだ。ネムレスは頭部から大量の血を流しながら目が虚ろになったシェリルの目を閉じ、脇に刺さっているアイスピックを抜き、骸となったシェリルを背に歩き始めた。

その時、ネムレスに激しい頭痛が襲い、そのあまりの痛みに頭を抱えて膝を崩してしまう。


「な、なんだ・・・!」


やがて視界にノイズが走り、何人もの声が聞こえてくる。訳も分からず苦しんでいると、声はある一人の女性の声で固定され、視界に走っていたノイズが晴れて声の主と思わしき人物の姿が映った。

その人物は漆黒の鎧を纏い、身の丈よりも大きな大剣を軽々と片手で持ち、黒い炎を周囲に覆わせていた。


『ここで・・・お前との戦いを・・・終わらせる・・・ネムレス!』


自分を睨む目に、ネムレスはその人物の正体が分かった。その人物は、先程殺したシェリルであった。

そこで視界は現実の世界に戻り、ネムレスは今見た光景に理解が追い付かなかったが、それが自身の過去についてだという事だけは理解出来た。

自身の過去を少しだけでも取り戻したネムレスは嬉しそうに笑い声を上げながら立ち上がり、後ろへ振り返る。

振り返ったそこには、死んだはずのシェリルが頭部から流れた血で顔を真っ赤に染まりながら、先ほど見た過去の映像と同じく恐ろしい形相でネムレスを睨んでいた。


「ははははは!!!シェリル!どうやら俺達の出会いは運命だったようだ!そして少しだが、俺は自分の過去を取り戻したぞ!」


手を広げて喜ぶネムレス。それとは裏腹に怒りで我を忘れていたシェリルは剣を拾う事なく、ネムレスに襲い掛かった。

ネムレスは記憶の続きを見ようともう一度シェリルを殺そうとアイスピックを構えたが、シェリルの右手から過去の映像で見た黒い炎が発現し、とてつもなく嫌な予感を感じたネムレスは咄嗟に海に飛び込んだ。

するとシェリルは海に向かって右手から発現した黒い炎を放つと、たちまち広い範囲で海が消え、クレーター状に開いた穴に残った海が滝のように流れ込んでいく。

流れる海の轟音で我を取り戻したシェリルは、自身に起こった変化に戸惑うが、どこか懐かしいような気がした。


「なんだろう・・・私は、前にも・・・。」


自身の右手に纏う黒い炎を眺めていると、目の前の空間に穴が開き、穴から伸びてきた腕に掴まれて引きずり込まれてしまう。



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