4章 力の代償

第28話

変異体が侵攻してきたロンドから逃げてきたレディは、ケイがいるサルサという街へと列車で向かっていた。

列車にはロンドから逃げ延びた人々で一杯で、みんな手を合わせて各々が信仰している神に祈っている。

レディは、一人分空きがある席を見つけ、そこに座ろうとするが、座っていた女性が二人の子供を抱きかかえながら、レディに怯えた表情で見つめてきた。


「お願いします・・・近くに、来ないでください・・・!」


(怯えている・・・無理も無い、人に擬態する変異体の存在を知ってしまいえば、他人を簡単に信じられなくなるもの。)


拒絶する女性に理解を示し、レディはその場から離れ、別の席を探し始める。だが。どこも席が埋められており、仕方なく前の方へと移ろうとした。


「お姉さん、座る所無いの?良かったら私達の前の方に座りませんか?」


二人の夫婦がレディに気を使い、前の席を譲った。レディは夫婦の前の席に座り、頭を下げてお礼をする。


「ありがとう・・・あなた達も、逃げてきたの?」

「ええ、大変な事になりましたね。まさか、街にあんな事が起きるなんて。」

「そうね。けど、この列車に逃げ込めて幸運だったわ!あなたの他にも逃げてきた人達が沢山いて!」


女がそう言うと、夫婦は嬉しそうに笑い声を上げた。そんな二人を前にして、レディは愛想笑いを浮かべ、腰に隠していた拳銃のセーフティーを外す。


「あの、よろしければお聞きしたい事が。」

「ん?何ですか?」

「あなた達の他に、あと何体この列車に潜んでいるんですか。」

「・・・ふふふ、あはははは!!!面白い娘だ!」


男が笑い声を上げながら、レディに手を伸ばしてくる。レディはその手を払いのけ、拳銃を抜き取り、男の眉間に弾丸を撃ち込んだ。

銃声が列車内に広がり、抑え込んでいた感情が破裂した乗客達は、悲鳴を吐き出した。

何人かが拳銃を持ったレディを抑え込もうと席を立つが、レディ達が座っている席から漂ってくる獣の臭いに怯え、足が震えて動けずにいた。

しかし、その席に座っていた女は、夫が撃たれたにも関わらず、甲高い声で笑い声を上げ、その異様な光景をレディは鋭い眼光で睨みつけていた。


「ははははは!!!あははははは!!!」

「あなたも隣の同族の様になりたくなければ―――」


レディが喋っている途中で、女はレディに飛び掛かり、レディは女の眉間に銃を撃とうとしたが、狙いが逸れた弾丸は女の左目に当たり、女は勢いが落ちないままレディの首を掴んでくる。

とてつもない力で締め上げられ、意識が薄まっていく中、レディは拳銃を女の腹部に当て、弾丸を三発撃ち込む。

多少のダメージがあったのか、女の締め付ける力が弱まり、レディは女の腹部を蹴り飛ばし、席から離れて拳銃の標準を女に合わせた。


「人間の癖に、小生意気な!!!」


女はゆっくりと立ち上がると、その姿を本来の獣の姿へと変異させていき、大柄な狼の姿へと変わった。


「やはり、変異体か・・・。」


変異体はレディに飛び掛かり、レディは横にくるりと避けて、拳銃を変異体に撃ちながら、端っこに置いてきた自分の荷物の方へと向かう。

弾丸を受けた変異体だったが、拳銃の弾では致命傷にはならず、多少痛がる程度の物だった。

荷物が置いてある場所に辿り着いたレディは、逃げる時に持ってきた剣を取り、変異体の方へと向かっていく。

レディを追っていた変異体は、途中で見つけた二人の子供を抱きかかえる女性の恐怖で怯える姿に見惚れ、レディからその女性に標的を変えていた。


「いい表情だ!さぁ、お前が抱えている子供の表情も見せろ!」


変異体は毛むくじゃらの大きな手で女性が抱きかかえている子供へ伸ばしていく。女性はその手から子供を守ろうと自らの背中を変異体の方に向け、子供達の盾になる。


(誰か・・・!)


最早これまでと諦めていた女性だったが、いくら待ち構えていても、あの大きな手が自身に触れる事は無かった。

女性が恐る恐る振り向くと、そこにはどこからか伸びてきた剣の刃が、まるで縄の様に変異体の体を縛り付けていた。


「ぐ、ぐぎぎぎ・・・!!!」


刃が伸びてきた方に視線を移すと、そこには剣を握り締め、目の前の変異体よりも恐ろしい眼光で変異体を睨みつけていた。

レディが勢いよく剣を引くと、変異体の体に巻き付いていた刃が変異体の体を斬り裂き、上半身と下半身が真っ二つになって床に崩れ落ちていく。

突然の出来事に列車内は静まっていたが、すぐにこの窮地を救ったレディに、乗客達から歓喜の声が上がった。


「や、やった!あの人がこの化け物を殺したぞ!」

「すげぇ!あんな化け物を!」

「ありがとう!ありがとうございます!」


歓喜する乗客達であったが、変異体を倒した当の本人は、未だ表情を緩める事は無かった。


(変異体があの二体だけとは思えない。仲間がいるか聞いた時のあの二体の反応を考えるに、他の車列にも恐らく・・・。)


感謝の意を伝えようと押し寄せてくる乗客達を押しのけ、レディは前の車列へと移っていく。

前の車列に移ると、突然レディが拳銃を天井に向けて発砲する。銃声が鳴り響いた列車内から悲鳴が沸き、乗客達は身を丸ませて怯え始めた。

レディは拳銃と剣を構えながら自分を怯えた表情で見つめてくる乗客達を見ていく。

すると、明らかに演技臭い怖がり方をする男を見つけ、レディは咄嗟に銃口をその男に向けた。

銃口を向けられた男はさっきまでの怖がっていた表情を一変させ、先程の変異体と同じ狼の姿へと変異して、レディに襲い掛かった。

レディは大きな口を開けて迫る変異体の足元を斬りつけ、体勢を崩していく変異体の頭部に拳銃で追い打ちをかける。

変異体の姿を見た乗客達は叫び声を上げながら後ろの車列に逃げ込み、レディは更に前の車列へと移動していく。

前の車列に移動すると、もう既にその列の乗客達は二体の変異体に食い殺されていた。

レディは剣を後ろに構え、勢いよく突き出すと、剣の刃が前に伸びていき、二体の変異体の体を貫いた。

剣を引いて刃を元に戻し、更に前の方へと移動しようとするレディだったが、向かう途中で、列車の上にいた変異体の腕が屋根を突き破り、その穴から変異体が次々と列車内に入ってくる。そこへ更に、前の車列からも変異体が現れ、前後の道を塞がれてしまった。


「次から次へと・・・!」


弾切れになった拳銃を投げ捨て、フェンシングのように剣を構えて、前と後ろにいる変異体達を迎え撃つ。


「人に害をなす害獣は、一匹残らず殺してあげる。」

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