第20話

森を走り抜け、村に戻ると、村は火の海と化し、逃げ惑う村人達を狂犬達が追いかけていた。狂犬が村人を噛み殺すと、村人の体が激しく痙攣した後、村人は狂犬の姿へと変異していく。

あっという間に村人達は狂犬へと変異され、その中央でミーシャが大声で泣き叫んでいた。

シェリルは剣を大剣に変え、狂犬の群れの中にいるミーシャの首を取りに走る。


「さぁ、第二ラウンドと行こうか。」


狂犬達は一斉に駆け出し、向かってくるシェリルに襲いかかった。シェリルは向かってきた狂犬達を大剣で薙ぎ払い、狂犬達の先にいるミーシャを目指す。だが狂犬の群れがそれを阻み、中々ミーシャの元へと辿り着けない。

そこでシェリルは大剣を銃剣に変形させ、弾倉を装填して周囲を取り囲む狂犬達を撃ち殺していく。

薬莢がシェリルの足元に山と積まれた頃には狂犬達は全滅し、残るはミーシャだけとなった。

ミーシャは涙を拭い、シェリルを見るや否や、声を響かせてくる。シェリルを銃剣を大剣へと変形し、大剣を盾にして声の攻撃を防ぐ。声が途絶えた瞬間にシェリルは大剣を肩に担ぎ、次の声の攻撃を受ける前にミーシャの懐に走り出す。

しかし、あと少しの所でミーシャの声を受けてしまい、シェリルが振った大剣が空振りとなってしまう。

吹き飛ばされてしまったシェリルだったが、すぐに体勢を取り戻し、銃剣へと変形させてミーシャに発砲する。ミーシャは上に飛ぶ事で弾丸を避け、追い打ちで撃ってきた弾丸を旋回しながら避けていく。弾が尽き、装填しようとする隙を見せたシェリルに上空から声で攻撃する。

シェリルは一旦銃剣を剣に変形し、撃ち下ろしてくる声から避けるために燃え上がっている家の窓から中に飛び込んだ。


(ちっ、意外と動きが速い!それにあの声はやたらと体に響く。体が駄目になる前に、あいつを上から引きずり落とさないとな。)


するとシェリルは、銃剣に変形させると通常の弾倉ではなく、一発の赤い弾丸を銃剣に直接装填し、息を整えてから外へ飛び出していく。幸運な事にミーシャはシェリルが隠れていた家とは違う家に目を向けており、シェリルは助走をつけて跳ぶと同時に、自分の真下に赤い弾丸を発射する。地面に着弾した弾丸は爆発し、爆発の反動でシェリルの体が勢いよく上空へと浮き上がった。

空中で一瞬制止すると、ミーシャがいる場所へと一直線に落ちていく。シェリルは銃剣を大剣に変形し、体を二度回転させて、回転した勢いを利用してミーシャの体を真っ二つに斬り裂いた。


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


ミーシャは金属音のような断末魔を上げながら地面へと落下した。シェリルは大剣を背中に背負い、家の屋根に向かって落ちていった。


「どうして・・・どうして、私が、こんな目に・・・!」


真っ二つにされても尚、意識があるミーシャは自身の惨状に嘆いていた。彼女はただ仲間が欲しかっただけだったというのに、村人からは化け物と呼ばれ、突然現れたシェリルに自身の仲間となった村人を壊滅させられ、自分の体は修復不可能の傷を負わされてしまった。

泣き叫ぶミーシャだったが、ふと耳に聞き馴染んだ声が聞こえてくる。声のする方へ顔を向けると、森から這いずって自分の後を追ってきたリサがミーシャの名を叫んでいた。


「ミーシャ!!!」

「リサ・・・っ!?」


リサが無事だった事に安堵するや否や、後ろの方にある家の壁が吹き飛び、中から大剣を引きずって歩いてくるシェリルが現れた。

燃え上がる炎をバックに映るシェリルの姿を見たミーシャは、村人達が何故自分を恐れたのかを理解した。本当に恐ろしい者に遭遇した時、話しかける・逃げ出すのではなく、ただひたすらと感じる不安感から排除しなければという本能に駆られると。

声でシェリルを吹き飛ばそうとしたが、血が喉から上り、血を吐き出すせいで声を出せない。


「がはぁ・・・!」

「もう声を出せないようだな。」

「はぁ・・・はぁ・・・!」


大剣を振り上げたシェリルを見てミーシャは自分の死を悟った。


「・・・くっ!リサ―――!!!」


ミーシャは自身に残された力を声に集中し、遠く離れた場所で這いずるリサに声を響かせる。


「リサあなたは・・・ゲホッ・・・ぐっ、あなただけは生きて!!!」

「ミーシャ!!!」





「さようなら・・・私の、たった一人の・・・お友達。」


振り落とされた大剣がミーシャの首を刎ね、ミーシャの頭部が空中に浮かんだ。その光景がスローモーションのようにゆっくりとリサの目に流れ、虚ろな瞳をしたミーシャと目が合った。


「あ、ああ・・・あああああああああ!!!!」


リサは発狂した。首を斬られる直後、ミーシャがリサに一番伝えたかった事を言ったが、限界を迎えていたせいで声が出ておらず、リサには届いていなかった。


「あぁ・・・ミーシャ・・・私の、私のミーシャが・・・!」


リサの脳裏に浮かぶはミーシャとの楽しかった思い出。そしてそれは次第に変わっていき、今度は村での自身の生活の記憶。両親を早くに亡くし、やんちゃな子供に自身の片足を傷つけられ、それ故に義足で生活する事になった。そんなリサを誰も介護してくれる者はおらず、まるでリサが村に存在していないように扱われていた。


「は、ははは・・・あはははっは!!!そうだ!そうだそうだそうだ!!!誰も私を見てくれない!友達だと思ってたミーシャも私を置いて死んじゃった!私はずっと独りぼっちなんだ!!!」


内から湧きだす狂気の感情を抑えきれず、狂気そのものに支配されたリサは徐々に壊れていく。


「全部無くなっちゃった!!!家族も!家も!友達も!!!全部、全部全部全部!!!」


すると、リサの無くなった片足から新たな足が生え、リサの体は異形の存在へと変異していく。細かった手足は大木のように太くなり、無垢な少女の顔は、涙の跡が残る獣の顔となり、不気味な笑みを浮かべていた。


「・・・そうだ。周りのみんなの大切な物も全部無くしちゃえば、みんな独りぼっちになる・・・そうだそうだ!そうすれば私は、もう独りぼっちじゃなくなるんだ!あははは!」


「そんな事をしても、君は独りぼっちのままだ・・・ずっとな。」


リサだった獣を見て、シェリルは冷たい視線を送りながら呟いた。


「君はもう人間じゃない。お前は化け物と化したんだ。失った物に耐え切れずに変異した哀れで醜い・・・異能体にな。」









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