第14話
ケイが見つけた変異体の集落に来た二人は、木の上から変異体の動きを監視していた。ケイの言った通り、大勢の子分の変異体がいる中央に、火で囲まれた場所に親玉と思われる変異体が座り込んでいた。親玉は人の姿に擬態しており、長い髪が顔を覆い、子分達とは違い、体格は小柄で痩せ細っている。
「それで計画は?」
「計画?そりゃもちろん、囮作戦だ。」
「囮?誰が?」
すると、ケイはシェリルに木の上から突き落とされ、集落にいた子分の変異体に見つかってしまう。
「あ・・・へへ。どうも・・・。」
変異体達は鳴き声を上げ、苦笑いを浮かべているケイに向かって走り出してくる。
「ちくしょう!シェリルてめぇ憶えとけよ―――!!!」
ケイは向かってくる変異体達から逃げるべく、一心不乱に集落の外へと走っていった。
集落には親玉の変異体だけが残り、シェリルは木の上から下りて変異体の元へと歩いていく。
変異体は歩いてくるシェリルを目視すると、四方を囲っていた火を消し、暗闇に隠れた。シェリルは暗闇の中、聴こえてくる音だけに集中し、どこから襲ってくるかを予測する。
すると、前方から殺気を感じ取り、飛んできた何かを剣で弾く。剣で弾いたソレはよく見えなかったが、鋭く尖った石のように思えた。
シェリルが飛んできた方へと走っていき、剣を振るが手応えが無く、また別の方向から石が飛んでくる。体を捻って避け、飛んできた方へ斬りかかるが、またしても手応えを感じなかった。
(こういう相手は苦手だ。こっちはぼんやりとしか見えないのに、相手はこっちの姿がはっきりと見えてる。)
シェリルはポケットにある光を発生させる球体を足元に落とし、スイッチを押す。一瞬だけ暗闇が晴れ、変異体の姿を確認できたが、次に光を発した時にはまた別の場所にいた。
(流石に一か所に留まってはくれないか。なんとか奴の足を止めないとな。)
暗闇の中、変異体が次の攻撃を仕掛けてくるのをじっと待ち続ける。しばらくすると、右の方から石が飛んでくるのを察知したシェリルは、剣を振ると同時に光を発し、変異体の居場所を確認して、そこへ石を打ち返した。
再び暗闇に包まれると、打ち返した場所から叫び声が聞こえた。シェリルは光を発しながら、足から血を流して動きづらそうにしている変異体に向かっていく。
「さぁ、今度はこっちの番だ。」
足を止め、ここから一気に攻めて終わりにしようと思った矢先、変異体の前髪の間から見える瞳に文字が浮かんだ。
すると、変異体のか細い腕に燃え盛る炎が纏われると、周囲に炎を纏った衝撃を放った。
「なにっ!?」
咄嗟にシェリルはコートで衝撃から身を防ぐ。コートは燃え上がり、衝撃に触れた周囲の木にも火が燃え上がった。急いでコートを脱ぎ、再び変異体の姿を目にすると、変異体の姿は先程とは全く別の物へと変異していた。
外見は子分達と同じ猿の容姿だが、頭部には太く捻じ曲がった角が二本生え、腕と下半身が炎と化している。その姿はさながら炎の化身とも言うべきだろう。
「こいつは・・・予想外だ。」
予想外の出来事に思わず額から汗を流す。変異体は炎の球体を練り上げ、シェリルへと放つ。シェリルはそれを真正面から斬り裂くが、剣の刀身が炎の熱で赤くなる。変異体が次々と炎の球をシェリルに飛ばしていき、その球を斬り裂くたびに、徐々に剣の刀身が溶けていく。
このままではジリ貧だと思ったシェリルは、飛んでくる球を避けながら変異体の元へと行こうとしたが、炎の球を避けても球から発生する熱によって、球の近くだった左腕に火傷を負ってしまう。
「ぐっ!?くそおぉぉぉ!!」
火傷の痛みを感じながらも変異体の元へ走り、飛んできた球を斬り裂くと、遂に剣の刀身が完全に溶けて無くなってしまう。使えなくなった剣を放り投げ、尚も変異体に向かっていくと、変異体は自身の目の前に炎の壁を作り出し、近づかせまいとしてくる。
しかし、シェリルは臆することなく炎に飛び込み、懐に携帯していたナイフで変異体の胸に刺し込んだ。
変異体の体も炎のように熱くなっており、刺し込んだナイフの刀身が溶けていく。完全に溶けて無くなるその前に、シェリルは変異体の胸元を斬り裂き、体内にある心臓に手を突っ込んだ。心臓を掴んだ手の平に激痛が走るが、ここで手を引き抜けば焼き殺されると分かっていたため、根性で耐えて心臓を変異体の体内から引き抜いた。
心臓を失った変異体は悲し気な断末魔を上げ、体は黒く変色し、灰となって空に舞い上がっていく。
「う、ぐぅぅ、がぁぁぁ・・・!」
火傷を負った右手と左腕から感じる激痛に歯を噛み締めて耐えるが、意識を保てなくなり、その場に前のめりに倒れ込んでしまう。
意識を失ったシェリルは、以前夢で見たルミナスの花が咲き誇る野原に立っていた。そこには自分以外誰も存在せず、生き物の鳴き声や風さへ吹かず、空には雲も太陽も存在しない青い空が広がっている。
ふと、自分の手の平を見ると、手の平には誰の物か分からぬ血がついており、次の瞬間、黒い炎が手の平から燃え上がり、やがて全身を包み込んでいく。痛みは感じなかったが、胸の奥が締め付けられ、悲しみと怒りが込み上がってくる。
「うぁぁぁぁ!!!!」
悲しみと怒りに支配されたようにシェリルは泣き叫び、それと同時に燃え上がっていた黒い炎が周囲のルミナスの花に燃え広がっていく。
「シェリル!!!」
「・・・っ!?」
シェリルが目を覚ますと、目の前に涙を流して自分の名を叫び続けているアイザがいた。
「アイザ・・・。」
「良かった・・・本当に・・・!」
アイザはシェリルを優しく抱きしめ、シェリルの頬に自分の頬を擦り付けてくる。シェリルが自分の手の平を見ると、黒い炎など無く、火傷を負った箇所に包帯を巻きつけられていた。
「そうか・・・私はあの変異体と戦って、気絶したのか。」
「ケイさんがシェリルを運んできてくれて・・・ロンドの病院に連れてきたの・・・半日以上目を覚まさなかったんだよ・・・。」
「半日も・・・悪い、心配かけたな。」
アイザの頭をポンポンと優しく叩き、落ち着かせようとしたが、アイザは一向に泣き止む事は無かった。
すると、病室の扉が開き、ケイとレオが部屋に入ってくる。
「ケイ・・・レオ・・・。」
「ようやく目を覚ましたか。アイザちゃんったら、意識を失ったお前を見るや否や泣き叫んじまって、もう大変だったよ。」
「すまん。迷惑かけたな、ケイ・・・アイザ、二人に話があるから、少しだけ外してほしい。」
「やだ・・・。」
「頼むよ、後で一緒にいるから。」
アイザは渋々シェリルの元から離れ、未だ止まらない涙を手で拭いながら部屋から出ていく。
「さて・・・二人に話があるのは、私が対峙した変異体についてだ。」
「あの猿共の親玉の事か?」
「ああ、私はてっきり族型だと確信してたが、そいつは特殊な変異体だった。」
「特殊な?」
「・・・詳しく聞こう。」
ケイは壁にもたれかかり、レオは椅子をシェリルの隣に運び、座り込んだ。
「奴は本来の猿の姿に変異したかと思うと、更に容姿が変異していき、魔法のような方法で襲ってきたんだ。」
「魔法?そんな馬鹿な!」
「信じられないのは分かるさ。だが実際、奴の炎で私は瀕死にまで追い込まれてしまった!あんな変異体は初めて見た!」
「・・・その変異体の瞳に、文字が浮かんでいなかったか?」
レオの言葉に思わず顔をレオの方へと向けた。
「ああ・・・何か知っているのか?」
レオは口を開こうとしたが、突然下を向き、苦渋の表情を浮かべた後、シェリルの腕に巻かれた包帯を目にし、何かを決意した顔でようやく話し始めた。
「お前に話していなかった事がある。10年前、俺と俺の弟、ブラッドが招いた悲劇・・・異能体の誕生を。」
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