第13話

変異体は大振りな腕の薙ぎ払いで周りの木もろとも薙ぎ払っていく。飛んでくる木の塊をケイは軽快な動きで躱していき、変異体の体を斬りつける。たまらず変異体が木の上に隠れようと跳び上がると、空中でシェリルが回転をくわえた蹴りで地面に落とした。

地面に着地したシェリルはすかさず変異体の元に走り出し、その後ろからケイがクロスボウでシェリルの前方にいる変異体に矢を発射する。

変異体は起き上がりざまに矢を両目に刺され、喚きながら無茶苦茶に腕を振っているところへシェリルが頭部に飛び込み、眉間に剣を突き刺した。

力なく倒れていく変異体はドサリと地面に倒れ、シェリルは剣を引き抜いて血を払う。


「やった・・・やったね、シェリル!」


二人の戦いを見ていたアイザはライトの明かりをシェリルに照らしながら近づくと、シェリルの目線は倒した変異体でなく、暗闇に包まれた森の奥深くに向けられていた。ケイの方も見ると、やはりシェリルと同様、森の奥の方を見ていた。


「シェリル、聞こえるか?」

「ああ・・・うじゃうじゃいやがる。」


アイザは二人が見ている視線の先にライトの明かりをゆっくりと向けた。そこには大勢の猿の変異体がこちらに向かって走ってきていた。


「嘘・・・一体だけじゃ・・・わっ!?」


呆然としているアイザをシェリルが担ぎ上げ、変異体達から逃げ出す。ケイは二人の後ろにつき、クロスボウで追ってきている変異体を撃ちながら、二人の後を追っていく。


「アイザ!ライトの明かりを消せ!しっかり私にしがみついていろ!」

「でも、それじゃあ前が見えないんじゃ!」

「大丈夫だ!薄っすらだが見える!」


ライトの明かりが消えると周囲が暗闇に染まり、目の前の景色すらも見えない状況に陥った。だが、シェリルとケイは走るスピードを落とす事なく、それどころかスピードを上げて森の中を駆けていく。

そのまま前へ前へと進んでいくと、茂みに入り、茂みを抜けると森の外へと脱出する事が出来た。

シェリルとケイは森の方へ振り返ると、追ってきていた変異体達の赤い目が暗闇の中で不気味に光り、また森の中へと戻っていった。


「集団で、一定のテリトリーから出ない・・・・なるほど、奴らの事が大体分かってきたぞ。」


猿の変異体について何かを掴んだシェリルはアイザを下ろし、剣を背に戻す。


「ここから一旦離れ、村の宿屋で今後について話し合おう。」

「はぁ・・・はぁ・・・わ、分かった。」


平然としているシェリルと正反対にケイはすっかり息が上がっており、宿で休む提案を快く承諾した。

先に戻ろうとするケイだったが、後ろからシェリルに肩を掴まれてしまう。


「ど、どうしたシェリル?」

「お前は偵察に行ってくれ。」

「え!?何で俺が!?」

「お前偵察が得意だったろ?あの森の中に奴らの集落があるはずだ。そこを探してきてくれ。頼んだぞ。」

「とほほ・・・。」


ケイは肩を落としながら森の方へと向かった。時折二人の方へ悲しそうな表情で振り向くが、二人に気味の悪い物を見るような目で睨まれ、涙を流しながら森の中へと走っていく。


「ねぇいいの?ケイさんだけで・・・。」

「あれでも私以上に場数を踏んできている。私達が心配するだけ無駄さ。さぁ、私達は宿で少し休みながら今後について考えよう。」


シェリルはアイザの肩に腕を回し、村の宿へ歩いていく。村の宿に着き、二人は一人用の部屋に入って一つのベッドに隣合わせで座り込む。


「はぁ、面倒な事になったな。まさか一体だけじゃないとはな。ありゃ、恐らく族型だ。」

「族型?」

「一体の変異体が統制するタイプの事だ。族型は一定のエリアを縄張りとして、長の命令に従って動く。あの森の何処かにきっと親玉がいるはずだ。親玉を殺せば子分共も一緒に死滅する一蓮托生の奴らだ。面倒なのは肝心の親玉が滅多に現れないから、見つけるのに一苦労するって事。」


シェリルはポケットからタバコを取り出し、火を点けようとしたが、森の中にライターを落としてしまい、タバコを咥えたままベッドに寝っ転がる。

タバコを吸えずに不機嫌になったシェリルを見て、アイザは自分のリュックから家で作ってきた弁当を取り出し、膝の上に置いた。

アイザの膝にある弁当箱を見たシェリルはバッと起き上がり、咥えていたタバコを床に吐き捨てる。


「食べよう、すぐ食おう!」

「ふふ、本当はお仕事が終わってからにしようとしたけど。」


弁当の蓋を開けると、多種類のサンドイッチが弁当箱に詰められていた。シェリルは一気に二種類のサンドイッチを取り、口を大きく開けかじりつく。口いっぱいに広がる色々とごちゃごちゃに混ざった味が奇跡的にマッチし、サンドイッチを頬張りながらベッドへと倒れ込んでいった。


「・・・美味いわ。」

「普通、一個ずつだけどね。シェリルが良いなら良いけど。」


続いてアイザもサンドイッチを一つ取り、少しづつ食べていく。アイザが食べている間にもシェリルは続々と食べていき、アイザが一つ食べ終わる頃には、弁当箱の中は既に空っぽになっていた。


「もう、食べちゃったんだ・・・。」

「・・・ごめん。」

「あ、あははは・・・次からはもっと用意しとこ・・・。」


その後、二人並んでベッドに横になりながらゆったりとした時間を過ごしていると、部屋の扉が開き、息を切らしたケイが話しながら部屋に入ってくる。


「はぁはぁ、シェリル!見つけたぞ!奴らの・・・!」


ケイは二人がベッドで横になっている所を見て、思わず目を丸くした。


「・・・悪い、出直す。」

「おいおいおい!何を勘違いしてるんだ!」


部屋から出ようとするケイをシェリルが引き留め、椅子に座らせた。


「で?見つけたんだろ?親玉の居場所を。」

「あ、ああ。森の中を進んでいくと開けた場所に出たんだ。そこには子分の変異体が集まっていて、四方に火を灯した所にいたよ。親玉が。」

「流石だ。じゃあ早速行こうか。」


シェリルとケイが立ち上がり、部屋から出ようとすると、その後に続くようにアイザもついてきた。


「アイザはここにいて。」

「え?」

「見学はここまで、ここからは本腰を入れて仕事を始める。戦えないアイザは連れてはいけない。」

「で、でも!」


続きを言いかけた所にシェリルはアイザの頭を撫で、笑顔を見せる。こういう時に見せるシェリルの笑顔が、アイザは嫌いだった。だが、シェリルが言っている事も正しく、戦えない自分が行っても邪魔になるだけだと。

アイザは渋々頷き、シェリルに背を向けるように部屋のベッドに横になった。

シェリルとケイは村の宿から出て、森の入口に来ると、ケイが話しかけてくる。


「おい、いいのか?」

「・・・いいんだ。アイザを危険な目には合わせられない。」

「けどな、いつかは変異体との戦いに付き合わせるんだろ?だったら今の内に慣れさせときゃいいじゃねぇか。」

「戦うのは私だけでいい・・・今は。」


そう言い残し、シェリルは先に森の中へと入っていく。


「ったく・・・レオに似てるんだか、似てないんだか。」


溜め息を吐きながら、ケイも森の中へと入り、猿の変異体の親玉がいる場所へと向かっていく。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る