7章 孤軍奮闘

第47話


「あのまま成長させればどんな事になるか分からない。ここは先手必勝で!」


コウは再臨者となったセレナにビームを放った。するとセレナの顔面に咲いた花がビームを吸い込んでいく。ビームを吸収したセレナの体に金色の光が灯り、人型の姿から巨大な花へと急成長を遂げた。


「吸収した!?」


花びらが閉じると中にあるナニかが膨大していき、再び花びらが開くと沢山の金色の粒子が空へ舞い上がり、地上にいるコウとブロックに向かって髪の毛のような細いビームとなって降り落ちてくる。

落ちてくるビームを相殺しようとコウが右手を構えると、ブロックがコウの前に立ち、鎧を纏った瓦礫を盾として扱い、降り落ちてくるビームを防いだ。


「やみくもに攻撃をするな!ネムレスが仕組んだ力だ。そう簡単に倒せはしない!」


ビームを全弾防いだブロックだったが、突然足元から植物のツタが生え、ブロックの足首を掴み、地面に引きずられていく。

残されたコウの前にもツタが生え、コウの体を拘束しようと伸ばしてくる。コウは高く跳躍し、ツタから逃れる事は出来たが、本体の花の顔がコウの方へと向けられており、柱頭に溜められていた粒子の塊が一本の太いビームとなって放たれた。

コウも対抗しようとしたが、花が放出したビームを相殺出来る出力のビームを放つには数秒のチャージ時間が必要な為、間に合わない。

そこへ間一髪の所でトレイターがコウを掴み、ビームをギリギリの所で躱すことが出来た。


「ありがとう、助かったよ。」


「そらどうも。にしても、何なんだあの植物怪獣。」


「ニンファ・・・いや、セレナさんが再臨した姿だ。」


「再臨?聞いた事もねぇな。」


「僕もだ。トレイター、奴に近づいてくれ。」


「何か策でも?」


「さっきビームを吸収された時、柱頭に吸い込まれていったのを見た。おそらくあそこを壊す事が出来れば吸収されない。」


コウを背に乗せ、トレイターは花に向かって飛んでいく。すると向かってくるコウに向かって花は柱頭からビームを放出してくる。

トレイターは上下左右に激しく動き回って避け続けていくが、掠めた右翼が消失し、落下してしまう。

落ちていく中、コウはトレイターの背から勢いよく跳び上がり、反動でトレイターは建物へと吹き飛ばされていった。

手からビームを出して加速していき、その勢いを利用して花の柱頭に蹴りを当てた。コウの蹴りは吸収されず、潰れた柱頭から赤い血が滝のように地上へと流れ落ちていく。


「今度こそこれで決める!」


左手からビームを放って花に接近し、潰れた花の柱頭に右手を突っ込んでビームを撃ち込んだ。

これで仕留めた・・・かに思えたが。


「っ!?」


コウは花の中に突っ込んだ右手に違和感を覚えた。誰かが自分の手を握っている感覚を。

中に突っ込んでいた右手がどんどん押されていき、穴の中からコウの手とは違う灰色の巨大な手が出てくる。


「花の中から人の手だとっ!?」


穴から全貌が現れ、出てきたのは灰色となったサレナだった。まるで石像のように表情一つ動く事なく、コウを空高く投げ飛ばし、手の平に息を吹きかけて飛ばした金色の粒子がコウに襲い掛かる。

コウは吹き飛ばされながらも自身に向かってくる金色の粒子に気付き、上空に向けて高出力のビームを放ち、ビームの反動で自分の体を地上に落下させた。

粒子から逃れる事が出来たコウだが、上空から猛スピードで地上に激突したダメージは、力を消耗しているコウの体に堪えるものであった。

力を消耗して弱っているコウ。そんなコウに無情にもセレナは地中から生やした根をコウの体に巻き付かせ、今まで放った金色の粒子を一つの大きな球体として集め、地上にいるコウに落とす。

雫のように落ちてくる金色の粒子。コウは逃げようと巻き付いている根を千切ろうとするが、思うように体に力が入らない。


(力が入らない・・・あの粒子が僕の力を吸い取っているのか!?)


コウの予想は大当たりだった。力を消耗し続けているコウに対して、落ちてくる金色の粒子の集合体はどんどん大きくなっていた。サレナが放っていた金色の粒子は一つの生命体であり、付着した物や周囲の酸素や二酸化炭素といった元素を吸収する。コウは粒子を避けていたつもりだったが、既に空気中に分散されている目に見えない程の小さな粒子がコウの体に付着しており、コウの体から吸い取った力を粒子同士で渡していき、一つの集合体となりえたのである。

身動きが取れず、体から力を吸い取られていて巨大なエネルギー体がゆっくりと着実に落ちてくる。絶体絶命に立たされたコウ。

その時だった。巨大な金色の粒子が黒い炎によって包まれ、黒い炎が消える時にはまるで喰い尽くされたかのように金色の粒子は消えて無くなっていた。


「黒い炎・・・?」


何が起きたのか理解出来ずにいたコウ。それはサレナも同じようで、表情こそ変わっていなかったが、突然の黒い炎の出現に思わず身を反らしていた。

突如として発生した黒い炎の存在に続き、コウが立つ場所から少し後ろの方の空間に切れ目が入り、そこから灰色の髪をした黒いコートを着た者が現れる。

その人物の背には身の丈と同じ程の大剣を背負っており、伸びた前髪が風で揺れて見え隠れする眼光は殺気に満ち溢れていた。

その人物が現れた所を離れた場所で傍観していたネムレス。吸っていたタバコを落とす程の衝撃が走り、歯を見せるほどの口角が上げ切った笑顔を浮かべていた。


「シェリル・・・!」

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