第48話
コウと同じくネムレスの配下の居場所を探し回っていたシェリルだったが、サレナが再臨した際にシェリルが持つ野生の勘が刺激され、自身の勘を信じてブラッドに頼み込んでこの場所に運んでもらったのだった。
勘は当たっており、シェリルの目の前には見上げる程大きな花と化したセレナが存在していた。
「勘を頼りに来てみれば、こりゃまた馬鹿デカイ花だ事で。さーて、どう駆除したものか。」
サレナの姿を見てどう戦おうか考えているシェリルの目に、根に巻き付かれて身動きが取れずにいるコウが入る。
「子供が・・・?今助けてやるからじっと―――」
シェリルが一歩前に出た時、シェリルを囲むように地中から根が現れる。
「まずい・・・その根に巻き付かれたら最後だ!人間のあんたじゃ―――」
「ヴラァッ!!!」
シェリルは背負っていた大剣を抜き、野太い声を発しながら周囲に現れた根を一瞬にして斬り裂いた。
「一太刀で!?」
人の身で、そして女の体であれほど巨大な剣を扱うシェリルの姿に驚くコウ。そこへ重い銃声が響き、コウに巻き付いていた根が次々と弾け飛んでいく。自由の身になったコウだったが、力が入らなくなったコウはそのまま倒れてしまう。
「おい、大丈夫か!?」
倒れたコウに駆けつけてきたのは大型のライフルを持ったブロックであった。ブロックはコウを担いでその場から離れようとした時、彼はシェリルの姿を目にする。
「シェリル?」
前の世界にいた時と同じ姿のシェリルを見て、この最悪な状況下だというのにブロックは満面の笑みを浮かべていた。
それとは裏腹に、シェリルはこちらを笑顔でジッと見つめてくるブロックを不審に思っていたが、すぐにサレナの方へと視線を移した。
「シェリル・・・やっぱりあの人は・・・。」
「ああ・・・同じだ。何も変わっちゃいない。戦う事しか頭にない狂人だよ!」
するとブロックはシェリルやサレナから背を向け、自身の車を停めている場所にまで走り出した。
「待ってください!あの人を置いていくつもりですか!?さっきの感じでは、あなた達は友人なんでしょう!?」
肩に担がれているコウはブロックから離れようと抵抗するが、力を消耗しているコウではブロックの拘束に抵抗出来るはずはなく、車の前に辿り着いたブロックは担いでいたコウを助手席に投げ込んだ。
コウはすぐに車から出ようとしたがタイミングが悪く、勢いよく閉めたドアに頭をぶつけ、頭を押さえながらうずくまってしまう。
「あ、悪い。」
運転席に乗ったブロックは軽く謝罪すると、すぐに車を動かしてこの場所から離れようとする。
「くっ・・・友人を見捨てて逃げるなんて、なんて人だ・・・!」
「勘違いするな。俺達があいつの邪魔になるから離れるだけだ。」
「邪魔に?」
「すぐに分かるさ。」
ブロックはサイドミラーから映る後ろの状況を横目で確認する。続いてコウもサイドミラーに目を移して見ていると、花のてっぺんに生えてきていたサレナの右腕が外れ、断面からおびただしい量の血が滝のように流れていた。
「腕が!?一体何が!?」
「シェリルが斬ったんだ。」
「斬った!?けど、いくら彼女が扱う大剣が大きい物でも、あの巨体を斬り裂くのは不可能ですよ!」
「あいつは不可能を可能にする根性がある。おそらくだが、首を斬ろうとして邪魔が入り、止む無く右腕の方を斬ったな。」
そう言うブロックの表情は、懐かしい思い出を語る穏やかなものに見えた。さっきまでシェリルの身を心配していたコウだったが、あの光景を見せられ、そんな心配などどこかへすっ飛んでいってしまった。
すると突然、猛スピードで走っていた車が急停止し、シートベルトをしていなかったコウは勢いよくフロントガラスに頭をぶつけてしまう。
「痛っ・・・急にどうしたんですか!?」
さっきから頭をぶつけられ続けていた所為で、コウは少しイライラしていた。怒号を発しながらブロックの方を見たコウだったが、ブロックの顔色は青ざめ、目を丸くしていた。
「まずい・・・シェリルはあれがサレナだと知らない・・・あのままじゃセレナが殺される!」
車を180度方向転換し、再びサレナの方へと戻っていく。
「最初にサレナがあの姿に変化した時は殺すしかないと思っていたが、根に足を引っ張られている間に一つ思いついたんだ。ネムレスが言っていた事を憶えているか?」
「体に種を植え付けていたって奴ですか?」
「そうだ。要はその種がサレナの変化させた要因だ。となれば、その種を取り除く事さえ出来れば元の姿に戻せるはずだ!」
「けど、種は植え付けた人物が死んだ時に発現するって言ってましたよ?もし種を取り除いても、死体に戻るだけじゃ?」
「再臨ってやつじゃないが・・・似たような状況で上手くいった事がある。今回も同じ結果になるよう祈ろう。」
サレナの元へ急ぐブロック。その間にも、サレナの体はシェリルによって斬りつけられている。
「このままじゃ間に合わない!僕の力が残っていれば・・・!」
「力・・・なぁ、これでお前が言う力を補充出来ないか?」
ブロックはつけていたリングを外し、コウに手渡した。渡されたリングを見たコウは、リングに不思議な力が宿っている事に気が付く。それはミオやファルミリオが持つシシャの力に似たものだった。
「このリング・・・どこでこれを?」
「説明は後でしてやる!今聞きたいのはやれるのか、やれないかだ!」
コウはリングを両手で握り、おでこを両手に当てる。目を閉じ、リングから感じる力に集中していると、どこか遠くの方から音が聴こえてくる。重苦しく、それでいてどこか開放的になれるノイズ音が。
そのノイズ音に意識を近づけていくと、暗闇の中で微かにビジョンが視えてきた。巨大な風車のような姿をした何者かの姿を。
瞬間、コウの体に異変が生じた。さっきまでカラカラだった力が沸き上がり、全身に痺れるような激痛が走る。
この痛みには覚えがあった。ファルミリオに力を分けてもらった時に感じた痛みと似た痛みだ。
全身の痛みが無くなるとコウの体には以前にも増した力が流れており、あれだけ重かった体が軽く思えた。
「どうだ?何か手応えが・・・お前、背伸びたか?」
「え?」
ブロックに言われ、コウは自分の体を見まわした。言われてみると、さっきまでよりも体は大きくなっており、鏡に映った自分の顔は大人びていた。
「また成長した・・・やっぱりこのリングは・・・いや、今はそんな事を考えている暇なんてない!車を止めろ!」
先程までの自信の無い声のコウとは違い、自身に満ち溢れた声と表情にブロックは車を止めた。
コウはすぐに車から降り、サレナの方に目を向けた。すると、サレナの胸の中心部分に禍々しいオーラを発する種を目にする。
「視えた!」
コウは空高く跳び上がり、右腕に自身の力とセレナを助けたいという想いをエネルギーに変えた想力を乗せ、右手から黄金のビームを放った。
コウが放ったビームはコウの狙った場所へと正確に伸びていき、サレナの胸の中心を貫いた。
すると、灰色のサレナの体が崩れていき、花が根付いていた場所には人間の姿へと戻っていたサレナが倒れていた。
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